ダンゴムシは口を閉ざす 4 *小豆

──僕はただ、友達のパジルに、みんな好きな食べ物が違うんだね、って話しただけなんです。パジルは勘違いして色々な虫に話してしまっただけなんです。落ち葉がこの世で一番おいしいとは思ってますけど、それは僕がダンゴムシだからです。カブトムシさんが樹液を一番おいしいと思うのと同じです。チョウさんが花の蜜を一番おいしいと思うのと同じです。みんなに押しつけようとか、そんな事は何にも考えていないのです。
そのタイミングは永遠にやって来ないようにパダンには思われました。マシロが何か言うとクロキは冷静に一言返し、するとマシロはその数倍の言葉を吐くのです。何回もそれが繰り返されました。
パダンは他の虫に先を越される事になりました。カブトムシが無理に割って入り、クロキに喰ってかかったのです。
「おい、てめぇ! カブトムシを馬鹿にすんなぁああ!」
クロキの発言が気にさわったようでした。クロキは驚いてそのカブトムシに問いかけました。
「僕が何を言ったんだい?」
「すっとぼけんなぁああ! このすっとこどっこいぃいい!」
 カブトムシが、今にも自慢の角でクロキを突こうとします。そこにクワガタムシが割って入ってクロキを守り、空気を震わす怒鳴り声をあげました。
「カブトムシぃいい! 静かにしろやゴラァぁああ! 他の虫に迷惑だろうがぁああ!」
 カブトムシがそれ以上の声で怒鳴り返します。
「やんのかクワガタぁああ!!」
「望むところだカブトのデコ助がぁああ!」
 パダンは身を縮ませて二匹を見ていました。カブトムシとクワガタムシは、互いをにらみつけながら、今にも角と顎を使って戦いを始めそうで恐ろしかったのです。
この喧騒を皮きりに、あちこちで騒ぎが始まりました。集まった虫が全員、一斉にしゃべり始めたのです。
 パダンはその騒ぎに耳を傾けていて、胸が苦しくなってきました。どれもパジルから聞きかじったパダンの主張をけなしたり、非難したりするものだったからです。直接パダンの口から意見を聞くべきだ、と反論している虫もいますが、私が間違った情報を握らされているとでも言うのか、とか、あの虫がそんないい加減な意見を広めるわけがない、などと主張したり怒り始めたりする虫がいるせいで、パダンに意見を聞きに来る虫は全くいませんでした。
 パダンは、待っていても駄目だ、と周りにいる虫に片っ端から話しかけ、真実を伝えようとしました。 でも、誰も口下手なパダンの言葉など最後まで聞こうとしませんでした。集まってきている虫達は、議論が好きな頭の良い虫達がほとんどでした。そして頭の良い虫達のほとんどが、話すのが下手なパダンを見下すのでした。
 パダンが大きな目をしたオニヤンマと話した時の様子です。
「パジルの言っている事は正しくありません」
「君の言う『正しい』の定義を聞かせてもらいたいものですな。頭の悪い虫は定義をすり替えて話すから困る」 
「テイギ? テイギってなんでしょうか」
「はっ! どうやら君とは話す価値も無いようだ」
 オニヤンマは、ぷいっ、とパダンから顔を背けて、別の虫と話しはじめました。その時のオニヤンマの顔は、パダンと話す時と比べてとても楽しそうでした。
 パダンは話しかける度に、定義があいまい、じれったい、聞いていて疲れる、説明が下手すぎる、言っている意味が分からない……というたくさんの理由(本当に、本当にたくさんありました)で自分の話をきちんと聞いてもらえませんでした。
色々な虫に爪弾きにされながら、パダンは虫達の間を通っていきました。すると遠くに、カマキリと論争をするパジルの姿がありました。パダンはやっと見つけた友人の姿に足を速め、後方からチョンチョンとつつきました。パジルは迷惑そうにパダンを見ました。



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最終更新:2011年11月21日 20:21