ステラ・プレイヤーズ〔ⅱ〕 8*大町星雨

『ティート、四‐九の方向から敵が来てるぜ』
 マーウィの通信で、俺はとっさにその方向を見た。視界に入りづらく、かつレーダーにかかりにくい角度だ。近づきながらレーザー弾を浴びせてくる。俺は撃たれた振りをしてきりもみ状になった。敵がとどめをさそうと追いかけてくる。機体が敵の方を向いた所でバランス調整機を一気に上げ回転を止める。敵機は状況を判断する前に吹き飛ばされた。俺は額の汗を素早く拭い、戦況を確認した。
 お世辞にもいい状況とは言えなかった。警護していた軍の輸送船が攻撃を受けて、あちこちで火花が飛んでいる。船に群がる戦闘機は、まるで食べ物に集まるありみたいで気持ちが悪い。こちらの戦闘機が追い散らそうとしてるけど、いかんせん数が多すぎる。おまけに今は戦闘に参加していないけど、司令官を乗せているだろう主力艦も遠くに控えている。勝敗が着くのは時間の問題だった。
 俺は敵機を分析したデータを見た。思ったとおり、ほとんどが例の機械制御の戦闘機だ。技術がある上に自己犠牲をいとわない、うってつけの武器。
 今のところは。
 俺は周りに敵がいない事を確認すると、ポケットからデータチップを取り出した。二週間もかけて、人目を盗んで作ったプログラムだ。読み取り機にセットすると、画面に触れてプログラムを作動させた。うまくいくといいけど。
 俺は息を詰めながら、ガラス越しに戦場を見つめた。危険な場所にあちこちハッキングしたんだ。成功してくれよ。戦況はしばらく変わらないように見えて――。
 急に戦闘機の一つが向きを変えた。それにつられるように、次々と敵機が引き返し、全力で走っていく。真っ直ぐアラルの主力艦に向かって。
 主力艦やわずかな有人戦闘機は、しばらくあっけに取られたように動かなかった。ようやく戦闘機を撃ち落そうとした時には、とっくに手遅れだった。
 遠くから見ていても、なかなか壮大な眺めだった。機械仕掛けの戦闘機が次々と主力艦に衝突し、火柱が上がる。全機が爆発した頃には、主力艦は燃え上がる金属の固まりになっていた。
 勢いに乗るように、味方が残った戦闘機に攻撃を仕掛けだした。統率を失った敵は、クロリアに追い立てられるように、一目散に逃げていく。
 俺はゆっくりと息を吐いて、背もたれに寄りかかった。仕事を終えたデータチップが吐き出される。敵の戦闘機のプログラムに侵入し、彼らの味方を攻撃するように仕向けるものだ。これにこりて、アラルもしばらくはこの戦闘機を使えまい。ふと格納庫で、俺の足を思いっきり踏んでいた、里菜のむっとした顔を思い出した。
少なくとも、これでかたきの一部はとったわけだ。
 俺は顔を両手で拭うと、警護に戻るために輸送船に向かった。自作のプログラムがこんなに上手く作動したのは初めてだったけど、なぜか心が躍らなかったし、頬の筋肉も反応しなかった。頭の中で「セイコウ」とか「ウレシイ」とかいう言葉が空しく流れていた。

基地に帰ると、偶然の大勝利を祝って食堂でパーティーが開かれていた。いつもにぎやかな部屋が、二倍も騒がしい。俺は誘おうとしてきたアルタから離れて、訓練場に向かった。馬鹿騒ぎする気にはなれなかったし、何かしていないと落ち着かなかった。もちろん訓練場には誰もいなくて、俺は一人訓練装置に乗り込んで戦闘機の操縦練習をした。
 戦闘も趣味も宴会も演習も、ひどく味気なかった。

続く……


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最終更新:2012年01月23日 14:53