ステラ・プレイヤーズ〔ⅱ〕 2*大町星雨

 うう、やっぱ、判断間違えたかな。
 地面に座り込みながら、私は途方に暮れていた。入り口からまっすぐ泳ぎ続けて、いくつかの分かれ道を通って、やっと陸地を見つけて上がった。幸い、奥のほうの川はせいぜい足首くらいまでしかない。とりあえず、今のところ肉食獣の気配はない。
 とりあえず、だけど。そう思いながら辺りを見渡した。
 実際には見えるものなんかほとんど無かった。湿ったヒカリコケがあるおかげでぼんやりと洞穴の輪郭は分かるけど、歩いたり遠くを見渡したりするには物足りない。
 暗視装置はポケットに入れてあったけど、さっきの光弾にやられて使い物にならなくなってる。指令装置のライトを使えば見えるけど、電池を残しておきたいのと猛獣に気付かれたくないのとで、必要がない限り使いたくなかった。他の感覚がとぎすまされて、横を流れるちょろちょろという水の音と、空気の生温かさがよく分かる。
 今の問題は、これからどう進むかだった。入り口からの分かれ道は全部左を通ってきたから、戻る事はできる。でもさっきの破裂音でごまかしたとは言え、入り口のあたりにはまださっきのアラル兵がいるかもしれない。
 洞穴を進むにも心配な事があった。指令装置の地図を頼りに避難場所の下まで行く事ができても、そこにちょうど出口がないと出られない。銃で天井を撃ちぬくって手もあるけど、ここの岩はもろいから、自分の上の岩まで一緒になって崩れてくるかもしれない。
 でも、そうでもしなきゃ出られっこないか。他の出口を探そうにも、前に案内してもらった出口は基地に近すぎて危険だし、他の出口は知らない。だったらいざとなったら危険を冒してでも、天井を打ち抜いた方がいいな。
 私はよし、と小声で気合を入れると、、私は指令装置のライトを最弱にしてつけた。しぼった服を着直して左手に抜き身のクラルを、右手にエネルギー拳銃を持って立ち上がる。どんなのが出て来るんだか知らないけど、オルキーランの力が助けてくれる事を祈ろう。まずは、避難場所の下まで辿り着かないと。
 地図の方角と地下迷路の道筋を確認すると、歩き始めた。同時に周りの気配にも気を配る。
 岩肌を踏む音が、カツーン、カツーンと洞窟の通路に広がって、闇の中に溶けていく。足音を立てないように気をつけてはいるんだけど、他に音がしないと一歩一歩が大きく響く。
 指令装置を見た。直線距離にすると、避難船の場所まではあとたったの五百メートルぐらい。少し希望が出てきた。運のいい事に、今の所、危険そうな生き物にも会ってないし。あとは早いとこ出口を見つけないと。
 コケが生えて滑る地面に頭の中で文句をいいながら、穴の先へと進んだ。だんだん狭くなってきて、乾いた所が無くなってきた。
 やがて、川の水をはねながら歩く羽目になった。天井も手を伸ばせば届く所にある。このまま行き止まりになったらどうしよう、という考えが頭をかすめた。
 急に広い所に出た。右手に見上げるほど大きな穴が開いている。今まで通ってきた通路がネズミの穴に見えてくる。すぐ左にも穴が開いてるけど、こっちは今までより更に小さい。頭が天井をすってしまいそうだ。川は左の穴から流れてきて、分かれて右と今通ってきた穴に消えていた。避難船の方角は、左側だ。行き止まりにしろ、駄目元で行ってみよう。
 そのまま前かがみに左の穴に入ろうとしたとき、右の道の奥で何かが光った。左に向かいかけた足を戻して、光の方に目をこらす。間違いなく奥の方に小さな明かりが見える。
 出口! きっとそうだ。
 はやる気持ちを抑えながら、光の方へ早足で向かった。足元で水がはねるのも気にならない。早く外に出たい……。明かりがだんだん大きくなってきた。
 でも、何か光が緑っぽくない?
 足がロボットみたいに固まった。そう考えてみると、外は夜のはずなのにやけに光が強いし、まず川下に向かってる時点で、地下に潜るばっかりで出口に通じてるはずないじゃない! 地上のこの辺はずっと平地なんだから!
 唇を震わせながら光の方を見ると、既に視界の四分の一ほどを占領していた「光」が動いて、一つの形をなした。
 やたら大きい、全身光ってる、イカ。象くらいはある。
「いやあぁぁーーーー!!」
 私は音を消す事なんかすっかり忘れて、叫びながらもと来た方に全速力で駆け出した。後ろで巨大イカが動いて水をはねる重い音がする。
 ネズミ穴に戻った所で、私は咄嗟に小さい方の穴に走りこんだ。理論と言うより、本能的に。
肩や頭が壁にぶつかる。痛みを感じる余裕もなく、やみくもに走った。
 道が少し広くなった。廊下ぐらいはある。私はゆっくり立ち止まり、そうっと後ろを振り返ってみた。これだけ狭ければ、あんな大きな生き物は追ってこられないよね。
 と、考えてる間に奥の方からガラガラという音が聞こえ始めた。私の頬を冷たいものが伝い落ちる。水が顔にはねたからじゃない。
 これが夢なら、早く覚めてほしいなぁ。
 一瞬だけ現実逃避をすると、まっしぐらに音のしない方へ駆け出した。



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最終更新:2012年01月23日 14:17