ステラ・プレイヤーズ〔ⅱ〕 7*大町星雨

④独り
 俺はベッドに座ったまま壁に寄りかかり、部屋の暗闇を見るともなく見ていた。非常灯の明かりで、壁や家具の輪郭が分かる。
 足音がして、部屋の中に明るい光が差し込んだ。俺はそっちを見る気が起きない。誰かが歩み寄ってきて、俺の隣に座った。
「ティート(大斗のこと)、夕飯の時間だよ」
 アルタに言われて、俺はぼんやりと頷いた。アルタが俺の肩をつかんで、顔を覗き込んだ。
「君だけがリナのこと悲しんでるわけじゃないよ。僕もマーウィもミラも、みんな辛い思いしてる。でもずっと悲しんでたって何も変わらないだろう。せめてこの戦いを早く終わらせて、これ以上こんな思いしないようにするしかないんだよ。それに……ほら、まだ死んだって、決まったわけではないし。リナなら無事逃げ延びてまだあの星のどこかで隠れてるのかも知れない。もしかしたらアラルの捕虜になっているかも。それならまだ会える見込みもあるだろう」
 アルタが畳み掛けるように話しかけてくれたが、俺は時折軽く頷くだけだった。しまいにアルタは立ち上がると、食堂で待ってると言って立ち去った。生返事をした俺は、再び暗がりの中に残された。
 アルタたちが俺を励まそうとしてくれてるのは分かっていた。里菜のことをみんなが考えてくれていることも。
 俺はこの間、秘かにロータス指揮官に呼び出された時のことを思い出した。ロータス指揮官は沈んだ面持ちで、自分の判断のせいで里菜を安全な場所におけず、結果的に大事なものを奪ってしまったことを謝ると言った。俺がそれにどんな返答をしたのか、自分でもよく覚えていない。何も言わなかったかもしれない。里菜が行方不明になったことを聞いてから、記憶のほとんどがこんな調子だった。周りの景色が夢の中のようにうつろで、自分はそこから何も感じ取れなくなっていた。
 里菜はまだ生きているかもしれない。俺に話しかける人は、全員そう言った。身のこなしが良かったからとか、オルキーランだったからとか、理由は様々だが言っていることは同じだ。根本では死んだ可能性がずっと高いことを知っていて、ただ俺を元気付けるためだけに言っている。
 俺は壁に額をこすりつけた。壁の冷たさが妙にはっきりしている。地球で里菜の事心配して、自分の家族も生活も捨ててついてきた。なのにその里菜がいない。
 今の新しい駐留所に落ち着いた後、俺はすぐにアラル軍の中心部にハッキングし、里菜に関する情報を得ようとした。収穫は無かった。捕虜のリストに里菜の名前はなく、重要機密にハッキングしてみても、オルキーランの少女が捕まったという情報はなかった。里菜が捕らえられていることは全くコンピュータに記録されず、中央部のお偉方の脳裏にしか留められていないという可能性もあった。でももし里菜が捕まり、オルキーランだとばれた時の対処を考えてみると、この可能性は諦めた方が良さそうだった。
 となると……。俺はこみ上げてきた感情を押さえつけようと、両手を強く握り締めた。まぶたの裏にたまってきた熱いものを、目をつぶって無理やり押しもどす。馬鹿みたいに泣くな。あいつに見られたら、見られたら、笑われちまうじゃねえか。

「アラルが新しい戦闘機を開発したって話、聞いたか?」
 食堂に行くと、夕食時で賑わい席はほとんど空いていなかった。アルタたちを探しても良かったが、気を使われるのが嫌で、適当な席に腰を下ろした。隣に座っている人たちが興奮したように話している。
「ああ、飛行士を乗せなくても操縦できるんだろ。とっさのカンはともかく、今までの戦闘機と同じぐらい、協調性については今まで以上らしいな」
 俺は話しに耳を傾けながら、黙って食事を口に運んだ。
「何でも噂じゃ、こないだのオルア基地襲撃の時に、試験的に使われたらしいぜ。あまりに素早く攻撃されたんで、避難船に思ったより影響がでたらしい」
 俺は無意識のうちに手を止めていた。オルア基地。里菜がいなくなった場所。
 じゃあ、その戦闘機さえなければ、里菜が助かってたかもしれないんだ。俺の耳には、隣の会話だけが聞こえていた。
「上層部は秘密にしたがってるらしいけど、当然だよな。こっちの飛行士は、これから大量生産される機械相手に戦うかもしれないんだから。気がめいるよなあ」
 俺はその後の話を聞いていなかった。皿に残った食べ物を捨てて、食堂を出た。



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最終更新:2012年01月23日 14:47