ダンゴムシは口を閉ざす 5 *小豆

「今、オオカマキリのオオマさんと共食いの可避性と生物的倫理について話しているんだ。邪魔をしないでくれ」
「パジルくん、お願いだよ、聞いてよ。さっきの事なんだけど、僕はどの虫も好きな食べ物が違うねって言いたかったんだ。それ以上でもそれ以下でもないんだよ。そう言っているのに、他の虫は頭が良すぎて僕の話をきちんと聞いてくれないんだ」
 パダンは懸命に言いました。なんとか友人の誤解だけでも解きたいと必死でした。でもパジルの返した言葉はひどいものでした。
「おいおい、パダン、さっき僕に言っていた事と違うじゃないか。君はカブトムシとチョウに落ち葉を食べている事を馬鹿にされたと言っていた。自分に都合が悪くなったからって意見を勝手に変えないでくれ」
「僕が話しているとちゅうで、君が勝手に出ていってしまったんだ」
 パジルは一瞬、言葉につまりました。側で聞いていたカマキリが、びっくりしたようにパジルを見て、本当かい、と驚いていました。
 パジルは目をきょろきょろさせながら、突然、声を張り上げました。
「あぁ、始まった、始まった! 言った言わなかったの掛け合いは無駄でしかない! 君とは話す価値もなさそうだ! 失望したよ!」
 おや、とカマキリがパダンを見ました。その目には怒りの色が含まれていました。
「そんな、ひどいや」
 パダンは目に涙をためました。そんなパダンを見て、パジルは冷たく笑います。
「客観的に見てもひどいのは君だ! 全く論理性を欠いている! 話にもならないとはこの事だ!」
 パダンはしょんぼりとうつむいて、パジルに背を向けました。後ろからパダンの鼻で笑う音が聞こえてきます。パダンの胸は、はり裂けていました。様々な虫達の声が飛び交う中、パダンは誰とも目を合わせないようにしながら、その場から姿を消しました。


 虫の騒がしい集会はしゃべり疲れた虫から帰り始めていました。
「いやぁ、今日は高名なナナホシトントウのオレオ先生と話せて本当に良かった」
「僕は木々のささやきの解読について知識を深められて本当に良かったです」
「それにしてもワラジムシのパジル君は大した論客だ。若手の一番星だな」
「あれ、そう言えば何か別の話題で集まった気がするのですが」
「そんな集まりだったのか?」
「あれれ……?」
「ははは、しっかりしたまえ」
 笑い声が遠ざかって行きます。そして誰もいなくなりました。
一日で何匹もの識者と話をして、とても賢くなった気がしているパジルは、パダンにした事をすっかり忘れて、どれ、パダンにも少しこの知恵を分けてあげようと彼の家を訪れました。しかしそこにパダンの姿はありませんでした。
「おや、どうしたんだろう」
 パジルはパダンを探しに、様々な虫に尋ねて回りました。議論を交わして仲良くなった虫達です。どの虫もパジルと会うと、みんな笑い、協力してくれるのでした。
「そう言えば、ダンゴムシの集落に新しく移り住んだダンゴムシがいると聞いたよ」
 それを聞いて、パジルはパダンに会うためにその集落へ出かけて行きました。パダンはすぐに見つかりました。

















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最終更新:2011年11月21日 20:20