The Fairy Tale Of The St. Rose School ―芽吹きの季節に― 7*雷華

 部屋には二人の天使が立っていた。
 といっても過言ではないほど、セントローズの第一礼装は絵画の天使が着てる服に似ている。そして、愛和とアリスにはその白の長いローブがよく似合っていた。
 房飾りのついた腰紐もキレイに蝶々に結んである。姿見に映る二人は互いの服に乱れがないことを確認して、それから部屋を出た。
 時間に遅れないようにと、ほかの部屋からもぞろぞろと一年生が合流する。
 裾をけたてることのないように、翻さないように裾をつまんで静かに階段を下り、ホールに着く頃には時間ちょうどであった。

「全員揃ったかしら? 人数ちゃんと二十六人いる?」
 セーラは一年生たちとおなじ礼装に、蒼い短いケープをリトルミカエルのバッチで止めた姿であった。
 人数が揃ったことを確認し、全体にあの鈴のように響く声で話しかけた。
「さて、これから大広間で入学式と任命式、それに始業式をするわ、まあ、特に区別があるわけじゃないんだけどね。さあついていらっしゃい」
 ぞろぞろと付いていく列の先頭はいつの間にか愛和とアリスであった。
「常に堂々としていて頂戴。それがエンジェルの、セントローズの誇りだわ」
 二人にだけ聞こえる位の小さな声で、セーラが振り向かずに言う。
 聞こえた? うん。とアリスと愛和は顔を見合わせ、決意を込めた微笑みを交わした。


「ようこそ、セントローズへ。もしくはおかえりなさい、貴方の家へ」
 演壇に立った白髪眩しいおばあさんが言う。あれが校長らしい。
 後ろには教員が控え、そのとなり、左の壁際には青や、赤のケープを羽織ったシークレットガーデンの面々がいた。七年生はそれぞれ長いローブを羽織っている。中でもふたり、それぞれ金銀の縁どりがされているローブを羽織っているのがレッドローズとブルーローズであろうか。

「さて昨年度退官されました聖歌隊の指導者、クルト先生にかわり、今年からヘヴェニス先生をお迎えいたしました」
 皆が拍手をし、教員の席の、右端から数人のところにいたお兄さんっぽい先生が立って答えた。
「他に今年は移動はありません。そろそろ入学式に入りましょうか」
 言って、校長が下がり、変わって厳格そうな女教官が立つ。よく見れば入試の面接の時の面接官だった。
 そのときと少しも変わらない迫力満点の強い声で、彼女が言った。
「それでは、名前を呼ばれたら立ち上がりなさい。まずはブロッサムから」
 当分暇である。と、愛和は視線を教官から外して、あたりをそっと見回した。
 正面の壁のキリスト像が目に入る。髪の毛が長く、うねうねとしている。よく見ればなにやら教員の中の、青白い顔をしたひとりになんだか似ていなくもない。
『不健康な顔してるな、二人とも』
 生き物のほうはともかく、像はすでに死にかけた人を描いているのだから、生き生きしていたらむしろ問題だ。
 シークレットガーデンのメンバーは、三年生ぐらいだろうか、セーラの数人隣で船をこいでいる子がいる。そりゃ、自分の学年じゃなきゃあんまり興味もわかないだろう。

「以上、ブロッサムの所属とする。次、エンジェル」
 ざっ。とブロッサムの一年生が座り、エンジェルの生徒が一人ずつ立ち上がる。順番はまもなくである。
 自分より前に座る人が一人ずつ立ち上がるのをぼぅとしながら見つめる。ひとつ前、アリスが呼ばれ、立ち上がり、自分の名前を待ち構える。
『これで呼ばれなかったら洒落にならないよな』などという心配は杞憂に終わり。
「アイナ・ タツマチ」
 微妙に苗字の前に空いた気がする隙間は気にせず、す。とまっすぐに立つ。
 背筋を伸ばし、正面を見据え、後ろに何百人といる上級生の視線にさらされても恥ずかしくないように姿勢をただす。
「以上、エンジェルの所属とする」
 先ほどのブロッサム以上に静かに、規律正しく椅子に座る。さて、当分暇である。

 キリスト像を観察すると、茨の冠をかぶっているようだった。たしか「ユダヤ人の王」と、執行官に侮蔑されてかぶせられたものだったと、聖書に書いてあった気がする。因みに十三日の金曜日というのはイエスキリストを売り渡したユダが、十三人目の弟子だからとかなんとか。金曜日が何かの日であるというのはもう忘れた。



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最終更新:2012年07月18日 15:04