ステラ・プレイヤーズ〔ⅲ〕 9*大町星雨


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⑤台風の過ぎた後のように
 俺がいつものように人目を避けて訓練に集中していると、横の訓練装置に人が乗ってきた。こんな時間に珍しい。しばらく無視して自分の操作にかかりきりになっていたが、今度は隣の音が気になり始めた。何しろ、やたらレーザー弾の発射音がするくせに命中音がなく、戦闘機がやられたことを示すブザーが何度も聞こえてくる。要するにめちゃくちゃ下手くそ。いつもなら他も騒がしくて気にならないんだけど、今は二人だけだ。
 俺は自分の機械の電源を落とすと、キャノピーを上げて隣を覗き込んだ。ちょうどブザー音が鳴り響いて、乗っていた人が頭を抱えた。横で俺が見ているのに気づいて、キャノピーを上げた。
「トレーンさん、戦闘機にでも乗る気ですか?」
 俺は少しばかり呆れながら、それを表情に出さないよう気を使った。自分の足で歩いててもけがする人が、何で宇宙船なんか。
 トレーンさんは眼鏡を押し上げて、照れたように笑った。
「いやねえ、リナさんがいなくなってから研究に張り合いがなくなっちゃってね。かと言って他の研究や仕事をする気にもなれないし。それでせっかく軍の駐留地にいるんだし、船の乗り方ぐらい覚えようかなあ、と思ってさ」
 肩をすぼめながら言うトレーンさんを見て、俺は軽く息をついた。でも大勢の目の前でやってからかわれるのが嫌で、こうして人のいない時にやるって訳か。
「でも戦闘機の操作って難しいんだよね。これがエンジン速度切り替えレバーで、こっちが銃の強さ調節レバーだよね。で、このボタンは」
「ちょっと待ってください。最初っから逆です」
 それからは、暇があるたびにトレーンさんに操縦を教えるようになった。飲み込みが悪い上に操作に手間取るせいで、上達は恐ろしく遅い。でもそのせいでこちらも必死に教え方を考えるようになり、次第に里菜の事を考える時間が減っていった。減ったというより、折り合いをつけられるようになってきた。
「こういう時は一旦八の字に操縦して、スペースのある所まで持ちこたえた方がいいです。いや、機体安定装置はこっちで――」
 明かりがほとんど落とされた中で授業をしていると、背後でドアの開く音がした。顔を上げて振り向くと、ミラとマーウィが入ってきたところだった。アルタは最近別の基地の任務に就いたとかでほとんど見かけない。ミラが歩み寄ってきながら、俺たちの方を見てにやりと笑った。
「こそこそしないで、特別レッスンするんなら私達も誘ってくれればいいのに。教師は三人の方がはかどるよ。夕飯終わる度にどっかに抜け出してるから、何企んでるのかと思ってた」
 どう答えるべきか迷っていると、マーウィが反対側から操縦席にかがみこんだ。
「燃料が切れかかってるぜ。ここは隙を見て母艦に引き返さねえと」
 急に別の人にも操縦を見られたせいか、トレーンさんが焦った。操縦桿を回し過ぎて、あろうことか味方の機に衝突してしまった。次の瞬間画面がブラックアウトする。間抜けなブザー音が、静かな部屋に響いた。
「実戦じゃなくて良かった」
 ミラが俺の後ろから茶化した。トレーンさんが眉を寄せて、珍しく勢いよく言い返した。
「よおし、もっと練習して上手くなってやる! そして実戦にも参加……はしないけど」
 急にしょげかえって、梅干を食べた時のような、変な表情になった。それを見てマーウィが吹き出す。ミラも、つられてトレーンさんも、とうとう俺まで吹き出してしまった。笑い始めるとそのこと自体が面白くなって、しばらく腹が痛くなるまで、思いっきり笑い転げた。
「そうだ、今度アラル軍の基地に奇襲かけに行くんだけど、ティート(大斗のなまり)も来る?」
 マーウィが笑い涙を拭きながら言った。俺はお腹を抱えながら、トレーンさんをちらりと見た。
「俺が行かなかったら、代わりにトレーンさんを連れてくのか?」
 マーウィが再び笑い出した。ひいひい言いながら、もう勘弁してくれとか何とか言っている。トレーンさんはと言うと、ひどいなあとぼやきつつ、顔は笑っていた。
「じゃあ行くってことでいい?」
「おう!」
 ミラに肩を叩かれて、俺は元気よく胸を張った。
「それから、ティートが部屋に持ち込んでる古パソコンの山、出てくる時何か変な音出してたよ。大丈夫?」
「うわっ」
 俺は笑っていた顔を引きつらせると、トレーンさんたちそっちのけで訓練場から駆け出した。確か、受信したアラルの暗号データを分析させていたはずだ。あまり重要そうじゃなかったから油断してたけど、アラルがデータをハッキングしようとする人に対して、ウイルスか何かをしかけていたら!



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