ステラ・プレイヤーズ 5*大町星雨

 私はあごの下で手を組んだ。考えるしかない。次に何をするのか、何をしたらいいのか。
 まず、よく分からない単語がいくつもあった。……とりあえずパスだ。
 明日機械が届いたら、短剣の場所はほとんど特定されてしまう。なら、短剣を捨ててしまったほうがいいかな? でも、今捨てたら相手に気づいたことを知らせてしまうことになる。
 でも、逆に持っていたら自分の居場所を教えることになるよね。
 こっちから持ってってあげたら助けてもらえるかな。たまたま困ってた人から買っただけなんですって言って。あ、「秘密を知った以上生かしておけん」とか言われて殺されちゃうかも……。大体短剣を探してる事知ってる時点でおかしいし。通信傍受したのバレバレじゃん。
 それにそんな事したら父さん母さんとか兄貴とかにも絶対迷惑かけるよね。
 じゃあ私の家にあるってばれる前に、短剣をどこか遠くに持っていこうか? でも探査機の捜索範囲はすごく広いかもしれない。県内、国内、もしかして地球全部?
 私はイスに寄りかかってうめいた。そんなに広かったら逃げようないじゃない。宇宙船があるわけじゃあるまいし。
 宇宙船。頭の中に、成田空港の様子が浮かんだ。あんな大きな船じゃなくても、小さな戦闘機なら基地にもにあったはずだ。それに乗ればいい。
 考えてから、自分の考えに驚き呆れた。十四歳の人間が軍の基地に忍び込んで、宇宙船を盗んで、しかも逃げ切ろうなんて! バカもいいとこ!
 でも、何もしなくても結局捕まるわけで、今聞いた通信の内容から考えて、あまりいい扱いは期待できない。なら、たとえ突拍子もなくても行動した方がましかもしれない。
 私はしばらく計画を練って、パソコンに向かっている大斗に言った。
「自衛隊基地にハッキングすることって出来る? それで、中の地図とか宇宙船の操縦の仕方とか、分かるかな?」
「基地に……」
 大斗が画面に向かったままポツリとつぶやいた。しばらく固まっていた後、急に振り向いた。真剣な顔が崩れて、目をきらきらさせだしている。
「よっしゃ! 任しとけよ! アラル軍か。今までは通信傍受ばっかりだったしなあ。地図なんかだと、やっぱり厳重に管理されてるんだよな……」
 私のことなど忘れたかのように、宙を見てぶつぶつつぶやいている。ああ、完全に自分の世界に入ったな。
 その後、私はあっという間に部屋を追い出された。後ろでドア(クローゼットだけど)がばたんと閉まる。
 まあ大斗のことだから、今日の夕方には必要な情報を教えてくれるはずだ。
 私はそう願いながら自分の家に帰った。
 夜のニュースで、明日は夜明け前から吹雪だと言っていた。

 私の部屋と兄貴の部屋は、入口が同じだ。入った目の前に天井まである棚があって、それが壁の代わりになっている。左に入ると私の部屋。右は兄貴の部屋。
 こういう日に限って、兄貴はなかなか寝ようとしなかった。私は布団にもぐったまま、目はじっと開けて、兄貴が寝るのを待っていた。
「里菜、まだ起きてるのか?」
 兄貴がいきなり声をかけてきた。私はベッドの上で体を固くした。返事はしなかった。
 しばらく棚の向こうは静かだった。やがて、いすを動かす音がして、電気が消えた。布団にもぐりこむ、衣擦れの音。
 私はそれからまた動かずに待った。棚の向こうから寝息が聞こえだしたのを確かめてから、私はそっとベッドから這いだした。昼のうちにベッドの下に隠しておいたリュックサックとスキーウェアを取り出す。音をさせないように着こんで、短剣を内側のポケットにしまう。リュックの中には、少しの洋服と食料、大斗からもらった脱出に必要な器具。やり方を忘れた時のための、脱出の順序を書いた紙。それだけ。宇宙に出たら財布の日本円を使う所なんてない。家族や友達と連絡をとる事もできない。電話もメールも届かない場所なんだから。
 思わずのどや目が熱くなってきて、私は慌ててこの事を考えるのをやめた。この脱出が失敗したら、生きてまたここに帰って来ることすら出来なくなる。今は、無事にアラルから逃げることだけを考えないと。
 私はリュックを背負うと、兄貴の部屋を見ないようにして、足早に自分の部屋を出た。
 外は激しい雪で、それでいて全ての音が消えてしまったように静かだった。
 目的地は町の外れ、林の向こうにある、アラル軍の基地。



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最終更新:2012年01月20日 16:03