ステラ・プレイヤーズ〔ⅲ〕 5*大町星雨

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 次の日の朝、機械がエラーを起こした時のような、ピーという音で目が覚めた。
 目を開けて音のする方を見ると、既に着替え終わったウィラが自分のベッドに座り、両手で握った時計をじっと見つめている。音はその時計から発せられていた。
 ねじが、まるでCDか何かが回るように、残像を残しながら回っている。人間の手では到底できない速さだ。最後にキチッとねじを巻き終わる音がした。
 ウィラは時計を私の机の上に置くと、ちらりと私を見てから部屋をさっさと出て行った。
 私は布団の中で複雑な心境と戦っていた。ウィラのオラスってあんなに強かったんだ。でも私が起きてたのを確認してから行くなんて、嫌がらせ?
 私は布団をはねのけながら起き上がると、時計のねじに向かってじっと集中した。
 ギ、と嫌な音がしただけだった。

「里菜はオルキーランの歴史についてどれぐらい知ってるの」
 サラに聞かれて、私は庭で赤い花が揺れているのを見ながら記憶をたぐりよせた。窓が南向きについているから、部屋のなかは明るい。
「あまり詳しくは。かなり昔からルシンにあった組織で、確か殺人禁止と平和が決まり。宇宙大戦終結を手助けしてから世界的に活動するようになって、八年前、ルシン全滅の直前にはルシン人以外も含め百人ほどが所属していたってぐらいです」
 ちなみに今のはトレーンさんの受け売り。
 サラはそれを聞いて頷きながら、古そうな本のページをめくった。よく図書館で見かける、やたら表紙が質素で手に取った人が今までいたかどうかすら怪しいような、あんな本だ。ただしこの本は何度も開いているみていで、所々ページに開き癖がついていて、表紙の端が擦り切れている。
「オルキーランの歴史は、まだ人々が狩りや簡単な農業をして生きていた時代にまでさかのぼる」
 サラが話しながら本の挿絵を見せてきた。壁に刻まれた線でできた絵と、その絵や発掘物から考えられる、昔の人々の想像図だ。
 夜に祭壇(と言っても勉強机ぐらいの大きさ)の前に人が集まって、何かの儀式をしている。もちろん全員ルシン人だ。どの人も鮮やかな服や色とりどりの組みひもを身につけている。祭壇の目の前には一段と飾りたてた女性が、背丈位はありそうな剣を掲げて祈りを捧げている。サラがその剣を指さした。
「これがクラルの原型。もちろんまだ文字はなくて、力の象徴として使われていた。要は祭器だった訳」
 確かにこんなに長かったら実戦には使えない。それでもたいまつの光を反射して光っている様子は、絵でも背中が寒くなるような迫力があった。
 私はそっとページをめくった。古本特有のかびくさい臭いが立ち上る。少し時代が下って、あちこちに小さな国ができている様子が地図で示されている。右端に赤い丸で囲まれた箇所があり、「オルキーランが治めていた国」と書かれている。その下の解説には、このころ組織化されるようになったと書いてあった。
ページをめくっていくと、時代を追って国の勢力があちこちでぶつかっていた。周りが絶えず戦いを起こしている中で、赤い丸だけはほとんど変化がない。でも田舎だった訳じゃなくて、すぐ横で戦いが起きているのが分かる。
「一言で言うと、信念上の理由よ」
 私が理由を聞くと、サラが赤い線を指でなぞりながら言った。
「さっきあなたが自分で言ったように、オルキーランはいかなる理由があっても人を殺してはいけない、と決めていたの。土地柄も悪くなかったから、わざわざ周りに戦いを仕掛けることはしなかった。それに、オルキーランの国は周りが結界に囲まれていて、侵略しようとする人は一歩も中に入れなかった。そしてオルキーランの国は、オルキーランが権力を他の人々に譲り、大陸にできた大国に合併されるまで続いたの」
「そこでオルキーランは途絶えたりしなかったんですか」
 ふとわいた疑問が、そのまま口から出た。大国に合併されたら、それまでの文化なんて消えちゃいそうなもんだけど。
「既に政治的権力は全て放棄していたからね。むしろその考え方に感動した王が出てからは、国中から見込みのある人材を呼び寄せることを許可された。広い国土の中で人材を見つけ出すために考え出されたのが、クラルに持ち主を選ばせる方法。他にも文字をクラルに刻むようになったり、クラルを何代にも渡って使うようになったり。今残っている伝統のほとんどはこの時完成されたのよ」
 しばらくの間、国の興亡とオルキーランの関係が書かれたページが続いた。
 歴史の授業は嫌いじゃないけど、情報量が多くてだんだん頭に入らなくなってきた。
 サラが気付いたのか、ページを飛ばして最近の所まで飛んだ。
 挿絵にエガル人が書かれていた。エガルの宇宙生命探索隊がルシンを発見し、交流が行われるようになったんだ。五十年ほどすると、それにアト人も加わるようになり、進んだ技術が輸入され、ルシンの文明は大きく発展した。
 でも平和は長くは続かなかった。元々アト人とエガル人の間で貿易でのトラブルが発展し、とうとう戦争が始まってしまったのだ。これがかの有名な宇宙大戦だ。ルシン人は、その頃にはルシン全体に知れ渡っていたオルキーランの考え方に基づいて、絶対中立の立場を取った。そしてその立場から、両方の話し合いのために駆けずり回った。
 それが功を奏したのが、戦争開始から四年後のこと。本には誰もが知っている有名な、平和条約締結の時の写真が載せられていた。これによりアト、エガル、ルシンをまとめる国連のような組織としてアラル連邦を樹立した。アラルの中で、オルキーランは特に条約締結に努力したから、政府とは違う組織として認められた。主な仕事は紛争の仲裁や各地の文化の発掘やその教育など。地球で言うNGOとPKO(平和維持活動)と大学とちょっとした外交権を混ぜたような感じだ(とサラに説明されても、ちょっとピンと来なかった)。
 それから百年近い年月が過ぎ、あの「ルシナ・フレスタ事件」が起こり、今に至る。
「それにしても」
 私はサラに気を使いながら、言葉を慎重に選んでいった。
「アラル政府はどうしてルシンを全滅させてまでオルキーランにいなくなって欲しかったんでしょうか」
 思ったとおり、サラの顔が曇った。ゆっくりと話しだす。
「一番の理由は、オルキーランが政治に影響を及ぼせる力を持った組織で、多くの人の支持を得ていたせいだと思う。各地からオルキーランのことを学びに来る人がいたし、オラスを使う能力もある。それに、政府に強い圧力をかけられるという見方もあった。もちろんこちらの立場からすれば、自分たちは裏方として世の中を支えて、皆が安心して暮らせていればそれでいい、位しか考えてなかったんだけどね」
 そこでサラは寂しげに苦笑いした。私はどう声をかけたらいいか分からなくて、しばらく何か言おうとしては飲み込むのを繰り返した。
「またやり直せばいいんじゃないですか」
 私は自分の声が思ったより大きいのに驚いた。
「私はルシナ・フレスタもそれが起こる前の様子も知らないけど、まだ終わった訳じゃないから大丈夫だと思います。あの、ほら、新しく作り直す機会なんだって考える、とか……」
 途中で自信がなくなってきて、尻すぼみになってしまった。居心地悪くて座りなおすと、向かいでサラがふっと微笑んだ。さっきと違って、見ていて嬉しくなるような明るい笑顔だ。
「里菜はいい人ね」
 説得力はともかく、こうしてサラが笑ってくれて、私も何だか肩の力が抜けたような気がした。



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