The Fairy Tale Of The St. Rose School ―芽吹きの季節に― 10*雷華

 その時ガタリと音がして、壁が開いた。
「おっそーい!」
「まあまあ、ダリア、そうカリカリしないで」
「だってエルフェ、自己紹介に十分もよ?」
「私たちの時はその倍はかかりましたね。主にあなたのせいで」
「それはそれ、これはこれ」

 差し込んできた眩しい光に慣れると、夫婦漫才を繰り広げるブルーローズとレッドローズの姿があった。
 その向こうには緑のバラの庭園が広がっている。
「ようこそシークレットガーデンへ」
落ち着いた空気を取り戻すようにレッドローズが言う。
「まさか本当にシークレットガーデンが庭だとは思わなかったでしょ? まさか私たちの仕事の大半が庭仕事とか、全校には言えないわ。夢壊しちゃうもの」
 冗談めかしてブルーローズが言い、落ち着きかけた空気を盛大にブレイクさせる。
「とにかく中に入ってちょうだい。さあ、歓迎会よ」
 レッドローズの言葉に一年生がきょろきょろと庭を見回しながら中に入る。天井は高く、ガラス張りで、丁度城の中央付近に作られた空間と思われた。広さは割と広く、色とりどりに夏のバラが咲いていた。
 背後で扉が閉まり、薔薇の蔓のアーチをくぐると、左右からクラッカーが鳴らされる。
 中央の大きな石造りのテーブルには既に青のケープを着た上級生が座っている。
「はーい! それじゃ、新入生歓迎会お昼の部始めるよ!」
「夜の部は無いのよね」
「夜? 面白そうねぇ、ローズ、やりましょう?」
「良いこと言うじゃないエリザ! やるか!」
「やりません。ダリア、勝手に走らないで下さい」
 七年生の四人が、そろって漫才の続きをやりだす。
 全く以てシークレットガーデンは外見と違って賑やかで、あっけにとられた一年生諸君を巻き込むように、歓迎会兼昼食会は楽しく進んだのであった。


「それにしても楽しかったよね。あの七年生のみんなとか」
「ほんと楽しかったわ。でも、くたびれた」
 シークレットガーデンの歓迎会は、自己紹介に始まり、会の心得や、仕事内容等をコントのように解説する四人に笑い、各学年ごとの仕事をしていたらしい赤いケープの生徒も帰ってきてからは食事に談話にミニゲーム。午後も中ごろになるまで楽しんだ。
 四時くらいだろうか、ブルーローズが立ち上がって、皆に会の終了を告げた。
「あくまでも、シークレットガーデンの場所は秘密よ?だから文書とか地図とかでここの場所を記録するわけにはいかないの。だから、これからみんな、自力で部屋に帰ってね。それくらいしないと覚えないわ」
 やはり一年生が来る時にはわざわざ色々な寄り道回り道をしていたらしく、実際は五分もあれば寮にたどり着けるらしい。しかしさっぱり方向も分からず、一年生諸君は途方に暮れた。
「遭難したら大変だし、夕食の時間までには帰れるように、三年生が一緒に行くわ」
 と言うレッドローズのありがたい計らいも、ほんとについてきているだけで全く当てにすることが出来ない。
 どうにか二人は二十分もかからず現在使われている校舎、ムルティフローラにたどり着くことが出来たが、それでも例年の一年生の行動からみると早い方らしい。寮の玄関で別れたリトルミカエルの三年生は感心したように言っていた。
 のろのろと荷物をほどきながらそうやって昼の話をしていると、コンコンと扉をたたく音がした。
「はーい」
 扉に近い方にいたアリスが立って行って開ける。来客はルナであった。
「二人ともシャワー浴びた? 十時までだけど結構混むみたいよ」
 こちらの習慣ではシャワー自体も必ずしも毎日きっちり浴びるわけではない。乾燥した気候だからその必要も薄いのだ。とはいっても、これだけ色々あると、シャワーを使いたくなるのも道理である。
「ありがと、今から急いで行くわ」


 二人が行ってみると、ルナの言うとおり、数人が順番を待っていた。シャワールーム自体は八つもあるのだが、それでも部屋にシャワーがある上級生を除いた百二十人が使うには少ない。
 ルナとミリィも既に先に並んでいるようだった。
「やっぱり今日はみんなシャワー使いたいみたいね」
 アリスがげんなりと言った。
「待つほかないんじゃない? 仕方がないもの」
 愛和が答える。

 待ち時間は意外と少なく済んだ。
 回転が良かったのではない、思いもかけない救いの手が合ったのだ。
「あら、アイナにアリス、シャワーの順番待ってるの?」
「ライラ。ええ、そうなんです」
 ちょうど通りかかったところだったらしいライラが、言った。
「何なら私の部屋にいらっしゃい。まだ時間かかりそうだし、ね」
 驚く間もなく、誘いとは名ばかりで、さっさと二人を連行し始める。
「で、でも迷惑じゃないですか? 同室の人とか」
「五年生以上はミカエルとガブリエルは個室よ。何の問題も無いわ」
 それにね。と二人の顔を見て彼女が続ける。
「そもそも迷惑になるようなら最初から呼ばないわよ」
 ごもっともである。



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最終更新:2012年07月18日 15:11