ステラ・プレイヤーズ 8*大町星雨

 私はパネルに目をこらした。一つだけあがっていないレバーがある。きっとあれだ。
 短剣を上向きに構えると、レバーを突き上げるようにゆっくりと短剣を上に動かした。
 レバーが上がり、カチンという音がしたような気がした。
 背後で機械音がして、冷たい風が、大量の雪と一緒に吹き込んでくる。気おされたように、弾の数が一気に減った。
「こっちに乗れ!」
 大斗の声ですぐ横の戦闘機に飛び乗る。吹雪のせいで足元が不安定だけど、だてに雪国で育ってきたわけじゃない。
 前の席で大斗が何やらいじってたけど、じきに低いエンジン音とともに宇宙船が動き出した。透明なカバーが頭上で動いて、吹雪を遮断する。
 弾が何発か飛んできたけど、視界が悪いおかげで全部それていった。
「やっぱゲーセンも馬鹿にできねえな! アラル軍機のシューティングゲームそっくりだ!」
 大斗が操縦桿を引きながら、エンジンの音に負けない声で叫んだ。
「よっしゃあ、一気に上がるぞ!」
 その声は必死に逃げてるというより、ジェットコースターを楽しんでるかのように弾んでいた。背中が座席に押し付けられて、戦闘機はぐんぐん高度を上げていく。後ろを振り向いて見ると、既に基地は吹雪の向こうに消えて、追ってくる宇宙船の影もなかった。雪が横に降っている。風にあおられて、機体ががたがた揺れる。
 少しは肩の力が抜けたけど……ちょっと吐き気がしてきた。ゲーセン仕込みの運転のせいかな……。

 宇宙空間に出ると、大斗が機体の向きを水平に戻した。ボタンを楽しそうに、てきぱきと弾いている。
「おお、ハッキングした時の内容そのまんま。じゃあこっちがマップキーだな――」
 発進の仕方といい今の手さばきといい、ハッキングした内容を全部覚えられるっていうのは本当らしい。不器用な私は黙って座っている事にした。
 しばらくして、大斗の悩む声が聞こえた。
「一応、ワープできる場所を検索してみたんだ」
 確かに目の前の画面には、地球を中心とした円とその中の惑星が映っている。
「問題あるの?」
 私のセリフに、大斗がため息をついた。
「これは戦闘機なんだから、登録してある星はアラル軍に都合のいい場所、例えば軍の専用星なんかが多いはずだろ。うかつに飛べねえよ。それにのんびりしてもいられねえみたいだし」
 後ろを振り向くと、日本列島のほうから点が近づいてくるのが見えた。戦闘機が追ってきたんだ。全く次から次へと!
「前からも来てる」
 私は画面をじっと見た。星が登録されてない所に飛んで、そこに星があるのを期待するっててもあるけど、最悪どの惑星にも着けずに燃料切れなんて事もある。その結末は……あまり考えたくない。どうしたらいいんだろう。
「あと三十秒で射程距離だ」
 大斗の焦った声がした。私は無意識のうちに手もとの短剣を握り締めた。

 宇宙船の操縦席に座っている。任務もこれで終了だ。走査すると、画面に一つの惑星とその位置が現れた。時間も無いし、ひとまずここに行こう。ボタンを押すと、背中が押し付けられるような感覚と共に宇宙船がワープ空間に入った――。

「大斗! この位置に飛んで!」
 私は画面に触れてその場所を呼び出した。この戦闘機のデータでは、星は存在していない。
「里菜?」
「いいから早く!」
 大斗はつかの間迷っている表情を見せたけど、機械が接近警報を鳴らし始めたことで決心がついたらしい。ぐっと機体を暗い宇宙に向けて、ワープレバーを引いた。
 戦闘機も地球も、色とりどりの線になって、消えた。



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最終更新:2012年01月20日 16:10