ステラ・プレイヤーズ〔ⅲ〕  6*大町星雨

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Ⅷウィラの攻撃とソシンの救助
 キチッという音がして、時計のねじが止まった。私は息をつきながら、枕の上に置いていた時計に手を伸ばし、机の上に戻した。針は私がねじを巻き始めた時間から三〇分くらい後の時間を示していた。
私は額にうっすらとかいた汗を腕で拭いながらベッドに倒れこんだ。もちろん手でやるよりは遅いけど、やっとここまで早くできるようになった。もっと簡単なもの、例えば本の出し入れやクローゼットの開閉はほぼ自然にできる。訓練では、飛んでくるボールにぶつからないように避けたり、一抱えもある石を持ち上げる練習をしたりしていた。
これだってそうだ。私は置いたばかりの時計を見ながら思った。だいぶ慣れてきたからって、ウィラと朝夕の当番を交代してもらった。朝食の時間に間に合わせるために早起きしなきゃならなくなったけど、自分が確実に進歩していくのが楽しかった。
隣のベッドを見ると、ウィラがまだ寝息を立てていた。寝ている時にはきつい表情がとける。この時だけは、ウィラが自分より幼いんだって事を実感する。相変わらず愛想の悪さは変わっていない。最近分かってきたのが、私には特に風当たりが強いって事。もちろんウィラに悪いことした覚えなんか一つもない、んだけど。
そう考えている内にウィラが声を出しながら寝返りを打って、私はウィラから目を反らした。

「そこでかかとの方に重心を持っていって、重力に頼って体を動かして」
 いつもの訓練場。ゴムボールが私の頬のすぐ脇を通過して、サラが前かがみになったまま私の方を見て言った。私はつばを飲み込みながら頷いて、もう一度短剣を片手で握り、目の前に斜めに構えた。サラがボールを拾い上げて体を起こした。
オーバースローでボールを投げてくる。速い。真っ直ぐお腹の辺り。私はとっさにクラルをひねって弾いた。丁寧に手入れされた刃に切り裂かれて、ゴムボールは真っ二つになって私の足元に転がった。サラはうーんとうなって、難しい顔をして、手に持っていたボールで軽く頭の横を叩いた。
「どうしても避けられなきゃそれでもいいんだけど。自分の力だけで避け切れなくても、オラスでそれを強めればできることもあるのよ」
「でもオラスって想いとか意志とかでしょう。オラスで色々、普通ではありえない事は起こる訳だけど、自分の身体能力はこの位って決まってるものなんじゃないですか。今のだってそうじゃないんですか」
 私のセリフに、サラがまたボールで頭を叩いた。
「その、確かにオラスは意志の力だし、根本では体の能力とは違う。でもほら、やる気のある時とない時では記録が変わったりするでしょ。それと同じような感じよ」
 今度は私が顔をしかめる番だった。
「でもオラスでできる事にも限界ってあるんじゃないですか」
 サラはボールをかごの中に投げ込んだ。ドアの方を軽く指差す。
「ちょっと、ついて来て」
 五分後、私はサラに付いて森の中を歩いていた。時々段差を越えるのに手を貸してもらっていたけど、私はずっと遅れ気味だった。サラはでこぼこした地面を苦もなく進んでいく。私が何度もつまづいている木の根を、まるで整備された階段のように軽々と踏んでいく。私が一歩歩くたびに足を取られるコケのじゅうたんの上を、全く滑ることなしに歩く。まあこの辺りは村の人が間伐しているおかげで明るいから、いちいち目を凝らさなくていいのは助かるけど。
 サラが立ち止まって、私を横に並ばせた。腕を伸ばして、十メートルほど向こうにある二つの岩を指差した。
 ちょっと遠いから分かりにくいけど、どちらも同じぐらいで、石と岩の中間ぐらいの大きさだ。今訓練で使っている一抱えほどの石より一回りか二回り大きい。
 二つの違いはその種類だった。ここからでも、黒い油を塗りたくったような鉛色の一方と、白くあちこちに穴の開いた軽石の見分けが付いた。
「離れたところから、どれぐらいの重さのものを持ち上げられるのか見てみたいの。順番にやってみて」
 サラの言葉に頷くと、私は腰からクラルを抜いて、柄を両手で握った。切っ先をまず軽石の方に向ける。
「スデルナオウ トゥイナ(石よ上がれ)」
 これは簡単だった。白い石がクラルの動きに合わせて浮き上がった。肩の高さまで上げて止める。ゆっくりと深呼吸しながら石から視線を外さないようにし、十数えてから柔らかに下ろした。体のだるさを抜くのに、軽く肩を回す。普段は軽石なんて軽いもので練習しないし、もっと遠くからやった事もある。
 横でサラが石の方を見たまま、満足そうに頷いた。
「じゃあ今度はもうひとつのね」
 私は気をひきしめながら、クラルをタール色の岩に向けた。これはかなり重いから、覚悟しなくちゃいけない。
「……スデルナオウ トゥイナ」
 まさに重い腰を上げるかのごとく、黒い岩が上がった。更に上に持ち上げようとする度に、右へ傾き左によろめきする。心地よい陽気の中でも、背中に熱い汗が流れる。
 さっきの半分も持ち上げる前に、岩はオラスの力から離れ、地面に落下した。私もすぐに地面に膝をつき、荒い息を整えた。それが少し落ち着くのを待って、横にかがみこんでいたサラが声をかけた。
「お疲れ様。とりあえずあの石の辺りに行って休みましょう」
 私は何とか頷いて、汗を袖で拭きながら、クラルを鞘にやっと収めながら今持ち上げていた石の所に向かった。一歩先にサラが着いて、石を手で示す。
「好きな方座っていいよ」
 私はすぐに丈夫そうな黒石に座ろうとして、置いた手が止まった。息をつくのも忘れて、目を見開く。急いで隣の白石にも触れる。それを見てサラが、くすくす声を立てながら満面の笑顔で言った。
「驚いたでしょう」
 私はただ頷いた。感情が言葉にならない。
 だって私が今座ろうとした黒石は、手を触れただけで動いた。黒い塗料で表面だけ平らに加工した軽石だったんだから。そして私が軽石だと思っていたのは、表面にでこぼこの白いカバーを被せただけの石。私が体重をかけて押しても、ほとんど動きやしない。
「オラスの力は実際どうかじゃなくて、自分の考えによるものだって事が分かった?」
 私はその言葉に、もう反応すら出来なかった。



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