①クロリア第十六駐留所
ビーッというブザーの音で、俺は慌てて飛び起きた。里菜から聞いた短剣の力について考えてたはずだったのに、いつの間にか眠り込んでたみたいだ。それこそ夢みたいな話だったけど、里菜は短剣が何か教えてくれると信じているらしい。俺は白昼夢で行動を決めるなんて非合理すぎるって言ってやった。まあ、これで本当に星があれば考えてみてもいいけど。いや、無いと困るんだけど。
俺は里菜の言うとおりにしたのを若干後悔していた。里菜があんだけ自信ありげに言ってきた座標だけど、本当に惑星が、それも俺たちにとって安全なのがあるんだろうか。
目の前の画面に「目的地接近中 通常空間に戻る準備をせよ」と表示されていた。天窓から見える景色は相変わらず真っ白だ。
「着くの?」
後ろから里菜の声が聞こえた。俺と同じだけ寝たにしては、疲れたような声だ。
俺は黙って頷くと、ワープレバーに手をかけた。もう着いたんだ。今更後悔なんて言ってられない。
不安を肺の底に押し込めると、ランプが緑になるまで待って、レバーをゆっくりと押し戻した。
景色が白い線になり、色がついて宇宙空間に戻った。視界を巨大な星が占領している。
「真っ緑」
これが俺の感想だった。
地球の海と陸をひっくり返して、陸を全部森にしたような感じだ。人が住んでいるのかもよく分からない。とにかく、星はあった。
「で?」
「で?」
俺のセリフに対して、里菜がそっくり同じに返してきた。
俺は深呼吸をして落ち着く。
「どこに降りりゃいいのかって聞いてんだよ」
里菜、思考タイム。しばらく待った末の答えは。
「分かんない」
短剣パワーも当てにならんな。
俺はとりあえず惑星の周りを一周してみる。探査してみると、小さな集落がいくつか。街は見当たらない。そう言えば、文明を嫌った人達が未開発の星に住み着いてるって話を聞いたことがある。つまり政府関連の人民管理施設なんか、住人が受け付ける訳がない。
と、いう事は、どこに降りてもアラルの危険はない、という事だ。
俺は海岸近くに着陸するために高度を下げ始めた。後ろで里菜が寝息を立てているのが微かに聞こえる。お気楽なもんだ。
期待は順調に降下していく。海岸線がはっきりして、雲の隙間から森が見える。
次はこのレバーでエンジンを切り替えて、と。
『降下中の宇宙船! 船籍を送信の上、着陸理由を述べよ!』
いきなりスピーカーが怒鳴って、俺の心臓が飛び上がった。機体が斜めに傾いて、慌てて直す。
「何?」
里菜も目を覚ましたらしい。身を乗り出してくる。
『宇宙船! 船籍を送信せよ!』
またスピーカーが叫んだ。どうやらある程度の文明はあったらしい。
待てよ、船籍って、戦闘機(これ)の船籍正直に言ったら、身が危ないじゃないか。少なくとも相手はアラル軍じゃないだろうし。俺は通信機の送信スイッチを押した。
「えっと、俺たち逃げてきたんです。地球って所からなんですけど」
『……ではアラル軍籍の宇宙船か?』
上からものを言うような話し方だ。俺はちょっと大声になる。
「ええでも、俺たちアラル軍じゃないです! 盗んできたから」
『…………』
スピーカーが黙った。上司にでも相談してるんだろう。
首を俺の横まで伸ばしていた里菜が、ごくりとつばを飲んだ。
『分かった。では今送る地点に着陸せよ』
画面がこの星の地図を表示する。一点が赤く光っている。
俺はその方向に向かおうとして、もう一度送信スイッチに触れた。
「あなた方は誰ですか? 一応お聞きしたいのですが」
『知る必要はない。戦闘機に乗ったままつべこべ抜かすようなら、撃ち落してもよいと判断する』
「りょーかい」
俺は通信が切れてからつぶやいた。
「短剣が判断間違えたかなあ」
隣でぼやく里菜の顔を、俺は片手で押し戻した。
「座ってシートベルト締めとかないと、吹っ飛んでも知らねえぞ」
「んぎゅ」
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最終更新:2012年01月20日 16:13