The Fairy Tale Of The St. Rose School ―芽吹きの季節に― 9*雷華

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「さて、改めてようこそ生徒会ローズガーデンの中枢。シークレットガーデンへ。我が校成立の××年以来、〇年続くこの学校の生徒の動き全てを守る大切な役職で……」
 シークレットガーデン、それにしてもなんとも不思議な響きである。しかも女子高。あくまでローズガーデンであって、リリーガーデンじゃなくてよかった。なんてことを考えたり考えなかったり。
 ふよふよと動くブルーローズのピンク色の綿あめのような髪の毛の先をぼうと見ながら歩いていた愛和は、いつの間にかあたりの景色がだいぶ変わっていることに気がついた。
「はい今丁度、通称前館、フォルトゥニアーナ館の真ん中あたりですね。ちなみに先ほどまでいた新館はムルティフローラ館、これから行く旧館はケンティフォーリア館と名前が付けられています。これらは実際もともとの古城では生活しにくいからと、増設するように周りに建物を増築するうちにこうなったといわれています。現在では旧館は、ほとんど使われておりません。はい、ここまで一年最初のテストに出ますよ。と言っても授業でも扱いますけど」
「使わない校舎とは言っても私たちは毎日のように世話になる場所です。迷路の様ですが、なるべく早くに覚えてくださいね」
 と続けたのはブルーローズの隣を歩くレッドローズだ。日本人の愛和から見ても大層な美人である。
「さて、階段登りまーす。迷わずついてきてくださいよ」
 軽い調子でブルーローズが続ける。しかし確かにこの校舎本当に迷いそうである。使いやすさよりも、できた順に通路を繋げたとしか思えないくらい、右左いくらでも曲がれるのだ。
 やがてケンティフォーリアに入ると、ますますひどい具合に迷路である。
 やがてそれから十五分も歩いただろうか、割と地面から高い階層と思われる一角で、ブルーローズが足をとめた。
「さて、部屋のカギ開けてくるから、みんな自己紹介でもしながら待っててくださいな」
 気がつけば後ろについてきていた筈の上級生は別行動だったらしく既に誰もいなく、ローズの二人が去ると、そこには八人の一年生が残された。
 リトルレッドローズの白百合のバッチをつけた少女が愛和のもとに近づいてきて強い口調で言った。
「よろしく、リーダー。日本人のあなたが私より優れてるなんて信じられないけど、あなたがママに泣きついて日本に帰ってしまわないことを祈るわ」
 見事なクイーンズイングリッシュは少しの癖も無く、王宮に準ずるほどに家に力があることをうかがわせる。
「ありがとう。私も日本人だから、この国には疎いのよ。あなたみたいなイギリスをよく知る人が一緒で心強いわ。一年間よろしくね、ターニャ」
 愛和はそれに負けないほどきれいな英語で返した。ターニャは言い返す言葉なく、頬をひきつらせてリトルヴァイオレットの隣に帰る。愛奈は周りの七人を見回して言った。
「みなさんもぜひよろしくお願いしますね。ええと、エミリーにヴォルガにユリアンナにランファ、アランナとターニャ、それからアリス」
 順々に視線を合わせて名前を呼ぶと、皆もよろしくと頬笑み返す。ターニャはつんとしたままであったが。
 リトルクロウのランファが興味津々とした様子で聞いた。
「アイナの家、お金持ち? それとも親が華族?」
「どちらでもないわよ? 何故?」
「だってここの学費高いもの。そうでもなきゃ短期留学どころじゃなくてここに入学するなんてとても大変だわ」
 そうなの? と視線を周りに振ると、皆もそうだと頷いた。
「そうなのね、でも大丈夫よ。授業料と寮費は全額免除をいただいているわ。かかったのは渡英費用くらいよ」
 場の空気が一瞬にして固まる。アリスが言った。
「実在したんだ……」「何が」「愛和、全額免除寮費込みって、私の知る限り過去に二人しかいないわよ。イギリス王室からだってちゃんと学費取ってるのよ?」
「一体何やってきたのよ、あんた」
 と、リトルポーラスターのエミリーが田舎訛りの英語で聞いた。
 周りも不思議なものを見る目つきで愛和を見る。興味などないとそっぽを向いていたターニャまで横目で気にしている。
「ええと、この一年は家の家事に忙殺されてたけれどなぁ」
「何か資格は?」アリスが聞く、
「日本の検定で取れそうなのはとりあえず色々取ったと思うわ。おととしまでは時間もあったし……。英検の一級とか漢検とか、数検は理解できなくてあんまり取ってないけど。あとトイックにトイフルもわりと高い点だったわ。他は電気屋さん呼ぶと高いからって、電気工事士取ったり、危険物取扱とか毒物劇物取扱とか、無線の資格に時刻表検定に……。取れそうなものは大体って感じね」
 あたりがシーンとした。リトルドーヴのユリアンナがため息交じりに言う。
「最後の時刻表はともかくとして、一体なんでそんなに?」
「さあ、あれば便利だって母が言ってたし、時間もあったし」
 チラ見だったターニャも今やガン見である。
「あなた、一体一日どれだけ勉強してたの!?」
「さあ、この一年はどうひねっても一日二時間以上勉強できたためしは無いわ。五時起きで朝食家族に食べさせて昼食は作り置きして弁当も作って、掃除して片付けてから学校に行くでしょ。帰ったらまたどうせ片付けして、洗濯と炊事、食べたら家計簿付けて宿題とか一時間くらいやって、洗濯物たたみながらニュース見るでしょ。あと教材作る。仮眠とって、父親が返ってきたら夕食あっためて食べさせて、片付けて風呂入って、そうしたらもう日付も変わってるし、急いで翌日の用意して寝るの。あれ? おかしいな、勉強時間が足りない」
 そりゃおかしいだろ、とみなが心の中で突っ込んだ。教材作ってとか何だし。それに大半が家事なのは一体。 
「あ! 学校で休み時間足したら二時間だ! よかった、計算合って」
 問題点がだいぶずれている。あがくようにターニャが聞く。
「家庭教師とか雇ってたの?」
「家庭教師? うん、良い稼ぎになったよ。近所の年上の中学生に英語教えてた。渡英費用貯めるためにね」
 それで教材づくりか、と何となく納得しかけるもやっぱりそんな家庭に疑問がわく。
「日本の再婚家庭って、どこもそうなの? お金なかったりするの?」
 アリスが聞いた。
「そんなことないよ。うちがおかしいだけ。義母生活不適合者だもん」
「再婚家庭?」
 初耳だった全員の、外に出てしまった心の叫びがあたりに響く。
「うん。母さんが死んでから、めっきり資格試験の勉強とかできなくなっちゃったの主にうちの義母のせいなのよね。おかげで家事全般上手になったわよ。あと片付けも」
 ところで、とすっかり自分の話題になってしまったその場を動かそうと、愛和が言う。
「みんなはどんな家なの?」
 エミリーが、まずあたりを見回してから口を開いた。
「あたしとヴォルガはこの近くの旧家。昔からうちの女性はみなここで学ぶの」
「あたしは中国の成り金の娘。よほど良いところに行って欲しかったみたい、パパは」
 ランファがいい、続いて隣にいたアランナがひそひそという。
「ここだけの話、私とあるヨーロッパの近くのちいさ~い国の王家。ま、弱小だけどね。ひみつよ? 国名も言っちゃいけないって言われてるし」
 どおりで先ほどから、姿勢も良いし言葉づかいも正しい。それに英語は訛りもほとんどなく美しい。疑う要素はどこにもなく、全員が静かに驚いた。続くはターニャである。
「もとはギリシャから来たらしいわ。今はイギリスの伯爵家よ。……さっきはごめん」
 小さな声で謝る
「ん?」
「ママんとこ帰れって言って。帰れないのに……ごめんね」
「構わない。よろしくね」
「さて! 最後はあたしの番ね」
 暗い空気を一瞬で吹き飛ばしてアリスが言った。
「父はイタリア人。母はロンドン人。今はみんなロンドンに住んでるわ。疑問が出る前に言うと八才よ」



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