ステラ・プレイヤーズ〔ⅲ〕 7*大町星雨

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 サラが私を移動させて、重い方の石に座らせた。自分は軽石の方に。そして私の座っている石を見ながら言った。
「これだけのものが持ち上がるようになれば大丈夫かな。明日のオラスの訓練は、いつもの個室じゃなく武道場に来てちょうだい」
 私は瞬きをしながら座りなおした。
「静かな状態でオラスを使うのはほとんどできるようになった。後は日常での練習だけ欠かさないようにしてくれればいい。明日から、肉体的訓練も兼ねた演習をやるわ」
「何をやるんですか」
 私は滑らかな石の表面をなでながらたずねた。学校の体育では、まあ平均的な成績をとっていた。それにクロリアで地上部隊の訓練も受けてたから、体力には少し自信がある。
「それは武道場で、説明するわ」
 サラが少し言葉に詰まったのを見て、私は何となく嫌な予感がした。

 昼食の後、指定された場所に行くと、サラがちょうど準備をしていた所だった。私は武道場に入ってすぐ中を見回して、驚いて眉を上げた。
 「武道場」というからには学校や町の体育館にあるような柔道場や剣道場のような場所をイメージしていた。
 でも目の前に広がっている部屋は、「武道場」より「倉庫」とか「温室」とかいう名前が似合いそうだった。
 まず目に付くのが、五メートルはありそうなずんぐりとした木々。学校の体育館ぐらいありそうな部屋なのに、それが生い茂っているせいで狭く感じる。おまけに枝打ちがほとんどされていなくて、頭上はちょっとした密林状態だ。
 混雑量では地上も負けていない。木はまばらに植えてあるだけだから、地上ではあまり邪魔にならない。ただし、その空いている空間に、ガラクタのたぐいがごろごろしている。ちょっと見回しただけでも、さび付いた宇宙船の一部、元はタンスや本棚だったらしい木材の山などなど。どう逆立ちしてみても、「武道場」とは呼べそうにない。部屋、間違えたかな。
 木の根元にウィラが座って本を開いているのを見て、私の気分は更に落ち込んだ。それはもう、胃袋に石を詰め込まれたように重い。私はこの部屋もウィラもひっくるめて、悪い予感の理由だと理解した。
 部屋の空調装置を操作していたサラが、私に気づいて招き寄せた。私が口を開けようとすると、先にサラが子どもっぽく楽しそうに笑っていった。
「先に言っておくけど、ここは間違いなく武道場だからね」
 質問する前から答えられてしまった。私はずっしりした気分を表に出さないように、ウィラを視界に入れないようにしながら頷いた。オルキーランって……まあ、そこは突っ込まないでおこう。
「これからここで、オラスの実践的な訓練をするの。まずウィラが構え方や動きのコツを教えてくれる」
 そこでサラがウィラの方をちらりと見たが、ウィラは本から顔を上げようともしなかった。サラが呆れたと言うように息をついて、私に向き直る。
「その後試合形式で練習を行う。生えている木や転がってるガラクタは好きに使っていいわ。私は入り口の近くにいるから、何かあったら言ってね」
 そういうと同時に、ウィラが本を大きな音を立てて閉じた。ウィラがこちらに歩いてくるのに合わせるように、サラはどこかに歩いていってしまった。
 ウィラは手首のクラルを回しながら私の前に立って一言。
「クラルを出せ」
 それから攻撃する時、守る時の構え方やクラルの握り方について淡々と説明された。もちろんあの、最低限の情報を与える話し方だ。腕輪型のクラルを持ってるウィラが短剣型の構え方も知っていることには驚いたけど、正直言って次々と教えられるせいもあってほとんど分からない。かと言って質問し返すといやな目で見て、面倒くさそうにもう一度説明する。それを見ているとこっちまで気分が悪くなってくるから、疑問をほとんど飲み込んでしまった。
「で、右手で刃の峰を支える。以上守りの型終わり」
 そうやっててきぱきと教えてくれるおかげで、あっという間に全ての型を教えてもらった。でももちろん、半分も消化し切れていないままだ。
 完全に欲求不満に陥っている私を無視して、ウィラはさっさと入り口で座っていたサラの方に歩いていってしまった。私もしぶしぶ後を追う。
 追いついた時には、ウィラがサラと話し始めていた。
「――もう実戦やっても構いませんよね」
 ウィラが早口で言った。サラが大丈夫なの、と言うようにこちらを見た。
 正直言って用意なんて全く全然できてない。でもここでそう言ったらまたウィラに睨まれながら教わんなきゃいけないんだろうしな。
 私の頭の中で天秤の一方に「不十分な用意での実戦演習」、もう一方に「ウィラの説明もう一回」を載せた。天秤が勢いよく傾き、前者の皿が音を立てて地面に激突した。
「いいです」
 サラはそういった私をもう一度不安げに見た後、私たちを部屋の中心に移動させた。
「ではこれから試合を行います。ルールは三つだけ。クラルを短剣そのものとして、例えば刃で相手を威嚇するようなことはしない。それから相手を傷つけない。一方が相手のクラルを奪うか、打つ手をなくさせたら勝ちね。それじゃあ、互いに挨拶をして」
 私たちはクラルを肩に当てて、コンマ何秒の速さですぐに下ろした。サラの顔は、あえて見ないようにした。数秒の沈黙の後、サラがようやく口を開いた。
「二十秒数えたら始めます」
 それを聞くや否や、ウィラが回れ右をして、手近なガラクタの山に向かった。隠れるのかと思いきや、その中から一抱え位ありそうな物を見つけてはオラスで引っ張り出して、足元に置いていく。私の背中を冷たい汗が一筋伝った。サラが二十まで数え終わる前にと、私も古く傾いた戦闘機に向かって走り出した。サラが二十と言う寸前にその裏に滑り込む。
 ひとまず戦闘機に寄りかかって息をつく。ウィラがどんな攻撃仕掛けて来るんだか知らないけどまずは。
 ドガンと重い音がして思考が中断された。背中に衝撃が伝わってきて、慌てて体の向きを変えた。下の隙間から恐る恐る向こうをのぞく。
 ちょうどイスが戦闘機に向かって飛んでくるところだった。反射的に首を引っ込めると、イスが壊れる派手な音がして、破片のいくつかが座り込んだすぐそばまで転がってきた。
 サラは相手を傷つけるなって言わなかったっけ?



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