都城王土「ほう…。学園都市か、なるほどこの俺を迎えるに相応しい」10


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「安心しろ。俺がこの世にいる以上、世界は劇的で未来は薔薇色で現実は刺激的だ。 なんせこの俺が中心なのだからな」


.



ニヤリと都城王土は笑ってその指先を結標淡希の胸におく。
トクントクンと鼓動を続けている結標淡希の心の臓の響きを感じて都城王土は笑うのだ。


「貴様達の夢はすなわち俺の所有物でもあるのだ。 その夢、その身で以て叶わぬのなら、全てを俺に献上しろ。
 俺の気が向いたら俺が叶えてやってもよい。 なに、叶えるかどうかは俺が決めるがな」


それは傲慢で不遜で傲然で大胆不敵で泰然自若な宣言だったけど。
だけどそれは結標淡希の心の奥底、ひび割れていた魂を優しく暖めてくれた。

でも甘えるわけにはいかない。
結標淡希はまだ最後まで抗っていない。
胸に灯ったこの夢を。希望を。信念を。
自分一人で叶えたいのなら、都城王土に依存してはダメなのだ。
だから結標淡希は万感の思いを込めて礼を言う。


「…ありがと。 …でもさ。 …アンタに…都城王土に私の夢を献上するのは最後の最後にするね」


そうだ、結標淡希には共に視線をくぐりぬけた戦友がいる。
“あの子達”を結標淡希は絶対に見捨てない。


「だってさ、まだ私には。 まだ私のことを信じて待ってくれている“仲間”がいるんだし」


そう言ってゆっくりと大輪の白い花が咲くような笑みを見せる結標淡希はとてもとても美しかった。


その笑顔を見て、都城王土は感心したように小さく呟いた。

「…ふむ」

それだけ言ってただこちらを見つめる都城王土の視線に何故か胸が高鳴ってしまい慌てて結標淡希は問い返す。

「な…なに? …なによ?」

もしかして自分は変なことを言ってしまったのだろうか?
いやそんなはずはない。
でもそれならばどうして都城王土はニヤニヤと笑っているのだ?

混乱して立ち尽くしたままの結標淡希に向かって都城王土は笑いながら賛辞を述べる。


「なに。 中々いい気概だと思ってな。 涙だの鼻水だので笑いたくなるような酷い顔をしているが…
 まぁ俺の視界に存在することを許してやってもよいということよ」


そう言って都城王土は呵々と笑って。
更にもう一言意地悪そうに付け加えた。


「それとだ。 まだ成長途中のようだが。 だがまぁその身をもってこの俺を楽しませようというその心がけを褒めてやろうと思ってな」


「……え゛?」

そう言われて。
やっとようやくついに結標淡希は今の状況に気がついたのだ。


ブレザーがずり落ちてるなどいうレベルではない。
その白くきめこまやかな肌を、ふっくらとした女性らしい胸を盛大にまろびだしていて。
スカートなんてもう本来の機能を失い、布のベルトかと言いたくなるようだ。
しかも。
しかもしかも“心臓の直上”に都城王土の指先が触れている。

心臓の直上っていうことは“それはつまり都城王土が結標淡希のその瑞々しい果実のような胸に手をあてがっている”ということだ。

瞬間、結標淡希の頭が沸騰する。
顔どころではなく耳たぶやら首筋やらも真っ赤になって結標淡希はバババッ!と距離をとって抗議した。

「ちょっ!?ちょっと! 見ないでよ! ていうか気がついたらさっさと言いなさいよ! そもそも男なら服くらい貸しなさいよ!」

だが、そんな文句も都城王土にとっては意味が無い。


「なに、そう謙遜するでないぞ。 俺は高千穂君や雲仙二年生のように巨乳だ貧乳だので区別はせん。
 例え凹凸の感触がいささか不満だったとしてもそれはそれでまた一興というものだ」


ウムウムとそう頷く都城王土。
そして、肌を赤く上気させた結標淡希を見て片目をつむりながら面白そうに気付いたことを口にする。


「結標淡希よ。 おまえ随分と面白いぞ。 赤毛で赤い頬で赤い首筋で赤い肌とは芸が凝ってるな。
 ならもういっそのこと結標“赤希”にでも改名したらどうだ?」


もうそれが結標淡希の限界だった。



「…ッ! バ、バカッ! アンタバカじゃないの!? もうアンタなに言ってるのよぉぉぉぉ!!!」

結標淡希はなんか不出来な体育座りのような珍妙なポーズをとりながら一生懸命、都城王土に文句を言う。

ある意味もはや全身急所だらけで動くとも出来ない。
立てば上半身の胸とか下半身の下着が丸見えで、座ってもやっぱり上半身の胸とか下半身の下着が丸見えなのだ。

服を貸してよ! 断る。 貸してったら貸してよ! 断固として断る。 などといった文字におこすのも馬鹿らしい口喧嘩が数分続く。

で、やっぱり結標淡希は都城王土から服を剥ぎ取ることが出来なかった。
まぁある意味それは当然だろう。
北風と太陽だって旅人の服を剥ぎ取るのは太陽だし、ましてや太陽のような都城王土が服を剥ぎ取られるのをよしとする訳がない。

結局。
結標淡希は『座標移動《ムーブポイント》』を使って、そこらに平伏したままの黒いスーツを来た男達から服を徴収することにした。
さすがにシャツを着るのはどこか気持ちが悪くて、素肌の上に黒いジャケットを羽織り、ウエストがぶかぶかなズボンを履くことにして。


「ッ!? だから見ないでってば!!!」


いそいそと着替えようとする結標淡希を都城王土は当然のように面白そうに笑って見ていた。
女子の着替えを見て、目を伏せるとか明後日の方向を向くとかいったデリカシーが都城王土にあるわけはない。


『座標移動《ムーブポイント》』で服を剥ぎ取ることが出来たのだ。
ならそれを応用して服を着ればいいのに結標淡希はそんなことにも気付かない程恥ずかしくて。

結標淡希は真っ赤になりながら都城王土が“見守る”なかで生着替えをお披露目することになってしまったのだ。



きっとそこに行橋未造がいたら少しだけ頬を膨らませながら

『王土はそんなんだからフラれちゃうんだよ!』

なんて類のことを言っていたかもしれないけれど、残念ながら行橋未造はここにはいない。


そしてようやく着替えが終わって、ずり落ちるズボンを片手で抑えながら結標淡希が自分を取り戻す。

その時、都城王土が不意に顎で“ソレ”を指し示しながら問いかけた。

「おい結標淡希。 そう言えばだ。 アレはどうする?」

乙女の一大事である生着替えを一部始終見ていたことなどもう忘れたかのようなその口調。
何だかこれ以上文句を言うのも馬鹿らしく、肩を落としながら結標淡希が言われたままに“ソレ”を見た。

そこには。 [キャリーケース]が[残骸]が転がっていた。

何の役にも立たないそれ。
むしろ[組織]の[M000]の残り香のように思えて結標淡希は鼻にシワを寄せる。

例え今自分がこれを奪って逃げたとしても、学園都市と交渉する術はない。
そしてそんなことをしたら、また白い死神がやってくるだろう。
よく考えてみると、きっと一方通行《アクセラレータ》は結標淡希が言うだろう答えを予見して、都城王土がするだろうことを確信していたから去ったのだろう。

だから結標淡希はいらないという。
そんなものは必要ないという。

“仲間”は自分の手で救うのだ。
泥水をすすって、苦痛に塗れて、後悔の念に苛まれてもそれが結標淡希の責任なのだから。



.

「“ソレ”は私の間違い。 …だからさ。 アンタに頼んでもいいかな?」


それを聞いて、都城王土はクハハッ!と笑った。


「よく言った。 ならばそれは俺が請け負ってやろう。 なに、気にせんでもよい。 これは俺の気まぐれだ」


それと同時にフワリと[残骸]が宙に浮く。
[残骸]は超高気密性の各種宇宙線対策すら施してあるスペースシャトルの外装よりも硬い近代科学の金属結晶で守られている。

だが、だからといってそれがどうした?
所詮そんな結晶も太陽に突っ込んでしまえば等しく燃え尽きるだけなのだ。

当然、都城王土にとってそれの破壊など赤子の手をひねるよりも容易い。
さらに別段、都城王土は言葉を口にしなければ『創帝《クリエイト》』が使えないわけではない。
ましてやいちいちそんなことに口を開くのも面倒だ。

だから。

宙に浮いた[残骸]は無言の都城王土と無言の結標淡希が見つめる中で、何の前触れもなくただ呆気無く粉砕され四散した。


例えるならそれは特大の満塁ホームランを目の前で見たように爽快で。
木っ端微塵となった[残骸]はまるで過去の惨めな自分の“残骸”のように結標淡希は見えて。
結標淡希はゆっくりと大きく息を吐いて、過去の哀れな自分に別れを告げる。


そして…それが意味することは。
もうそろそろ舞台の幕が降りるということ。
豪華絢爛、華麗奔放、大盤振る舞いな、どんな夢よりも刺激的な一夜限りの大舞台の終りを告げるブザーのように。
遠方からは警備員《アンチスキル》の乗る装甲車のサイレンが響いてくる。

だから結標淡希は別れを告げる。

「…最後までありがと。 でもね、ここからは私の一人舞台なの。 だからさ。 …アンタはもう行きなよ」

そう静かに、けれどその瞳に信念の炎を燃やして結標淡希はそう別れの言葉を告げる。

「………」

都城王土はそれを聞いて何も言わず。 ただ黙して静かに結標淡希の続きを促す。

「あと少しで警備員《アンチスキル》がここに来る」

そう言って結標淡希は叱られた悪戯っ子のように少し笑う。

「私は[組織]の一員で。 風紀委員《ジャッジメント》を思いっきり痛ぶって。 ビルをぶち壊したんだ」

結標淡希は過去の愚かな自分がしでかした行為の責任をとると決めたのだ。

「だから私はここに残る。 そして全部話して、罰を受ける」

結標淡希は迷わないし、もう逃げない。

「このまま逃げ出したらそれこそ“仲間”を裏切っちゃうことになるしね」

だから結標淡希は都城王土に別れを告げるのだ。


そして都城王土はそれを止めない。
止める気もない。

ただ鷹揚に頷いて結標淡希を肯定するだけだ。

「なるほど、いい意地の張り具合だな結標淡希。 ならば俺も安心しておまえにこの場を譲ってやろう」

相も変わらず最後の最後まで我を突き通す都城王土を見て、結標淡希は面白そうに眩しそうに羨ましそうにクスリと笑う。

「…ね。 普通、こーゆー時はさ。 俺もここに残る!とか。 また会おう!とか言うべきなんじゃないの?」

そう言って笑う結標淡希を見て、都城王土も笑う。

「おいおい。 なんだよ結標淡希。 俺にそんなことを言って欲しかったのか?」

だけど、そんな言葉は都城王土が口にすべき言葉でないのは判っている。
だから結標淡希は満面の笑みを浮かべて、こう答えるのだ。

「フフッ…全然! そんなのアンタには似合わないよね」

そして、トンッと軽く大地を蹴って。 
太陽のように巨大な男に別れを告げる。

「じゃあね“王土”。 私は忘れないよ。 都城王土という男を。 絶対に絶対に忘れないからね」

その言葉と共にゆっくりとカーテンが降りる。 舞台のどん帳が降りていく。
もうこれで終わりだ。
長い長い舞台が今この瞬間、完全に完璧に十全に終りを告げたのだ。

けれど…実はまだもう少しだけ。 カーテンコールが残っている。


■翌日・とある病院

学園都市どころか世界で5本の指には入るだろうと言われている名医がいる病院の待合室。

なんとそこにはほっぺたに真っ赤なモミジを貼りつけて泣きそうな顔をしている上条当麻が!
そしてその隣に座っているのはツヤツヤとした幸せそうな顔のインデックスが!

昨夜の一戦は終わってからが大変だった。
急行した警備員《アンチスキル》に昏倒した男達の素性を事細かく説明するも信じてもらえそうになく。
どうしようと顔を見合わせた上条当麻達を救ったのは鉄装綴里だった。

御坂美琴と白井黒子の二人の少女と関わったことのあるメガネの警備員《アンチスキル》は事情をすべて聞いてくれて。
隊長の黄泉川先輩とは別行動をとっているので後日またお話を聞かせてもらうと思いますけど、と笑いながら信じてくれた。
そしてようやく4人の少年少女達は解放されたのだ。

で、上条当麻は傷を負った白井黒子のお見舞いに来たのだけれど。
運悪く不幸にも結果的に偶然白井黒子の着替えを覗いてしまうこととなり、まぁそれは当然ながら猛烈なビンタを喰らって部屋から閉めだされているのだ。

「あぁ…不幸だぁ…」

ボソリと呟く上条当麻を見てインデックスがポンポンと慰めるように肩を叩く。

「気落ちしちゃダメだよとーま? 諦めなければ道は開けるっていうのはどの宗教でもどの世界でも共通なんだよ?」

それを聞いて上条当麻は、この暴食シスターが…、とプルプル身体を震わせる。

最高級の特選和牛が3キログラム。
さすがに幾ら何でもインデックスは全部食べはしなかったけれども。
半分の1.5キロは平らげて、しかも残りの半分は生焼けだか黒焦げだか良くわからない状況で保存されていたのだ。

こ…これはいったいどういうことですかインデックスさん?と聞いてみれば。
ごめんね…とーまの為に一番美味しい状態で保存してあげたかったんだよ?と殊勝に言われてはそれ以上責めることもできない。

だから上条当麻のお腹は今日もモヤシでいっぱいだ。
そんなモヤシ臭い気がしなくもない溜め息を吐いたその時だった。


「おいおい、なんだ上条。 俺が来たというのにその腑抜けた顔は何事だ」


自信満々の男の声が病院の待合室に響く。

「え? …あ、都城…先輩?」

病院と都城王土という組み合わせがまるっきり似合わなくて、思わずそう問い返す上条当麻だが。

「うむ。 俺だ」

そう言って頷く金髪紅眼の男などこの世に二人といまい。

「なに。 正直なところ退屈でな。 いい暇潰しになりそうだから俺が来てやったのだ」

そう言って何が可笑しいのかクククと笑う都城王土の隣には当然行橋未造がいる。

「えへへ☆ 昔の王土なら『俺じゃなくておまえが来い』とでも言いそうだけどね☆」

そう言って行橋未造が可愛らしく笑った。
当然仮面はつけていない。
都城王土が隣にいるなら行橋未造は仮面で己を隠す必要がないのだ。

.
「クハハ 言っただろう行橋? 俺は常に進化して俺の限界を超えているからこその俺なのだ」

そう言って、都城王土が白井黒子の病室のドアをガラリと開けた。
その自信に満ちた動きを上条当麻は止めることも出来ず。

上条当麻は“下着姿”の白井黒子を目撃してしまい、退出を強制的に促されたけど。
体を拭いて着替えるのならそりゃ当然“下着も外さなけりゃ”ならないわけで。

つまり、都城王土の目の前には上半身裸の白井黒子がそこにいたのだ。

「…なっ!? なななななっっ!!!?」

上条当麻の耳には素っ頓狂な声が届く。
あぁご愁傷さまです…都城先輩、と上条当麻は心のなかで念仏を唱えるけれど。


「…おい白黒。 幾ら何でもその胸は薄すぎるだろうが。 前か後ろか判らんぞ? もう少し成長しろよ」


お茶でも飲んでいたら確実に吹き出していただろうすんごい無礼な言葉を都城王土は口にしたのだ。

「くぁwせdrftgyふじk!!!!!!!」

悲鳴をあげながらバッグやら携帯やら鉄矢やら枕やらゲコ太ストラップやら(この時は病室の中にいたもう一人の少女が悲鳴をあげた)で都城王土を攻撃する白井黒子だが。
それらすべてを都城王土は苦も無くヒョイヒョイと躱しながら笑う。

「なに、それだけ騒げるなら問題あるまい。 あぁ白黒よ。 おまえ“も”牛乳を飲むがいいぞ」

そう言うと都城王土は、もう用はすんだと言わんばかりに背を向けて白井黒子の病室から退出をしたのだ。

そんな都城王土を見てインデックスはポカンと口を開けたままの上条当麻の袖を引っ張った。

「…ね、とーま? 女の子の着替えを見て文句を言えちゃうってどうゆうことなの? なんだかわたしには全然判んないんだよ?」

「いやいやそんなの上条さんが判るわけないじゃありませんか…」

凄すぎませんかこの先輩? なんかもう着替え姿が気に食わなかったら逆に叱りつけそうな感じですよ?、と上条当麻は思っていたら。

「えへへ☆ そんなことはない…とは言い切れないけど多分ダイジョーブだと思うよ☆」

何故か行橋未造が上条当麻の心の声に返事をする。

「…ん? あれ今俺口に出してた?」

不思議そうに眉をひそめる上条当麻だが、それに返事はなく。
それどころかさらに不可解なことを行橋未造は口にした。

「ねっ! それよりさ。 あのゴーグルをかけた女の子。 えっと…御坂妹さん?だっけ?
 あの娘のとこに行くのはもうちょっと“待っててあげて”よね☆」

そう言って行橋未造は可愛らしいイタズラを仕掛けた子供のように笑ったのだ。

「は、はぁ…? 了解ですよ?」

時間は有り余っているし、どうせそこらに散乱した白井黒子の私物も自分が拾うんだろうし。
だから上条当麻はよく判らないけどもとりあえず生返事を返しておいた。
そう。 これは都城王土も知らない。
行橋未造が自分で決めて自分で誘導して自分でセッティングした“二人の少女”の再会なのだ。
だから誰にも邪魔してほしくはない。
道化師はロマンチックな出会いの時間を演出することだって得意なのだ。


■とある病院・特別集中治療室

その病室にはベッドがなく、代わりにSF映画に出てきそうなカプセルがあった。
その中心でフワフワと浮かんでいるのは御坂妹だった。
絶対安静状態だというのに学園都市を駆け巡り、更には戦闘をしたせいで、今御坂妹はここから出ることが出来ない。

瞳を閉じてビスクドールのように液体の中に浮かんでいる御坂妹だが、側にある心電図からはしっかりとした鼓動を示すモニターがあった。

そしてその前には一人の少女が立っていた。

「最初は嫌がらせか冗談かと思っていたけれど…」

小さい呟きと共に強化ガラスの向こうにいる御坂妹の頬に触れるようにして手を伸ばす。
ウェーブ髪の少女の名前は布束砥信。

深い眠りについているのだろうか?
御坂妹はまぶたを閉じたまま液体に揺られている。

布束砥信は昨夜の事を思い出す。
自室にいたら突然携帯電話に謎のメールが飛び込んできたのだ。

宛先不明なだけでも怪しいというのに、文面は更に怪しかった。

【[残骸《レムナント》]?とかいうので“妹達《シスターズ》”のピンチ?かもしれないんだ☆ 暇だったらこっちにおいでよ☆】

たったそれだけの簡易なメッセージと添付された地図。
けれど気がつけば布束砥信は居ても立ってもいられず自室を飛び出したのだ。



言われるがままに走ってみれば。
そこには確かに情報通り、謎の黒服達が倒れ伏している。

惨状の中、それでも誰一人死んでいないその様を見て[学習装置《テスタメント》]を監修した布束砥信は確信を深めた。

“彼女”は“妹達”は決して人の命を軽々しく扱わない。
命令ならばともかく、“彼女達”は己の意志で人を殺そうとは望んでいない。

そして更にはもう一つ。
この針の穴を通すような精密射撃は間違いない。
きっと絶対恐らく“彼女”だ。

だから布束砥信は追った。
逃げ出そうとする黒服の男を。
絶対にもう[実験]は再開させないしさせるつもりもない。

そして、今。
布束砥信はここにいる。
再び舞い込んできた謎のメールを信じてやってきたのだ。

「indeed あれが誰の仕業だろうと構いはしないわ …だってこんなに嬉しいんですもの」

そう言ってもう一度強化ガラスを撫でると布束砥信はその場より去る。
きっと“彼女”は自分のことを恨んでいるし、もしかしたら忘れているのかもしれない。

けれどそれでもいい。
自分は縁の下で支えるだけでいい。
きっと“妹達”には大事な人がもういるはずだ。

そう思って布束砥信は姿を消して、けれどそれを待っていたかのようにパチリと“彼女”が液体の中で目を開いたのだ。


.
「フッフッフ…甘いですね、とミサカは狸寝入りの上達っぷりを自画自賛します」

液体の中で御坂妹はにんまりと笑う。
けれどもその笑みはすぐに終わる。
液体をかき分けて、ゆっくりと布束砥信が触れた場所に手を当てた。

どれほど言葉をかけたかった。
どれほど感謝を伝えたかったか。
どれほど笑顔を見たかったか。
私は“妹達”はこんなに成長したのだと、どれほど言いたかったか。

だって布束砥信はある意味で親のような人なのだ。
今の自分達は布束砥信がいたからここにいるのだ。

けれどそれは伝えるのは今じゃない。
薄暗い部屋の中で、液体の中で浮かんでいる今じゃない。

布束砥信と会うのならば、それこそ“太陽”の日差しの下で出会うのが一番だろう。
だからここは我慢して、グッと言葉を飲み込んで、知らないフリをした。

どうやって声をかけてやりましょうか?と御坂妹はミサカネットワークで案を募集する。
スカートめくり! 後ろから目隠し! パンをくわえて曲がり角! 途端、大盛況に盛り上がる“妹達”による脳内会議。

そういえばあの金髪の男性と小さな子供は誰なんでしょう?ふと御坂妹はそう思う。
カッコイイのでは? 正直怖いです。 ちっちゃいお子さんがお気に入りです。 そんな思いを聞きつけてあっという間に脱線しだす会話は布束砥信の望む年相応の少女その

もの。

「どちらにしろ…きっとあの方達は敵ではないはずです、とミサカはそう思います」

そう呟いた御坂妹の意見には1万の“妹達”による満場一致の肯定が返ってきた。


■とある病院・個室

「あァ~…だりィ。 …よォそういやァヨミカワはどこ行ってンだァ?」

心底気怠そうな声がどうでもいいようにそう問を投げかける。
当然、この特徴的な声の主は一方通行《アクセラレータ》である。
そんな一方通行に返ってきたのは子供をたしなめるような打ち止め《ラストオーダー》の声だった。

「あ、今ネットワークを駆使して劇的な出会いを検索してるからあなたの相手はちょっと無理かもってミサカはミサカは言ってみる」

ヒクヒクと一方通行の頬が引き攣る。

「…あァァァ!? おいこらクソガキィィ!? 逆だろうがそりゃァ!!!」

同時に枕をぶん投げる音やキャイキャイとはしゃぐ音が響きだして。
そのうちようやくじゃれあうのに疲れたのだろうか、打ち止めがその問に答えだした。

「もぉーしょうがないなぁ。 ヨミカワは[科学結社]の連中から話を聞き出すために今も警備員《アンチスキル》本部にこもってるんだよ、とミサカはミサカは教えてあげる」

目の下にクマをつくってお肌の年齢がやばかったかも、とどうでもいい情報も一緒に伝えてくるがそれは無視。

「はァーン。 で、なァーンでそれがこんなに時間かかってるンだァ?」

なんとなく予測はつくけどそれでも一方通行は問いかける。

「んーとね。 まず[科学結社]のリーダーがとんでもない重症で話を聞き出すだけで一苦労なんだって、ってミサカはミサカはあなたの疑問に答えてあげる」

ゴミクズの癖に随分としぶといもンだなァと笑いそうになって、ふと打ち止めの言葉が気になった。


「…“まず”? つーこたァまだ他にもあるのかよ」

そう問う一方通行に打ち止めがコクンと頷いて、[残骸]の事件の本質を説明した。

「ヨミカワが言うには、[科学結社]の目的は要するに[残骸]に“超能力”を宿して学園都市に対抗したかったんだって、ってミサカはミサカはそのままあなたにお伝えしてみ

る」

そう、結局のところそれが[科学結社]の[組織]の[M000]の目的だった。
とどのつまりは“チカラ”への対抗手段を欲していただけだった。

[残骸]に“チカラ”を押しこめば絶対に制御ができる。
機械に意志はないのだから、“バケモノ”なんかよりも簡単に制御できる。
そうすれば学園都市にだけデカイ顔はさせない。

自分で手を汚す覚悟もない癖に“チカラ”だけを欲していた連中が[科学結社]と名乗っていたのだ。

「カッ! …くだらねェ」

どうでもいいと笑いながらゴロリと一方通行は布団に横になる。
結局はあいつらの自業自得だったっつーことだろ、と一方通行は笑う。

求めるならば奪われることもあるという“人間”の。 否、“生物”のルールを忘れたんだから同情の余地はない。

「つゥーかよォ… 退屈すぎてたまンねェよ。 おいクソガキ、なンか面白いことやってみろやァ」

そんな無理難題を打ち止めに一方通行が押し付けて。
それに返ってきたのはやっぱりタイミングのよすぎる“アイツ”の声だった。


「クハハ! 丁度良かったな一方通行《アクセラレータ》。 喜べ。 俺が来たのだ。 退屈なぞはさせんぞ」


堂々と怖じることも遠慮することもなく部屋に入ってきたのは都城王土である。

「……ンだよ。まァた“王土”かよ 随分とまァ、テメェも暇してンだなァ?」

そう言ってベッドに寝転がったまま挑発するように笑う一方通行。
けれどそれを聞いて都城王土も楽しそうに笑う。

「クハッ! こんな昼日中からベッドに寝転がってるおまえ言われたくはないわ」

それを聞いて一方通行がガバとベッドからその身体をおこす。

「あァ!? うっせェよコラァ! 別に好きでこうしてンじゃねェンだよォ!」

そしてポンポンと罵詈雑言と挑発が飛び交う中。
行橋未造と打ち止めはニコニコとその様を見ていた。

「あの一方通行があんなに楽しそうなのは初めて見たかもってミサカはミサカは親のような気持ちになって頷いてみる」

そう言って打ち止めが笑って。

「えへへ☆ そういえば高千穂君も言ってたなぁ。 『俺より強い奴がいるだけで嬉しい』ってね☆」

そう言って行橋未造が笑った。
しかし、ふと打ち止めがその言葉に気になって聞いてみることにした。


「あれ?ちょっと待って?この場合強い方ってどっちなの?ってミサカはミサカは答えを確信してるけども一応聞いてみる」

そう打ち止めに問われて。

「エヘヘ☆ おかしなことを言わないでよ。 そんなの当然決まってるじゃないか☆」

行橋未造が間髪いれずにそう答えて。
気がつけば行橋未造と打ち止めはメラメラと燃え盛って対立していた。

「そりゃまぁ?あなたの金髪さんも強いかもしれないけど?でもウチの一方通行のほうが絶対強いから、ってミサカはミサカは言い切ってみる!」

そう打ち止めが一方通行最強説を推せば。

「エヘヘ☆ そんな訳ないじゃないか☆ 王土は絶対者なんだから王土のほうが強いに決まってるよ☆」

行橋未造は都城王土絶対者説を推す。

そんな感じでガチンと額をぶつけて己が信じている人の強いところやカッコイイところを言い合ってるその姿を見て。

当の本人達の熱はそりゃもう完全に冷めていた。

今の議論の内容は一緒に何回お風呂に入ったのか?という議題になっていて、それがどうして強いのかという結論になるのかお互い判らぬまま言い争う。

「エヘヘ! お風呂に入るときにバスタオル巻いてるの? それならボクの勝ちだよ? だってボクは王土にならどこを見られても構わないんだからね☆」

えっへんと勝ち誇る行橋未造に打ち止めが懸命に抗議する。

「ち、違うから!あれは一線を超えるときはロマンチックなムードでって決めてるから巻いてただけであって!
 ミサカもミサカも別にどこを見られても構わないんだから!」


じゃあもう今からお風呂に入るから見ててよね!とか言い出しそうな打ち止めを見て一方通行がため息をつく。

「…おいコラなにコッパズカシイこと言ってンだァ? クソガキは黙ってろ」

その言葉と同時に打ち止めの顔面を枕で抑えつける一方通行。
ぷぎゅ!といった鼻声と共にバタバタと暴れる打ち止めの耳元で一方通行が叱る。

「おいコラテメェ。 これ以上変なこと言ったらよォ… マジもマジ、大マジで怒ンぞォ!?」

そう言われ、ようやく暴れるのをやめて打ち止めはコクンと枕と共に頷いた。

「チッ… 判りゃあいーンだよ判りゃあな」

そう言っておとなしくなった打ち止めの顔面から枕を放し、自分の枕と打ち止めの間にヨダレの橋ができてるのを見た一方通行がゲッ!と呻いて。
行橋未造も行橋未造で都城王土にたしなめられていた。

「おい行橋よ。 いい加減にしろ。 俺の従者であるおまえが俺と共に風呂にはいることなど何の自慢にもならんだろうが」

凄まじい理論でそう都城王土が行橋未造を叱れば。

「う、うん…ごめんね王土」

行橋未造はショボンとした顔で何故か謝る。
この場に第三者がいればそれこそ全力でもってブッ飛ばされるだろうそんな騒動も収まって。
ようやく、改めて一方通行と都城王土が対峙した。

「…で? 一体何しにきやがったンだァ“王土ォ”?」

そう問われて都城王土がようやくここに来た目的を口にする。



.
「なに、この俺は施しなど受けんのだ。 覚えているか“一方通行《アクセラレータ》”?」


【おい、一方通行《アクセラレータ》 忘れ物だぞ?】

地面に転がってるのは缶コーヒーがつまったコンビニ袋。

【…いらね どっかの馬鹿とやりあったおかげで充分目が覚めちまったンでなァ 欲しけりゃあくれてやンよ】


つまりはたったそれだけの理由だった。
都城王土が行橋未造の籠のようなリュックから“ソレ”を取り出して、ドン!とサイドテーブルに置く。

けれど“ソレ”は缶コーヒーではない。
都城王土はニヤリと口を歪めてこう言った。

「俺が見るに、どうもおまえは生っちろい。 きっとカルシウムが足りてないのだ」

何せちょっとばかり唇が切れただけで涙ぐむのだからな、と都城王土は意地が悪そうに笑う。

サイドテーブルに置かれているのは牛乳だった。
愛飲家は多く、どこぞの巨乳でメガネな風紀委員《ジャッジメント》もそれを飲むのは欠かさない。

一方通行はテーブルに置かれた“ムサシノ牛乳”を見て、プルプルと肩を震わせて。

「テメェこら“王土”ォォッッ!! 今ここでぶっ殺すぞコラァァァァ!!」

枕をぶん投げて都城王土を追い返した。



■とある病院・個室

「おお怖い怖い。 何もあんなに怒る必要もないだろうが。 なぁ行橋?」

そう笑いながら都城王土が歩く。

「エヘヘ☆ あれはまぁ怒ってもしょうがないと思うよ☆」

トテトテと都城王土の後ろを歩きながら面白そうに行橋未造が笑う。

結局、一方通行は完全にへそを曲げてもう話そうともしなかった。
けれど“ムサシノ牛乳”を投げつけなかったところを見れば、きっと今日か明日にでも飲むのだろう。

ならばまぁそれでもよいか、と都城王土は思った。

そんな都城王土の後ろに付いていく行橋未造はふと思った。
今、都城王土は何処に向かっているのだ?
もう都城王土は都城王土と関わった人間全員と話をして触れ合ったはずだ。

ここにいる人間を行橋未造は見たことがない。
そして都城王土はある病室の前に立ち止まり自分の部屋のように遠慮なくその中に足を踏み入れながらこう言ったのだ。


    「この俺が来てやったのだ。 まさか忘れたなどとは言わせんぞ?」


【じゃあね“王土”。 私は忘れないよ。 都城王土という男を。 絶対に絶対に忘れないからね】


そこには苦笑をして都城王土を迎える結標淡希がいた。
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