都城王土「ほう…。学園都市か、なるほどこの俺を迎えるに相応しい」8


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諸とも切り捨てられた。
自分も。 “仲間”も。 儚い“望み”も。
全ては結標淡希が今引きずっている[残骸]に劣るものであると判断された。

最後の希望が砕かれて、それを支えにしていた足がもう限界だとでもいうように立ち続けることを放棄する。
ペタンと座り込んで、結標淡希はうつろな笑い声をあげた。

「・・・は・・・あは・・・…あはは…」

また言われた。

“バケモノ”

それが嫌で、”それを無くしてくれると言っていた[組織]すら彼女を認めはしなかった。
結標淡希からすればよっぽど組織のほうが“バケモノ”だ。
命を手駒として扱い、失敗をすれば切り捨てられた。

ボロボロと涙を流しながら結標淡希は自分の肩に両腕を巻きつける。
そうでもしなければ自分が消えてしまいそうで。
絶望で死んでしまいそうで。

「いやだ… いやだよぉ… なんで…なんでこうなったのよぉ……」

だから、結標淡希は涙でぐしゃぐしゃになってただその場に蹲り泣くことしかできなかった。


■学園都市・総合ビル前

そこには和やかな雰囲気の少年少女達がいた。
上条当麻、御坂美琴、白井黒子、行橋未造の4人は一つ所に集まって今後どうするかという相談をしていたのだ。

「あ、そういや… 都城先輩は何処行ったんだ?」

愛しのお姉様の胸元に飛び込んでスリスリ頬ずっている白井黒子に若干ヒきながらそう上条当麻が行橋未造に問いかける。

「王土? 王土なら話の続きをしにいったんだよ☆」

そう言ってエヘヘと笑う行橋未造。

確かに都城王土は言った。


【なんともまぁせっかちな娘だ。 この俺がまだ話している途中だと言うのにな】


そう、都城王土が話すと決めて話をしたのならば、それを終わらせるのは都城王土でなければならない。
第三者の都合でそれを中断などということは決して許されない。

行橋未造の言う「話の続き」がなんであるか察した白井黒子はガバと振り向いた。

「待ってくださいですの! 私も向かいますの!」

白井黒子は、あの赤毛の少女の気持ちが判る。
それは能力を持つものならば誰しもがその胸に秘めている想いなのだ。
だから白井黒子は赤毛の少女を止めたい。



あの赤毛の少女の慟哭のような願いを白井黒子は肯定出来ないけれど、それでも理解は出来る。

彼女は。
結標淡希という名の少女は。

ほんの少し、ほんのちょっとだけ道を歩み間違えただけなのだ。
人は人と繋がって自分を認識する。

白井黒子は御坂美琴と出会わなければ。
御坂美琴は上条当麻と出会わなければ。

それこそ御坂美琴や白井黒子が能力を呪い“チカラ”を呪っていてもおかしくはない。

今にも走り出しそうな白井黒子だったが、その肩を優しくショートカットの少女が押し留める。

「事情は聞いたから大体わかるけどさ。 …アンタもうボロボロじゃない」

御坂美琴はそう言いながら白井黒子の身体を案ずる。
放っておけばこの後輩はどんな傷を負ったとしても信念を貫こうとするだろう。

「心配ご無用ですのお姉様! 黒子はもう大丈夫ですの! 演算も今ならば恐らく出来るでしょうし…何より放ってはおけませんの!」

この細い身体のどこにそんな意志が眠っているのだろうと御坂美琴は思う。
実は白井黒子のその信念は“お姉様”がいるからこそなのだが、それに気付かない御坂美琴は苦笑いをするしかない。

しょうがない、そんなら私も付き合うか、と御坂美琴が思った時だった。

「んー… でもね☆ それちょっと無理かも☆」

白い仮面をつけた行橋未造が笑った。

「えっと… そりゃまたいったいぜんたいどゆことですか?」

唐突にそんな事を言った行橋未造に上条当麻が不思議そうな声をかける。
そんな上条当麻に向かって行橋未造はひいふうみいよと指を折って。

「えへへ☆ あと30秒もすれば判るんだけどまぁいいか。
 防弾仕様のバンが5台。 内部には銃火器で武装した人間が平均5人ってところかな?」

それは警備員《アンチスキル》ではない。
彼等は装甲車を使っているのだ。
それが意味することを何となく理解しながら上条当麻が問う。

「…それって …つまり」

そんな上条当麻に向かって行橋未造がエヘヘと笑って答えた。

「うん☆ 白井さんが言ってた[組織]ってゆーのじゃない? ボクはよく分からないけどさ、多分それだよ☆」

何故こんなことを知っているのか。
それは行橋未造の“異常”、『狭き門《ラビットラビリンス》』に起因する。

行橋未造は“人の心を読む”ことが出来る。
厳密に言えば“思考を読む”といったほうが正しいだろう。

人間の体内外から漏れ出る電磁波をその皮膚で“受信”するのだ。
そしてそれはその実、人間相手に使うよりも適した相手がいる。

機械だ。
ノイズが混じりやすい人間の思考よりも電磁波の塊である精密機械を相手取る時のほうが行橋未造はその“異常”を発揮できる。
いうなればそれこそが行橋未造の真骨頂である。



そう。
行橋未造は電磁波の塊で精密機械である“携帯電話”を御坂美琴に借りていた。

ならば出来る。
学園都市に通じている端末からありとあらゆる情報をその目にすることが出来る。

御坂美琴が電子の世界に“侵入”をすることができるのならば。
行橋未造は電子の世界で“閲覧”をすることができるのだ。

行橋未造と同じことを“超電磁砲”である御坂美琴が出来るのか?
否、それは不可能である。

以前、御坂美琴に向かってそのようなことを聞いた子供がいた。
電話のように遠方にいる相手と“意思の疎通”が出来るのか?という疑問に御坂美琴は笑って無理だと答えた。
脳波の波形が近似しているならばともかくとして。
“意思の疎通”どころか相手の居場所すら判るわけがないと。

だが、例外は存在する。
それは都城王土の“異常”である『創帝《クリエイト》』にも同じことが言える。

『異常《アブノーマル》』は大抵の場合たった一点のみに絞られて特化していると言われている。

都城王土も行橋未造も“超電磁砲”のような大出力の電力を体外に放射したり、バリアーのように電磁波を貼れるわけではない。

けれど…学園都市風に言うならばだ。

御坂美琴は“汎用型”で応用のきく『電撃使い《エレクトロマスター》』と呼ぶならば。
都城王土と行橋未造は“超特化型”の限定的な『電撃使い《エレクトロマスター》』と呼ぶべきが相応しい。

もっとも…都城王土ともう一人の“生徒会長”に限ってはそれすら例外ではあるのだが。


行橋未造の宣言通り。
きっかり30秒後だった。

けたたましいブレーキ音が鳴り響き黒いバンが何台も止まったかと思うと、次々に黒いスーツを着た男達が車から降りてくる。
その手には引鉄を絞るだけで相手を殺すことが出来る拳銃が握られている。

しかし、その黒いスーツの男達は顔を見合わせたまま。
…情報と違う。
ここには[A001]が“バケモノ”が[残骸]を持って待機しているはずなのだ。

けれど目の前にいるのは見たこともない少年少女達。
黒いスーツの男達は知らない。
自分達までもが切り捨てられたことを。

だから銃を振りかざして、銃口を突きつけて子供達に詰問する。


「おいガキ共! 答えろ! これはいったいどういうことだ! [残骸]はどこだ!
 [A001]はどこにいった! 貴様等はあの“バケモノ”がいう仲間なのか!」


その言葉が決定的だった。

黒いスーツを身につけ、武装した[科学結社]の男達は気づいていない。
その言葉が持つ意味を。
その無遠慮な物言いが4人の少年少女達の純粋な魂を侮辱しているということを。


既に白井黒子から話を聞いて理解している。
今、目の前にいるこの黒いスーツを着た男達。
こいつらが哀れな少女の心を弄び、操っていたのだということをだ。

ならば、代弁しなければならない。
赤毛の少女の…いや“チカラ”を呪う全ての能力者の苦痛を利用した“大人達”に、抗わなければならない。
銃口の奥、ポッカリと闇のように広がっているその悪意に向かって、“子供達”は立ち向かう。

ショートカットの少女がバチン!と凄まじい音をたてて雷をその身に纏った。

「……へぇ~ つまりさぁ… こいつらが元凶ってわけよね?」

荒れ狂う雷のような怒りを抑えきれずに『超電磁砲《レールガン》』が声を震わて。
そしてその隣にシュン!と音を立ててツインテールの少女が並び立って。

「お姉さま…待って下さいまし。 あの娘を言い様に操っていた“クズヤロウ”達がお相手ならば… ワタクシも少々怒りが抑えられないんですの」

『空間移動《テレポート》』が太もものガーターベルトから鉄矢を取り出しながら、赤毛の少女の無念の涙を思い出し歯噛みして。
その隣にボキリ!と拳を鳴らしながらツンツン頭の少年が並び立って。

「世界の半分…にしちゃあちょっとばかし数が少ないけどさ。 それでも約束は守らないとな」

約束を守るためならば、誰が相手だろうと退きはしない『幻想殺し《イマジンブレイカー》』の隣には。
バサリ!とマフラーを舞わせるようにして仮面をつけた子供が並び立って。

「えへへっ! ボクはバトル向きじゃあないんだけどなぁ☆」

『狭き門《ラビットラビリンス》』は道化のようにおどけながら、己の絶対者の足を引っ張らないよう自らの役割を遂行するのだ。

そして。 4人の“子供達”は、20人を超える鉄の凶器をもった“大人達”に向かって“革命”を開始した。


■学園都市・大通り

蹲って泣きべそをかきながら。
結標淡希はいっそ死んでしまいたいと思った。
傍らには[残骸]があるけども。けれどそれは何の役にも立ちはしない。


カツン、カツンと不規則な音が響く。
暗い夜道の向こうから“ダレカ”がやってくる。


ぼんやりと濁った目をあげて、“ダレカ”を見て。

「あは…あはは… そう…アンタなのね」

結標淡希は乾いた笑い声をあげた。
どれだけ“仲間”を救いたくても叶わなかったのに。
死にたいと思った途端、まるでその言葉を待っていたように。


恐ろしい死神がやってきたのだ。


その人影は狂ったように、歪んだように、澱んだように、狂った月のように純白の光を放っていた。
暗がりに浮かび上がるようにして佇むのは学園都市最強の能力者。
そこにいるのは闇に浮かぶ月のように白く、白く、白い一方通行《アクセラレータ》だった。


722 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 20:13:55.30 ID:bvjVDNez0
ダルそうな声をあげながら一方通行は憮然とした声をあげる。

「あァー …かったりィ あのガキ共の一大事って聞いて二日続けて出歩いてみりゃあ、これかよ」

白髪紅眼のその男は退屈そうに頭をガリガリとかく。

「ただでさえこちとら脳味噌シェイク状態でよォ… そのうえ昨日こしらえた傷やら筋肉痛やらで歩くのもだりィってのによォ…」

そこまで言うと一方通行は再び歩みを開始する。
カツンカツンと杖の先でアスファルトを叩きながら、赤毛の少女の元へと歩く。

一方通行《アクセラレータ》は結標淡希など知らない。
だから奪って壊してそれで終わりだ。

そして結標淡希には、もはや抵抗しようとする気力すら残っていなかった。
痛いのはいやだなぁ、とぼんやりと願うだけで。
結標淡希は死神の鎌が振り下ろされるのをただ待っているだけだった。

一方通行のゆっくりとした歩みが止まる。
足元で蹲ったまま動こうともしない結標淡希を見て。
カッ!と一方通行が喉の奥で笑った。


「何だァ!? この馬鹿みたいな三下はよォ? “昨日の愉快な馬鹿”に比べりゃあ笑いが止まらなくなるくらいちっぽけな三下が相手かよ!?」


それだけ言って、一方通行がさっさと終わらようとしたその時だった。


.

「ほぅ… その“昨日の愉快な馬鹿”とやらは誰のことだ? 事と次第によっては聞き捨てならんぞ“一方通行《アクセラレータ》”?」


愉快な冗談を聞いたとばかりに笑いながらそう問いかける声。


その声を聞いて結標淡希は蹲ったままビクリとその身体を震わせる。
忘れるものか。
この声の主はありとあらゆる全てを肯定して、そして否定する計り知れない男の声だ。

そしてそれを聞いた一方通行は面倒くさそうに面白そうに振り返ってこう言った。

「……よォ 一日振りだなァ? お・う・どくゥン?」

わざと区切るようにして名前を呼んだ一方通行の言葉にフンと笑いながら・・・声の主はゆっくりとその姿をあらわした。


恐ろしい覇者がそこにいた。


その人影は王者のように、覇者のように、絶対者のように、燃え盛る太陽のように黄金色の光を放っていた。
暗がりを照らすように佇むのは箱庭学園至高の異常者。
そこにいるのは闇をはねつける太陽のように眩く、眩く、眩い都城王土だった。


725 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 20:28:27.81 ID:g+fHHWFyO
『こういう展開はドキドキするね。TPOに基づいて言うならwktkかな?』


726 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 20:43:02.00 ID:bvjVDNez0
紅い双眸が闇を裂いてぶつかる中心で、結標淡希は思った。


もういい。
もういいのだ。
もう何もかもがどうでもいい。
もうどちらでも構わないから早く終わらせてくれ、と。

太陽のような都城王土と月のような一方通行に挟まれて、皮肉めいた自嘲の笑みを浮かべる結標淡希。


その時だった。


太陽の化身のような都城王土と月の化身のような一方通行に向かっていくつもの人造の光が降り注ぐ。
それは車のヘッドライト。

見覚えのある車を見て、結標淡希はその車に乗っている人間が誰なのかすぐに判った。
[残骸]をその手にすることを一心不乱に追い求める集団。

それの名称は[組織]と呼ばれ[科学結社]と呼ばれている。

車のドアから転がるようにして黒いスーツの男達がわらわらと降りてくる。

そして最後部の車から[M000]が降り立った。


総合ビルへ向かった先行部隊からの連絡は不思議なことに途切れてしまったが、そんなこと[M000]は気にしない。
今、目の前にあるのは念願の[残骸]なのだ。


「おお! それはまさしく[残骸《レムナント》]! いやぁご苦労だった[A001]! よくやってくれた!」


そう笑いながら[M000]がねぎらいの言葉を掛ける。
先程、罵倒したことなどもはや微塵も覚えていない。

彼にとって[A001]の価値は。
ただ[残骸]を運び、守れるかどうかなのだ。
そして[A001]が頼れるのは[組織]だけで、そして“バケモノ”をおだてて運用することができるのは自分だけ。
だから[M000]は[A001]を歓迎する。

笑いながら[A001]を歓迎する。

「さぁどうした[A001]! すぐに警備員《アンチスキル》がやってくるぞ! はやくこっちに[残骸]を持ってこい!」

しかし。
結標淡希は動かない。
動きたくない。

だってもう裏切られたのだ。
だから。

結標淡希は自分たち能力者を“仲間”と呼んだこの男に向かって震える声で問を発した。


.
「………ねぇ。 …その前に答えてよ。 …[A001]じゃなくて。 …コードネームじゃなくてさ」

[M000]の顔に張り付いた仮面のような笑いを見て、結標淡希は確認する。
それは何処の誰だろうと必要なもので、それこそ原点とも言えるそれを。


「……“私の名前”を… ……貴方は覚えてくれているの?」


名前。
それはとてもとても大切なモノだ。
それが無ければ呼べない。繋がれない。触れ合えない。
人が文字を造った理由。

それが名前だ。
名前があって、名前を呼んで、名前を覚えるからこそ人なのだ。
それがなければ獣と同じ。
“バケモノ”という名称も[A001]というコードネームも結標淡希の求めているものではない。

けれども。
そんな悲痛な結標淡希の問はいとも容易く残酷に無視された。

「…はぁ? 何を言ってる[A001]? いいからさっさと[残骸]をもってこっちにこい!」

[M000]は突然おかしなことを言い出した子飼いの“バケモノ”に苛立った声を叩きつける。
そしてようやく疑問が湧いてきた。

何故[A001]の両隣に立っているガキ共は逃げ出さない?
20人近い黒いスーツの大人の集団に立ち向かって、何故それで笑っていることができるのだ?


[組織]にとって当面の敵は警備員《アンチスキル》だけであって、それ以外は勘定に入れていない。

能力者は確かに厄介だが、所詮ガキの集まりだ。
そしてそれに対抗するためにわざわざこちらも“バケモノ”を使っている。

警備員《アンチスキル》の突入が想像以上に早かったため、後手になりはしたものの未だ[M000]の優位は消えていない。
[残骸]は10メートル程向こうに転がっているのだ。
[組織]が一枚上手だったは一目瞭然で、あとはそれを持って逃げ出すだけ。

そこまで考えて…もしかして、と[M000]は推測する。
そうだ、考えて見ればおかしな話だ。
10人近くの“バケモノ”共が一斉に捕まったなどと[A001]は言っていたが常識的に考えて、そんなことはありえない。

だからきっとこれは狂言なのだ。
[A001]は土壇場になって[残骸]の価値に気付いたのだろう
わざとモタモタ振舞って、値を釣り上げようとする浅ましい魂胆をその胸に抱えているのだ、と。

そう考えてみれば両隣のガキ共の態度にも納得は行く。
きっとあのガキ共は“怖がらない自分”を演じているのだろう。
百戦錬磨の大人を相手にそのような取引を持ちかけようとは何と愚かか。

まったく大人を馬鹿にしやがって、と内心で罵りながらも[M000]は最高の笑顔でもって[A001]に話しかけた。

「い、いやなに… 勿論覚えているさ! だが今はそんなことはどうでもいいだろう? さぁ逃げるぞ[A001]!
 約束しよう! 君の“チカラ”は私が取り除いてやろう! “仲間”だってすぐに解放してやるさ!」

これが舞台ならば万雷の拍手が鳴り響いてもおかしくない演技だったと[M000]は自画自賛するが。
そんな“大人”を嘲笑うかのようなくぐもった笑い声がその場に響いたのだ。


「クッ…クハッ… クハハハハハハッッッ!! おい見たか聞いたか一方通行《アクセラレータ》!」

呵々大笑と笑う都城王土が一方通行に同意を求め。

「カカッ…カッ…ギャハハハハハハハッッッ!! あったりめェだろォ! つかこれ以上笑わせンじゃねェよ!」

そして一方通行は都城王土の問に同意をしながら嘲り笑っていた。

その傍若無人な笑い声を聞いて、[M000]はブルブルと屈辱の怒りに身を震わせる。
例えるならそれは自信満々で提出したレポートが0点であると冷たく突き返されたようで。
[M000]は怒声をあげて“クソガキ共”を威嚇した。

「…だっ…黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! 貴様等なぞには言ってない! 俺は[A001]に言っているんだ!!!」

それを聞いた金髪紅眼と白髪紅眼の男は、キョトンとした顔をして、お互いの顔を見合わせて。
さらに爆笑した。

その羞恥はこれまでの[M000]の人生の中でも最大で。
思わず、[残骸]を手にするよりも早くこのガキ共を皆殺しにしてやるか?と胸の内で罵りながら[M000]はその嘲弄に懸命に耐えていた。

そして、ようやく笑いが収まった都城王土がふと、足元に目をやった。
そこに蹲っているのは都城王土にとって案内人であり赤毛の少女であり哀れな少女である。

「ククッ… どら、おまえも見てみろよ。 何とも醜く笑える道化だぞ? あれがおまえの信じてた末路だ」

そう言って哂う都城王土に向かって蹲ったままポツリと結標淡希はこう呟いた。

「……違う。 ……私は。 “バケモノ”でも[A001]でも“おまえ”でもない」

それを聞いた都城王土は笑いに歪んでいた顔を引き締めて問いかけたのだ。


.

「ふむ。 ならば俺に名乗ってみろよ娘。 おまえは俺が名乗り返すに値する程の者なのか?」


朗々とした声で結標淡希の有り様を問う都城王土。
問われて結標淡希はゆっくりと答える。

例え今まで信じていたものの99%が、仮初でまやかしで嘘っぱちだったとしても。
けれども残りの1%は違う。

結標淡希は“バケモノ”ではないということ。
そして“仲間”と共にただ己の道を守ろうとしたということ。
それは結標淡希の願いであり、それは誰にも否定はできないのだということを。

結標淡希は能力者であるまえに案内人であるまえに[組織]の一員であるまえに。
ちょっと変わった名前だけれども、けれどもそこらにいる只の“女の子”となんら変わりはないのだということを。


「……淡希。 …私の名前は結標淡希。 …それが私だけの名前よ」


否定されたらどうしようと思うと何故か唇が震えて、最後の言葉は尻すぼみになってしまったが。
けれど結標淡希の名乗りを聞いた都城王土は腕組みをして満足そうに頷いたのだ。

「ふむ。 覚えておいてやる結標淡希よ。 そして忘れるな。 俺の名は都城王土。 これこそが俺の名だ」

あぁ…それは本当に久しぶりだった。
結標淡希はようやく呼ばれた。
“仲間”以外の人間に己の名前を呼んでもらえたのだ。


それを見て、[M000]は今度こそ激昂した。
飼い慣らしていたはずの“バケモノ”の癖に。
あの金髪の男に向ける視線はなんなのだ!?

あれは自分だけのものの筈。
[M000]は許さない。
[A001]を“バケモノ”を扱えるのは自分だけなのだ。

だから[M000]は片手をあげて、背後に控えた男達に射撃の準備を伝える。
もしものことを考えて手荒な真似はしたくなかったが、それももうしょうがない。
どうせ[残骸]は[キャリーケース]の中だし、あれは近代科学を体現した強固な防壁でもあるのだ。

そして、無数の銃口を向けられて。
都城王土は哂った。

「おい、結標淡希。 俺が問うぞ? これがおまえの望む世界なのか?」

俺にはそうは見えんがな、と言って笑う都城王土に向かって首を振る。

「…違うわ。 …こんなんじゃない。 こんな馬鹿げた世界を私は、“私達”は守りたかったんじゃない」

震える足でゆっくりと立ち上がった結標淡希はそう言って否定をする。
今にも倒れそうだが、都城王土は支えたりなどしない。

「まぁそうだろうな。 なに、そう気にすることもない。 俺とて間違えることもあったのだ」

結標淡希には見当もつかないことを言って、都城王土は[組織]に向かって相対する。


獅子のような若い男が発する気迫に呑まれて男達は気がつけば後退っていた。
都城王土はそれを見て苦笑しながらも、紅い双眸でもってゆっくりとその場を見渡して。


「さて… …確か貴様等は“正常”な“人間”らしいな?」


そう言って都城王土はニヤリと口を歪める。


「まぁそれならそれでも構わんぞ? なに、貴様等が“正常”を“人間”を謳うというのならばだ」


都城王土は哂いながら歓迎するように両の手を広げる。
銃口を向けられて、それでも哂い、それでも足を踏み出していく。


「そして。 貴様等が“異常”を“バケモノ”を排除するつもりならばだ」


カツン、と杖の音を立てながらニヤニヤと哂う白髪紅眼の男が、金髪紅眼の男の隣に並び立つ。


「よい舞台ではないか? そら お望みどおり“異常”が“バケモノ”が敵になってやろうではないか。
 さぁ死に物狂いで抗ってみせろよ“正常者”!」


そう言って宣言する都城王土の後を追うように赤毛の少女が足を踏み出して。

結標淡希もまた己の意志でもってそこに立っていた。


■学園都市・総合ビル前

爆音などという生易しい言葉ではない。
大地が振るえ大気が悲鳴をあげていた。

命からがら防弾装甲を施した車の陰に黒いスーツの男達が隠れるけども。

「ハッ! そんなうっすい盾が! 通用するとでも思ってんの!?」

その怒声と同時に凄まじい轟音が響き、まるで紙細工のように黒いバンが宙を舞った。
その破壊力を生み出せるのは学園都市に一つしかない。
『超電磁砲《レールガン》』と呼ばれる学園都市が誇る超能力者、御坂美琴が放つ“超電磁砲”だった。

蜘蛛の子を散らすようにして、逃げ出した男達の何人かがそれでも拳銃を向ける。
それは恐怖の源を消そうという後ろ向きな殺意であるが、けれどそれは叶わない。

「あら、御免遊ばせ? 悪いですけど引鉄を引かないほうがいいですのよ?」

言われて見れば拳銃の銃身には何時の間にか鉄矢が貫通していた。 引鉄をひけば暴発しそれこそ指が吹き飛ぶだろう。
『空間移動《テレポート》』を扱う白井黒子が本気になれば、それこそ対抗出来る人間など極わずかなのだ。

そして埃が舞い上がる中を少年が疾走する。
視界など届かない筈なのにそれを的確にサポートするのは愉快そうな子供の声。

「えへへ☆ 三時の方向、壁の向こうに一人いるよ☆」

その言葉を疑いもせず少年が指示のとおりに突き抜けてみれば、確かにそこには慌てた様子でガチャガチャと弾倉を交換している男が一人。

上条当麻は一対一の喧嘩ならば、相手が武器を使えない状況ならば、並大抵の相手には負けはしない。
握り締めた拳がアッパーカットの軌跡と共に混乱している黒いスーツの男顎を打ち抜いた。


上条当麻をサポートしたのは白い仮面をかぶった行橋未造である。
本来、行橋未造は相手の思考だけではなく痛みなどといった感情すらも受信する。

しかし、今の行橋未造に届く電磁波は極僅かなものだった。

行橋未造が痛みを受信しない理由。
それは御坂美琴の存在である。

電磁波を発することに特化した都城王土には叶わぬものの。
けれど、荒れ狂う電撃をその身に纏う御坂美琴の側にいればある程度それが緩和されるのだ。
行橋未造はそれを判っていたから都城王土の後を追わなかった。

だから行橋未造は痛みに悶えることなく己の使命を完遂できる。
とはいえたとえそれが痛みを伴うものだったとしてもやっぱり行橋未造はそれを遂行しただろう。

なぜなら行橋未造にとって都城王土という男は絶対なのだ。
彼が望むのならばそれこそ命すらも捨てるのも躊躇わない。

だって行橋未造は都城王土に出逢うためにこの時代に生まれて。
行橋未造の感受性《アブノーマル》は都城王土を理解するためにあるのだから。

その時、こっそりと忍び寄っていた一人の男が行橋未造に襲いかかった。
子供ならば組み易し、と判断したのだろうがそれは間違いである。

“相手の心を読む”という多少なりとも誰しもが備えている力でもって、行橋未造は“異常”の中の“異常”である都城王土に仕えているのだ。
バトル向きではないといえ、いざ戦闘となればそれこそ行橋未造は相手に触れられることなく圧倒できるほどの力を秘めている。

振りあげた銃口の先には誰もいなく、気がつけば目の前には白い仮面を被った子供が宙を飛んでいる。
虚を突かれた男の意識が瞬く間に薄れ、昏倒する。
麻酔ガスの近接噴射を食らったのだ。



戦闘は圧倒的な展開で以て、5分もたたずに終結した。

静寂が辺りを包み、誰も動こうとはしない。
そこかしこに倒れている黒いスーツの男達を見回して、ようやく“子供達”が一息ついた。

この惨状で逆に一人も死人が出ていないのがまるで冗談のようだった。

これ以上この場に留まっていれば警備員《アンチスキル》がやってくるだろう。
とりあえずはこの場を離れようと思って。

あることに少年が気が付いた。

「あれ…? そういやぁ…バンが5台って言ってなかったっけ?」

ひいふうみいと数えるも、目の前には4台しかない。
4台のうち2台は大きくひしゃげて白煙をあげ、残りの2台は無残にバラバラにされ血のようなガソリンを垂れ流しているが。

けれどやっぱりどう数えても4台しかない。
上条当麻のその不思議そうな声に可愛らしい声で答えたのは仮面を被った行橋未造だった。

「だいじょーぶ☆ さっき電話を借りた理由がそれだからさ☆」

そう言って仮面の下でおどける行橋未造。
行橋未造がこの件に関わった理由。
“心を読む”行橋未造は少女たちの言葉を聞いて思考を受信したからである。
そう、まだ舞台に演者は出尽くしていない。
まだ残っている。


[残骸]に関わって、[実験]を止めようとして、[実験]の当事者である少女達が舞台袖で自分の出番を待っている。



■屋上

遠方で黒煙があがっていた。
ゴーグルをかけた少女がいる場所は主戦場になっているであろう総合ビルよりも1ブロック程離れている。

「病み上がりの身体ですし…本来ならば面と向かって戦いたかったのですがこれもやむなしでしょう、とミサカは嘆息します」

その言葉と共にガチャリと肩にかかったアンチマテリアルライフルを地面に置く少女。
ライフルのターゲティングスコープからケーブルを外し、主観情報を己のゴーグルへと移行する。
足元には両手の指では足りないほどの空になった弾倉が転がっていた。

ビル風に吹かれながら少女が、御坂妹が標的を見下ろした。
暗視光学センサーならば、この程度の距離はなんの問題もない。

ゴーグルの中、その特徴的な緑色の視界の中では。
もはや車と呼ぶにはおこがましい金属の塊の側には失神し、失禁し、哀れな姿をさらす黒いスーツの男達がいた。

あの小さな子供が教えてくれた情報通りだった。
いや、それどころかまるであの子供はこちらのネットワークの内容すら把握しているようで。
けれど嫌悪感はなく、御坂妹はそれ以上は上位個体に意見を申請して、その事について考えることをやめる。

と、辛うじて意識を取り戻したのだろうか? 一人の男が同士の筈である仲間を置き去りにしてほうほうの体で逃げ出そうとしていた。

「…少しばかり手心を加えすぎたかもしれません、とミサカは呟きながらゴム弾に換装したライフルを構えます」

スコープの中で正確に目標を捉えるも。
しかし御坂妹の指は引鉄をひくことはなかった。

視界の端に映った一人の少女。
御坂妹はそのモシャモシャとしたパーマをかけている少女の情報を共有し、知覚し、覚えているのだ。
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