ステラ・プレイヤーズ〔ⅱ〕 5*大町星雨

 イスに座ってパンをちぎりながら、私はぼんやりと考え事をしていた。船はワープ中で、自動操縦になっている。食事は、戦った後の私を心配して、オウイルさんが用意してくれたものだ。残念ながら、戦いの後に食欲がわくほどの精神力はないんだけど。それにこれからどうなるのかほとんど分からないから、不安でもある。それでも少しずつ口に押し込む。
 シャワーを浴びた後、服も換えさせてもらったからだいぶ疲れはとれた。襟に淡い青の線が入った白い長袖に、同じく淡い青の長ズボンという、飾り気はないけど動きやすい服だ。傷の手当てまでしてもらった。クラルは腰に下げてある。
「オルキーランは今何人いるんですか」
 その問いに、向かいでオウイルさんが自分のマグカップを置いた。それを両手で覆って話し始める。
「あなたを含めて十二人。でもうち一人はルシン・ウイルスの後遺症で意識不明のままよ。更に残りの十一人のうち五人が見習いの段階なの。もうすぐ卒業できるような子もいるけど、八年前の――ルシナ・フレスタの前とは比べ物にならないほど少ない。ルシナ・フレスタって、あのルシン人とオルキーラン絶滅のきっかけになった行事のことよ」
 会話が途切れた。私は黙ってスープを口に運んだ。マグカップに目を落としたまま、オウイルさんが口を開く。
「ルシナ・フレスタの事件で、ルシン人のオルキーラン、全体の四分の三以上が亡くなったわ。私たちは、これがオルキーラン掃討の始まりだといち早く判断し、事故や自殺を装ったりしてアラルから逃れようとした。それでも相手の手回しが早くて、生き残ったのは七人だけ。長の判断で、私たちは死んだオルキーランの家族を連れて遠い星に身を隠すことにしたの。いくらオルキーランでも大勢の精鋭部隊を相手にすることなんてできない。それに子どもたちを危険にさらす訳にはいかなかったから」
 部屋の中が静まり返った。機械の音が遠くから聞こえてくる。不意にオウイルさんが立ち上がった。
「そろそろ到着する時間だわ。操縦室に戻った方がいいわね」
 私も食器をまとめて立ち上がった。食欲がない割に、出された分は全部食べられた。オウイルさんは、私が食べられる程度の量を用意してくれてたみたいだ。オウイルさんは一足先に出入り口に向かおうとした。
「オウイルさん」
 私が話しかけると、彼女は振り返った。
「あの、何か色々ありがとうございます」
 そう言うと、オウイルさんは困ったように笑って、首を横に振った。
「気にしないで。それにサラって呼んでもらっていい。あなたにはそう呼ぶだけの権利があるんだから」
 私がその意味を理解できないうちに、彼女は立ち去ってしまった。
 食器を片付けて操縦室に戻ったとき、彼女はもうシートベルトを締めて、ワープから抜ける準備を済ませていた。私が席に着いたのを確認すると、ワープレバーをゆっくりと引いた。
 ワープ空間を抜けると、目の前に小さな青い星が浮かんでいた。ここがトゥスア星なんだ。ちょうど地球を思い起こさせるような外見で、奥の方に太陽が二つ光っているのが見えた。
 サラの操縦で、軽貨物船は惑星の一点に向かって降りはじめた。大斗には悪いけど、操縦がずっと上手い。まあ、大斗の運転する船に乗ったのはあれ一回きりだけど。
 雲の中を抜けると、森の緑の中に空き地が広がっているのを見つけた。よく見ると、近代的な建物が並び、町になっている。といっても小さくて、ちょっと大きな集落って言ってもいいぐらいだ。
 船はその上をゆったりと旋回して、郊外の発着場に着陸した。
 昇降口が開くと、ひんやりとした空気が流れ込んできた。春か秋みたいな気候だ。私はサラに続いてタラップを降りながら、周りを見渡した。太陽が真上にある。オルアを出た時は夜だったから、時間の感覚が狂いそうだ。その光の下、山が城壁のように広がり、一面木々が覆っている。おばあちゃんちみたいな田舎を思い出すような景色だ。建物もそれに調和している。近くで見てみると白い壁はすすけていて、ツルが何本も張り付いている。最新式のようで、どこか懐かしい雰囲気をかもし出していた。
「これからの予定については、夜にでも話しましょう。とりあえず部屋を案内するわ」
 サラは私の方を振り向くと、そういって歩き出した。どうやら発着場に一番近い建物が、一番大きいらしい。多分一番重要なんだろう。私はその隣に案内された。一階建てのアパートみたいな建物だ。壁はやっぱりくすんでたけど、不思議とさびれた感じはしなかった。中の廊下の天井はガラス張りになっていて、遠い青空が見えた。
「ここがあなたの部屋ね」
 サラがそういうと同時に、自動扉が開いた。
 きちんとしている、と言うより物の少ない部屋だった。二人部屋らしく、机とベッドが一つずつ。既に一人入っているらしく、机の本棚にきっちりと本が並んでいる。布団もきっちり整えられていて、微かなしわがないとどっちを使っているのか分からない。
 作り付けのクローゼットが一つ。覗いてみると、これまた丁寧に整頓された服が下がっている。
 部屋にあるのはそれだけだった。八畳はあるだろうから、他に何か置いてもよさそうなのに、殺風景なほど何も無い。それは寮の気質というより、この部屋に住んでいる人の性格を表しているように見えた。
「夕飯まではまだ時間があるから、少し休んでるといいよ。また呼びに来るね」
 サラはそう言って早々と去っていった。
 私はしばらく部屋を見回してたけど、急に大きなあくびが出てきた。ベッドを前にしたら、眠くなってきた。伸びをすると体がびきばきと音を立てた。
 とりあえず、寝ようっと。
 私は空いているベッドに倒れこむと、布団もかけずに眠りに落ちた。



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最終更新:2012年01月23日 14:40