「The Fairy Tale Of The St. Rose School ―芽吹きの季節に― 3*雷華」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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「ところで、その噂ってなんなの?」
セーラに椅子をすすめ、備え付けのケトルにわいたお湯で紅茶をいれながら、愛和が聞く。
「入学試験よ。あなた全教科満点だったって、みんなの評判だもの」
「ふーん。入学試験か……って、ええー!!」
いきなり大声を出してしまった。それほど驚きであったのだ。
「そりゃ、我ながらなかなかよく解けたと思ってたけど、満点なんて今初めて聞いたわよ!」
「そうでしょうよ。だって本来先生方しか知らないことだもの」
「じゃあなぜ知ってるの?」
こういうのを個人情報のろうえいとかいうんじゃなかっただろうか。
「そうね、漏れてるのよね、情報が。私の英文法の先生からね」
まあいいじゃないとセーラが笑った。あまりよくないと思うが。
「でも、それほど難しい問題だったかしら」
「難しいわよ。数学科のマドラスなんか、毎年解けない生徒が出るのが楽しみなマゾ問題出しては喜んでるのに。満点が出たからっていって私たちの学年全員に解かせて、難易度を確かめたりもしたのよ。まあ、私は解けたけどね」
日本でも有名な、論理的思考能力を図る問題である。
三人の若者が宿に泊まった。宿泊費をボーイに払った。千ずつである。
宿の主人が、若い奴らだからと五百を負けて、ボーイに返すように言った。
ボーイは、五百を三人で割ったら喧嘩になるだろうし、自分の懐に二百入れてしまった。
さて、百ずつお金を返された若者は一人あたり九百を払ったことになる。合わせて二千七百。ボーイがとったお金を加えると二千九百。おや、百足りないぞ?
さて百はどこに消えたのか。
まあ、こんな問題である。愛和は昔読んだ頭の体操的な本を思い出しながら図解も付けて丁寧に答えてやった。それが意外とほかの人には解けない問題だったらしい。
「私の周りでも解けてたのは半分もいなかったわよ」
ため息一つセーラが天を仰いだ。
「それよりも私にとっては英文法やフランス語の方がむずかしかったわ」
日本人であれば高校生どころか、多くの大学性でもなかなか難しいはずだ。まさにこれぞパズル。問題文を読解することからが試験です。
「たしかにね。異国語はむずかしいわね。私だってさっぱりわからない問題だってあるわよ。フランス語なんて特にね」
セーラはくすりとわらって、それにしても。と続ける。
「あなた英語本当に上手ね、誰に習ったの?」
「死んだ母に。外国語を学ぶ方法とか、全部教えてもらったの」
「それはステキなお母様だったのね。私も会ってみたかったわ」
心底残念そうにセーラがいうものだから、愛和はなんだか嬉しくなった。
「ありがとう! 実は後妻がいるのだけれどね、家事育児全般ダメ。日本じゃハウスキーパーもあまりいないし、無駄に高いしで頼めないから、結局私が全部家事とかしなきゃいけなかったの」
「あらら。じゃあ、もしかして家から逃げ出す感じでセントローズに?」
「そ、そんな感じ。父も仕事第一であんまり家に居着かなかったしね。正直者すぎて人を疑えないのよ。だから後妻にも騙されるし、私もここにいるし」
冗談めかして言うと、セーラも笑った。
「でも、大丈夫なの? 家開けてきても」
「大丈夫よ、父の両親、私のおじいちゃんとおばあちゃんに月に一回は顔を出してくれるように頼んだし。いろいろ協力してくれたのよ」
「いいわね、それなら安心だわ」
と、そこまで話が進んだとき、控えめにドアをノックする音が聞こえた。部屋のぬしである愛和がはいと返事をして扉を開けた。
「えっと、アイナ、た、タツマチさんですか?」
背丈の低い青い瞳のお人形を体現したような可愛らしい女の子が、ひらひらとしたピンク色の服をまとって立っていた。
「ええ、そうよ」おずおずときくその様子が可愛らしくて頬が緩む。
「同室のアリス、アリス・サンヴィターレと言います。よろしくお願いします」
ワンピースの裾をつまんで頭を下げる。
「あら、そうなんだ。私はアイナ・タツマチ。って、もうしってるね。よろしくお願いします。とりあえず部屋に入りなよ」
愛和の言葉に頷いて、招かれるままに部屋に入ったアリスは、しかし部屋の奥、椅子から立ち上がったセーラの姿に足を止めた。
「て、天使様?」
電気をつけていない部屋に差し込む午後の光がちょうどセーラの立つ位置をスポットライトのように切り取っていたのだ。
「私はセーラ。よろしくね、アリス」
差し出された手に答えるようにスポットライトに入るアリス。握手をする二人が金銀に輝いて、それこそ二人の天使のように見えた。
「うわお。目に幸せだわ」
愛和がのほほんとすると、二人が揃えたように振り向いた。
「あなた、自覚してないでしょう!」
「くすみのない黒髪! 夜色の瞳! あなたこそ東洋の天使です! 二人部屋に相応しいエンジェルです!」
二人に言われて愛和がたじろぐ。
――こんなんでも実際愛和の学園生活を大きく華やがせる出会いであるが、本人たちに全く自覚はない。
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「ところで、その噂ってなんなの?」
セーラに椅子をすすめ、備え付けのケトルにわいたお湯で紅茶をいれながら、愛和が聞く。
「入学試験よ。あなた全教科満点だったって、みんなの評判だもの」
「ふーん。入学試験か……って、ええー!!」
いきなり大声を出してしまった。それほど驚きであったのだ。
「そりゃ、我ながらなかなかよく解けたと思ってたけど、満点なんて今初めて聞いたわよ!」
「そうでしょうよ。だって本来先生方しか知らないことだもの」
「じゃあなぜ知ってるの?」
こういうのを個人情報のろうえいとかいうんじゃなかっただろうか。
「そうね、漏れてるのよね、情報が。私の英文法の先生からね」
まあいいじゃないとセーラが笑った。あまりよくないと思うが。
「でも、それほど難しい問題だったかしら」
「難しいわよ。数学科のマドラスなんか、毎年解けない生徒が出るのが楽しみなマゾ問題出しては喜んでるのに。満点が出たからっていって私たちの学年全員に解かせて、難易度を確かめたりもしたのよ。まあ、私は解けたけどね」
日本でも有名な、論理的思考能力を図る問題である。
三人の若者が宿に泊まった。宿泊費をボーイに払った。千ずつである。
宿の主人が、若い奴らだからと五百を負けて、ボーイに返すように言った。
ボーイは、五百を三人で割ったら喧嘩になるだろうし、自分の懐に二百入れてしまった。
さて、百ずつお金を返された若者は一人あたり九百を払ったことになる。合わせて二千七百。ボーイがとったお金を加えると二千九百。おや、百足りないぞ?
さて百はどこに消えたのか。
まあ、こんな問題である。愛和は昔読んだ頭の体操的な本を思い出しながら図解も付けて丁寧に答えてやった。それが意外とほかの人には解けない問題だったらしい。
「私の周りでも解けてたのは半分もいなかったわよ」
ため息一つセーラが天を仰いだ。
「それよりも私にとっては英文法やフランス語の方がむずかしかったわ」
日本人であれば高校生どころか、多くの大学性でもなかなか難しいはずだ。まさにこれぞパズル。問題文を読解することからが試験です。
「たしかにね。異国語はむずかしいわね。私だってさっぱりわからない問題だってあるわよ。フランス語なんて特にね」
セーラはくすりとわらって、それにしても。と続ける。
「あなた英語本当に上手ね、誰に習ったの?」
「死んだ母に。外国語を学ぶ方法とか、全部教えてもらったの」
「それはステキなお母様だったのね。私も会ってみたかったわ」
心底残念そうにセーラがいうものだから、愛和はなんだか嬉しくなった。
「ありがとう! 実は後妻がいるのだけれどね、家事育児全般ダメ。日本じゃハウスキーパーもあまりいないし、無駄に高いしで頼めないから、結局私が全部家事とかしなきゃいけなかったの」
「あらら。じゃあ、もしかして家から逃げ出す感じでセントローズに?」
「そ、そんな感じ。父も仕事第一であんまり家に居着かなかったしね。正直者すぎて人を疑えないのよ。だから後妻にも騙されるし、私もここにいるし」
冗談めかして言うと、セーラも笑った。
「でも、大丈夫なの? 家開けてきても」
「大丈夫よ、父の両親、私のおじいちゃんとおばあちゃんに月に一回は顔を出してくれるように頼んだし。いろいろ協力してくれたのよ」
「いいわね、それなら安心だわ」
と、そこまで話が進んだとき、控えめにドアをノックする音が聞こえた。部屋のぬしである愛和がはいと返事をして扉を開けた。
「えっと、アイナ、た、タツマチさんですか?」
背丈の低い青い瞳のお人形を体現したような可愛らしい女の子が、ひらひらとしたピンク色の服をまとって立っていた。
「ええ、そうよ」おずおずときくその様子が可愛らしくて頬が緩む。
「同室のアリス、アリス・サンヴィターレと言います。よろしくお願いします」
ワンピースの裾をつまんで頭を下げる。
「あら、そうなんだ。私はアイナ・タツマチ。って、もうしってるね。よろしくお願いします。とりあえず部屋に入りなよ」
愛和の言葉に頷いて、招かれるままに部屋に入ったアリスは、しかし部屋の奥、椅子から立ち上がったセーラの姿に足を止めた。
「て、天使様?」
電気をつけていない部屋に差し込む午後の光がちょうどセーラの立つ位置をスポットライトのように切り取っていたのだ。
「私はセーラ。よろしくね、アリス」
差し出された手に答えるようにスポットライトに入るアリス。握手をする二人が金銀に輝いて、それこそ二人の天使のように見えた。
「うわお。目に幸せだわ」
愛和がのほほんとすると、二人が揃えたように振り向いた。
「あなた、自覚してないでしょう!」
「くすみのない黒髪! 夜色の瞳! あなたこそ東洋の天使です! 二人部屋に相応しいエンジェルです!」
二人に言われて愛和がたじろぐ。
――こんなんでも実際愛和の学園生活を大きく華やがせる出会いであるが、本人たちに全く自覚はない。
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