ステラ・プレイヤーズ〔ⅲ〕 10*大町星雨


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 俺は部屋に駆け込むと、隅に小ぢんまりと押しこめられているパソコンをのぞきこんだ。マウスをいじって、すぐに安心して息をついた。何でもない、前からいかれてたデータの異常だ。いつかこうなるとは思ってた。俺は軽くキーボードを叩いて壊れたデータを消すと、肝心の暗号データを開いた。
 こちらも大したことはなかった。アラル軍部向けに発信された、大統領の演説画像だ。立体画像を強引に平面の画面に映しているから、ボールの上に貼り付けたみたいに隅の方がゆがんでいる。本当は新しい立体映像装置がほしいけど、クロリアで生活してるとそうもいかない。こうやってスクラップ寸前のコンピュータを掘り出してくるのが精いっぱいだ。
 俺はしかめ面をしながら床にあぐらをかいて、画像を再生した。
『――から、クロリアを倒すという君たちの信念はこの世界全体にとって有益となるはずだ』
 耳に突っ込んだイヤホンから、大統領の力強い演説が聞こえてきた。それに合わせて画像の中で腕を振る。地球でもクロリアに来てからも、何度も見て、すっかり見慣れてしまった顔だ(ちなみに開かれた軍であるべきというロータス指揮官の考え方から、クロリアでは敵の情報を入手する事に規制はない)。
 はっきり言ってしまうと、俺は最初ネシャト大統領をテレビで見た時、とてもいくつもの惑星を束ねる大統領だとは思えなかった。会見を待っている彼は小柄で、茶色の目がよくあちこちに動いていた。一見気の弱そうな男性で、固そうな黒い髪がそれを強調していた。
 その印象が覆されたのが、彼とアメリカの大統領との会談映像だった。そこで話している彼の眼は意志の強そうな光をたたえていて、口調も聞いている人を圧倒させるような響きがあった。さっき言ったようなマイナスの特徴はその裏にすっかり隠れてしまう。つまり、周りに呼びかける時こそ最も彼の能力が発揮される場面だった。
 今も演説台に立ってアラル軍に呼びかけるネシャト大統領はリーダーシップのある人間、という評判を見事に表していた。
「ティート、そんなの聞いててよく嫌気がささねえな」
 その声に顔を上げると、マーウィが部屋に戻ってきて、コンピュータの画面を覗き込んでいた。手には食堂から拝借してきたらしいアルコール缶がある。俺はイヤホンの片方を取って答える。
「少なくともいい気分で聞ける内容じゃないけどさ。でも、この弁論術は尊敬に値すると思うぜ」
 マーウィが賛成とも反対ともつかない顔で頷くと、俺の横に座った。
 画面では、ちょうど大統領からカメラが切り替わり、後ろにいる高官たちを映しているところだった。マーウィがその中の一人を指差す。
「こいつだっけ、アラル軍を率いてる将軍って」
 俺もその男を見ながら頷いた。
「たしか、クルナス将軍。大統領の腹心の部下って事で有名だよな。確かあの機械操縦の戦闘機開発を考えたのもこの人だったはずだ」
俺は口元で微かに笑いながら将軍の表情を見た。顔に出さないよう努力してるみたいだけど、眉間にしわが寄っているのが分かる。マーウィも缶を傾けて、楽しそうに笑った。
「さぞかしご不満だろうな。例の裏切り攻撃で、アラルは全然新型戦闘機を出せなくなっちまった。むしろそっちの製造にかかりきりになってたせいで、全体の宇宙船の数は少ないぐらいなんだってよ」
「ちょっと残念だな。俺たちの仕事が減る」
 俺が冗談交じりに笑った。まさかそれが地球人のハッカーのせいだなんて思ってもみてないんだろうな。俺が出撃するたびにプログラムを書き換えてやってたのがよっぽどこたえてたらしい。
マーウィが俺の方を向き、不意にまじめな表情になった。
「ティート……」
俺が返事をする暇も無く、マーウィはすぐにいつもの明るい顔に戻り、パンと膝を叩いて立ち上がった。
「忘れるとこだった、作戦会議があるからお前を呼びに来たんだよ。早くしないと始まるぜ」
 俺は分かった、と返事をしてパソコンの電源を落とした。アラル軍基地の前でこれをいじって、半泣きになっていた里菜の顔を一瞬思い出して、はっきりと自覚する前に消えた。台風が過ぎた直後のように、里菜に対する感覚はすっかり静まり返っていた。代わりにそのエネルギーがどこか別の場所、別の感情の中で燃え盛る炎のように動いている気がした。
 里菜を殺した奴らを許しはしない。

                   続く……



戻る       2011杏夏部誌に戻る















.