ステラ・プレイヤーズ〔ⅲ〕 8*大町星雨

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 また何かがぶつかる音がして、戦闘機が揺れた。それでも何とか持ちこたえてくれている。
「そっちからは仕掛けてくる気ないの」
 音が止んだかと思うと、ウィラの大声が聞こえてきた。大声でも冷たさを失っていないところはさすが。私も戦闘機の下から顔をのぞかせて言い返す。
「まだ習ったばっかりなのに、そんなに上手くできるわけないでしょ! 攻撃だってろくにできないし、防御なんてやったことすらないんだから!」
「なら避けろ」
「無茶言うなって!」
 そこで向こうからかなり大きな物体が飛んでくるのが目の端に見えた。あれがぶつかったら今度こそやばいかも。
 私が戦闘機の陰から走り出すと、背後で今日一番の破壊音が聞こえた。肩越しに振り返ると、タンスに吹き飛ばされた戦闘機が、さっきまで私がいた場所にスローモーションのように崩れ落ちていく。私は体の血がすっと足元に落ちていく感覚を味わった。
 ウィラ、まさか私を殺す気じゃないでしょうね。
 戦闘機に気を取られている間に、ウィラの方からまた何か飛んできた。どうにか木の裏に隠れた、はずだった。
 幹を回りこんできた鉄パイプに気付いた時には胸元に衝撃が走っていた。肺の空気が全部押し出されるのが分かる。不思議と痛みは感じない。勢いよく地面に叩きつけられて、ようやく痛みの感覚が戻ってきた。土の臭いが鼻をつく。
 急いで起き上がろうとしたけど体が動かない。首を動かしてみると、胴体の上に鉄パイプが浮いていて、それが体を押さえつけていた。仰向けのままその下から抜け出そうとすると、鉄パイプの高度がぐっと下がって、私の体を地面に固定した。
 そうやってもがいているうちに、足音が近づいてきた。顔の上に影が落ちる。見上げると、ウィラが無表情にこちらを見下ろしていた。人差し指を真っ直ぐ私に突きつけている。暗がりの中で、腕輪の文字の光がゆっくりと消えていった。
「クシェズ トアド(勝負あり)」
 ウィラが静かに言った。その後何も言わずにきびすを返す。遠ざかっていく音が聞こえる中で、私の上にあった鉄パイプがゆっくりと移動して、私の横で地面に落ちて転がった。
 私は数秒地面に寝転がっていた後、肘を使って起き上がった。胸の辺りがはれたかのように痛い。深呼吸してどうにか肺に空気を入れようとする。遠くの方でウィラが話しているのが聞こえた。
「リナは練習しても意味なんかないですよ。まだ訓練するとしても、私は絶対教えたくありません」
「ウィラ、誰もが一回で覚えられる訳じゃないでしょう。演習だって乱暴すぎるわ」
「乱暴? 私は投げる物にちゃんとクッション効果が効くようにしていましたけど。それにリナは、一つぐらい覚えてて、反撃できても良かったんじゃないですか? でもリナはただ逃げてただけ。ちゃんと見てたんですか、ルリィア(先生)?」
 サラがまだ呼び止めようと声を上げていたが、それ以上ウィラの声は聞こえてこなかった。
 サラがさっきいた部屋の中央で話していたのなら、ウィラはわざと私に聞こえるよう大声で話したことになる。私は胸を押さえながらため息をつくと、クラルを持った方の手を地面について立ち上がった。クラルを鞘に収めながら、サラの所まで戻った。全然戦い方覚えてなかったからっていっても、全然反撃できなかったのが悔しかった。
 サラは閉じた扉の方をじっと見ていたが、やがて息を吐きながら首を振った。困ったような目で私を見る。
「怪我は無い?」
「いいえ全く」
 私は胸を押さえていた手を下ろして、首を横に振った。その拍子に心臓の辺りがずきりと痛む。サラは長いポニーテールを揺らしながらまたため息をつくと、無造作に腰の短剣を抜いた。動かないで、と私に声をかけると、クラルを片手で持って、自分の顔の前に構えた。小声で何かつぶやく。
 ふっと胸が軽くなって、痛みも消えた。口を開きかけた私を、サラは手で止めた。そして私を待たせると、どこかに行ってしまった。
 しばらくして戻ってきたサラは、男の人を一人連れていた。二十歳位で、茶色の髪と目。白い半そでにジーンズ地のベストとズボンを着こなしている(見ていてこっちが寒くなってくるのも事実)。
 私はその人に見覚えがあった。食堂でタセン君が紹介してくれた人で、確か……ソシン・タダキス。背中に長剣型のクラルを背負っていて、腰のポーチには沢山の種類の薬草が入っている。ついこないだ一人前のオルキーランになったばかり。しょっちゅうあちこちをぶらついていて、なかなか捕まらないことで有名。
 ウィラとは対照的にほとんど日に焼けたことが無いような白い肌で、おまけに背が高い。つまり美男子度でいったら大斗その他諸々のクラスメイトなんかよりずっと上って事。ちょっとそばかすがあるのが玉にキズなんだけど。
 そして何より私の目をひいたのが、耳の形だった。尖っている。私みたいな尖ってんだか尖ってないんだか位じゃなくて、地球人の耳の端をつまんでふっと上に引き上げたような、きれいな形をしている。
「リナさん、だったよね。サラから君を教えるように頼まれたんだ」
 そう言ってタダキスさんが手を差し出してきた。小指の外側にもう一本指がある。これもソシンさんがルシン人の血を引いている証拠だ。私はその手を握り返した。きゃしゃな体の割に大きな手だ。
「よろしくお願いします、タダキスさん」
「ソシンでいいよ。訓練はウィラがやっただけ? それじゃ最初からだね」
 自分のクラルを肩から下ろしながら、ソシンさんがにっこりと笑った。



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