ステラ・プレイヤーズ〔ⅲ〕 4*大町星雨


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 しばらくしてサラが迎えに来た時、私は疲れ果てて床に仰向けになっていた。結局最初の時以上の高さにペンが上がることはなく、自分の体の重みに比例するようにペンも動きづらくなっていた。
 私が起き上がりながら顔をしかめると、サラがペンを拾い上げながら言った。
「始めはそんなものよ。こういう練習を、普段の生活の中でもやっていってもらいたいの。ドアや明かりのスイッチを入れる時や、服をたたむ時。それから寮の部屋に共用の時計があるから、その操作もオラスでやるようにしてね」
 私は頷きながら立ち上がった。拍子に足元がふらついて、サラに支えられた。ずっと座ってたせいで、自分がどれだけ疲れてるのか気付いてなかった。我ながらかっこ悪い。
 真っ直ぐ立てるようになるまで壁に寄りかかっていた後、私はサラに続いて建物を出た。

 部屋に戻ると重々しい雰囲気のウィラが机に向かっていた。私をちらりと見ると、机から置時計を取って投げてくる。両手で受け止めた私に、ウィラが机に向き直りながら言った。
「朝起きてから一回と、夕方食事の後に一回。あんたはまだ下手くそだから、夕方の方やっていいよ」
 怒らない、怒らない。深呼吸して感情を落ち着けながら、よこされた時計を観察した。いかにも「目覚まし時計」って感じの、上にベルがニつついている形だ。数字は十までしかなくて、トゥスアの自転に合わせるようになっている。裏返しにすると、なんとも古風なねじがついていた。ねじ! 地球でだって、半分骨董品の代物だ。操作っていうのはこのねじを巻くことなんだ。
 私が時計をひねくり回していると、ウィラが私の横をすり抜けて出て行こうとする。すれ違いざまにぼそりと言われた。
「夕飯の準備するから、あんたもすぐ来いよ」
 私は慌てて時計から顔を上げて、もうドアを開けかかっているウィラに聞いた。
「準備って、まだ早いんじゃないの」
「夕飯は村全体でとるんだよ」
 そんなことも聞いてなかったの、とばかりに睨みつけてくる。
 あなたが教えてくれなかったからでしょ! と内心叫びつつ、私は時計を枕元に置いて後を追った。
 少なくとも、ウィラとの生活は忍耐力の練習になりそうだ。

 食堂は修行場の建物の中にあった。長机が三つ、コの字型に並んでいて、奥にキッチンがある。私が行った時には、食器のなる音や料理の立てる湯気、にぎやかな声があちこちで上がっていた。
 作業しているのは年齢も性別も様々な人たちだった。クラルを身につけている人も何人かいる。みんな手馴れた感じで、てきぱきと盛り付けがされていく。
 しばらく何をすればいいのか分からなくて、立ち止まってその光景を眺めていた。
ズボンの裾をひっぱられる感触がした。見ると、十歳ぐらいのアト人の男の子がこっちを見上げていた。茶色がかかった金髪に、薄く緑の入った目をしている。
「お姉ちゃん新しく来た人なの? 僕説明してあげるよ」
 男の子がにっこり笑いながら言って、私の手を引っ張った。私は何が何だか分からないまま、キッチンに連れて行かれる羽目になった。
「僕はタセン。こっち女の子は友達のトナリア。で、こっちの人がね――」
 私は半ば中腰になって引っ張られながら、キッチンをあちこち回っていった。昼のオラスの訓練もあって中腰のままは結構きつかったけど、おかげで村の全員の人を紹介してもらえた。
 それで分かったのが、ここには子どもがほとんどいないって事、それからシングルマザー(又はその逆)が多いって事だ。
普通子どもが大人を紹介する時は「○○のお母さん、お父さん」って場合が多いはずなのに、そういう人は数えるほどしかいないし、片方だけの人ばかりだ。それに食堂にいた子どもの数も同じように少ない。二十歳以下って考えてもやっと十人ちょっと。ずっとクロリアにいて子どもを見なかったから多いように感じるけど、やっぱり少ない。
準備の合間を縫ってサラに聞いてみると(ウィラが菜園の用事でいなくて良かった。絶対ウィラに聞いて、になったはずだ)、サラは硬い表情で頷いた。
「産もうとする人がいないのよ。生まれた子が、ここ以外の場所を知らずに育つのはかわいそうだって」
 その続きは、またまとわりついてきたタセン+αに中断された。つくづく、子どもってその場に関わらず本当に元気。勢いに押されて、私はおなかがすいたのも我慢して、外の広場で鬼ごっこをすることになった。
 私がなんとか一人を捕まえた時、一人のおばさんがタセン君の所にやってきた。
「タセン君、フォークが一本見当たらないんだけど、どこにあるか分かる?」
「えっと、ちょっと待ってて」
 そう言うとタセン君は、その場で目を閉じた。そのまま集中する。私もその様子を立ち止まって見守った。
「……スプーンの閉まってある場所に、混ざってるよ!」
 タセン君が目を開けて答えた。おばさんは笑顔でありがとう、と返すと、いそいそと食器の準備に戻っていった。
 私は驚いてタセン君に駆け寄った。
「タセン君、今のもしかして、オルキーランの技!?」
「そんな感じだってオルキーランの人には言われたよ。クラルは持ってないけどね。お父さんがオルキーランだったからそうゆうのが得意なのかなって。みんなが探してるものがどこにあるか分かるんだ」
 タセン君はそう言った後、私の手にタッチした。
「次リナお姉ちゃんが鬼ね!」
 今の鬼ってタセン君だったんだ! 油断した!

 子ども達は食事中も珍しがって私の周りに集まってきた。おかげで部屋に戻る頃にはぐったりしていた。
 ベッドに倒れこもうとして、時計を枕もとに置いていた事を思い出した。
 その後しばらくは、ベッドであぐらを組みながら時計とにらめっこして過ごした。ウィラが風呂に呼びに来なかったら、オラスで巻き終わるまでそうしていたかもしれない。
 私は時計の現在時刻を見ながらため息をつくと、残りは手で回して自分の机に置いた。
 ねじって固いから、どうも動かしづらい。



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