ダンゴムシは口を閉ざす 6 *小豆

「やぁ、パダン。今日は君に教えたい事があるんだ」
 パダンは何も答えません。パジルをじっと、恨めしそうな目で見つめるだけです。
パジルは少し気圧されて後ずさりしました。
「どうしたんだい、君はつんぼにでもなってしまったのかい? 言いたい事があるのなら言ってみたまえ」
 パダンは目に涙をためていました。
 パジルが続けて何か言おうとしました。パダンはパジルが口を開く前に、体をぶつけてパジルを外に押し出そうとしました。
「おい、君、いったい何をするんだい!」
 パジルが慌てて身を引きます。それでもパジルは押し出すのをやめませんでした。気がつけばパジルはダンゴムシの集落から追い出されていました。
 パジルは冷や汗をかきながら、それでも笑みは崩さずに言いました。
「おいおいパダン、君は一体何がしたいんだ」
 パダンは返事をせずに背を向けて、ダンゴムシの集落に戻って行きました。パジルは外にポツンと取り残されました。
「全く、これだから頭の悪い奴は!」
 パジルは、フン、と怒って行ってしまいます。
それから、二匹が会う事は二度とありませんでした。


夏がお休みをとって、秋の風が木々の葉に愛をささやき始めた頃。
山のふもとから虫達の声が聞こえてきます。
「ワラジムシのパジルを知っているかい?」
「ああ言えばこう言う?」
「とっても有名だよね。今や知らない虫はいないさ」
「でも、あいつを始めに、どうも好かないなぁ、あの集まりは」
「いいさ。偉い、偉い、って褒めてれば害はないんだからさ」
「そう言えば最近、岩の下にあるダンゴムシの集落の長が代わったらしいじゃない」
「あぁ、とても若いんだってねぇ。それでいて謙虚だとか。ダンゴムシ以外の集落からも、頼りになるって信頼が厚いんだってさ」
「へぇ、偉いんだなぁ」
 今日も空を太陽が通ります。
光が世界を駆けぬけて、時間が虫達の背中を押しています。




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最終更新:2011年11月21日 20:23