都城王土「ほう…。学園都市か、なるほどこの俺を迎えるに相応しい」6


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■学園都市・総合ビル

喉に込み上げてくる吐き気を耐えながら赤毛の少女が[キャリーケース]を引きずって歩いていた。
悪寒で思わず嗚咽をしそうになるが、それでも結標淡希はそれを胃の腑に収める。

もう後には退けないのだ。
結標淡希は耳元で囁かれた“仲間”の願いを叶えなければならない。

あぁ…そういえば“あの男”の名前はなんて言ったっけ?
それすらも思い出せぬほど混迷し、まとまりのない考えのまま結標淡希はただただ亡者のように歩く。

その時だった。

「痛ッ…!?」

激痛と共に“右肩”にワイン抜きが刺さっている。
まるで意味が判らず、呆然とそれを視界に捉えて立ち尽くす結標淡希の身体に次々と激痛が生まれた。

“左脇腹” “右太もも” “右ふくらはぎ”

脳を刺す激痛に耐え切れず、がくりと地に伏せながら結標淡希はようやく事態を把握した。
痛みを訴えてくる全ての箇所に覚えがある。
手加減…という訳でもないが、それでも殺す必要はないと思って。
無力化するためにそれを打ち込んだ記憶がある。


突然始まった戦闘を見て悲鳴をあげながら店内にいた客が逃げ出していく。

あっという間に静かになったそのビルの部屋の中心で、結標淡希はたった一人痛みに耐えかねられずに蹲った。
細い肢体を震わせて、痛みに耐えることしかできない結標淡希に静かな声がかかる。

「大丈夫。 急所は外してありますわ。 もっとも貴女が打ち込んだ場所にそのままお返ししただけですけど?」

そこに立つは風紀委員《ジャッジメント》の腕章をその腕につけたツインテールの少女。

追いつかれたのか、と考える間もなく閃光のように真っ白く巨大な痛みが脳を灼いて結標淡希は呻いた。

そんな、赤毛の少女を見て。
まるでその痛みを思い出したかのように身体をさすって。
けれど、これは決して交わらない道なのだ、と決意している白井黒子はあえて優しく丁寧に口を開いた。

「さぁ、これでようやく五分と五分ですの。 何なら全裸になって傷の手当をする時間くらいは差し上げますわよ?」

白井黒子はそう言って上品に微笑んだ。



■とある病院

ムクリと闇の中で一人の少女が起き上がる。
そのままペタペタと裸足の足でリノリウムの床をたたきながら少女は窓から学園都市のまばゆい光を見下ろした。

「急がなければならない、とミサカは己の優先順位を跳ね上げます」

そう言って少女は己の身体を包む簡易な手術衣をストンと脱いだ。
下着も何も付けていないその裸身を隠そうともしない少女からはどこか無機質な印象が漂っている。

少女の名前は検体番号《シリアルナンバー》10032号。
ある[実験]のために“超電磁砲”御坂美琴のDNAマップから製造されたクローンの内の一体である。
通称、御坂妹と呼ばれているその個体は己と同じ条件から形成された“ネットワーク”にアクセスし確認を取りはじめた。

だが、帰ってきた返事はどれもよくないものばかり。
ならばと彼女はふらつく足で歩き出す。
クローゼットから下着を取り、シャツを取り、制服を取り出して着替えだす。

「この時間帯では外出許可はおりないでしょう、とミサカは推測します」

たとえ昼間であろうと絶対安静の患者に外出許可を与える病院など存在しないが、そんなことは御坂妹にとって意味が無いことだ。


御坂妹…否、“妹達《シスターズ》”の共通認識。
もはやそれは誓いと言ってもいい。


 “もう一人たりとも死んでやることは出来ない”


「絶対に[残骸]による[計画]の復元だけは避けなければならない、とミサカは決意を新たにします」


ならば今出来る最善の手を尽くすだけ。

御坂妹は静かに病院の窓から外へと飛び出した。
脳内の“ネットワーク”からは彼女を心配する声、彼女を鼓舞する声、彼女を励ます声が響く。

御坂妹が向かう先は一人の少年。
また迷惑を掛けるのかもしれないけれど。
だが御坂妹にとってこの学園都市で頼れることの出来る人物はその少年しかいないのだ。
きっとこの時間帯ならば自宅に帰っている頃合いだろう。

御坂妹は夜の学園都市を駆け抜けて。
少年…上条当麻の家へ向けてただ走る。




■学園都市・総合ビル

ツインテールの少女、白井黒子と赤毛の少女、結標淡希の戦闘。
それは3次元を飛び越え、相手の11次元演算を先読みし裏をとるという言葉には出来るはずもない戦闘だった。

そして結末はあっけなく訪れた。
白井黒子は倒れ、結標淡希が立っている。

誰が見ても明らかな勝者と敗者の図式である。
業務用の巨大なテーブルが白井黒子の上に幾つも積み重なり、今や白井黒子はピクリとも動けない。

敗因は白井黒子が空間移動をできなくなったことに起因する。
考えてみれば白井黒子は多大な怪我を負ったままでいくつもの空間移動をして、ここに辿りついたのだ。
ならばそれは順当な結果ともいえるだろう。

そして白井黒子も負けたことに関しては悔しいものの頭の隅の冷静な感情では既に敗北を認めていた。
目の前に立つ赤毛の少女、結標淡希の能力は使いようによれば“超電磁砲”ですら倒しうる強力な能力だ。

だがしかし。 
けれどやっぱり。
白井黒子は納得がいかない。
戦闘をしながら、結標淡希はこう言い放ったのだ。


『そこまで自分の命を危険に晒す甲斐があるっていうの? “超電磁砲”が思い描く身勝手な未来を守ることに!』


只の罵倒ならばそんなものは気にもとめないはずなのだが。
今でもそれは白井黒子の心に棘のように引っかかっている。


それにまだ一縷の望みは消えていはいない。
ここで戦闘を開始してまだ10分とたってはいないが、それでも人目には充分すぎるほどついているだろう。
ならばいずれ気付くはずだ。
お姉様が。
学園都市最強の電撃使いである“御坂美琴”が気付いてくれるはずなのだ。

だから白井黒子は口を開く。
たとえ敗者の負け惜しみに聞こえようとも構うものか。

「ひとつ伺いたいんですけど…貴女がこの計画の首謀者ってことでいいんですの?」

それを聞いた結標淡希はキョトンと目を丸くして、それから大きく笑い飛ばした。

「あははは! 何を言うかと思えば! そうよ、私がこの計画の首謀者。 私が計画してこの学園都市に潜り込んでこの計画を始めたの!」

そう言ってこちらを見下すようにして笑う結標淡希を見て、白井黒子は確信を得た。

「…嘘ですわね。 というよりかは… 貴女。 自分が計画の首謀者だと“思い込まされてる”だけなのじゃないですこと?」

それを聞いて。
急に覚めたような目付きで結標淡希が地に倒れ伏したままの白井黒子を見下した。

「…へぇ。 なかなか面白いことを言うわね。 いいわ、傷の手当をする時間までなら聞いてあげる」

そう言いながら結標淡希は軍用の懐中電灯を振りかざした。
金属が硬い床に落ちて硬質な響きをあげる。
それは結標淡希の身体に食い込んでいたコルク抜きや鉄矢といった武器だった。


ビリとブレザーの袖を破いて太ももに巻きつけながら結標淡希が視線で白井黒子の言葉の先を促した。

「…確かに。 貴女がいなければこの計画は成り立たなかったでしょう。 ですけど、だからといって貴女が[残骸]をその手にしてどうするつもりですの?」

下着が見えるのも構わずに太ももの治療を終えた結標淡希が当然といったふうで答える。

「決まっているじゃない。 私達[組織]は[残骸]を外部に引き渡すためにここにいるのよ?」

そう言いながら両の袖を破いてノースリーブとなった制服の上着を見て結標淡希は僅かに眉をひそめる。
もはや包帯変わりとなるような布地はない。
仕方がなく今度はただでさえ短いスカートを破き包帯の代わりにすることにした。

「あら、そうでしたわね。 私としたことが。 それで貴女は知っているんですの? その[残骸]がもたらす結果を」

「…結果? そうね、いいことを教えてあげるわ白井さん。 [残骸]があれば“私達”は“チカラ”を持たなくてもいいのよ」

無知な子供を笑うようにそう言った結標淡希の手が止まる。
包帯代わりのスカートも、もはや下着が見えるか見えないかのギリギリまで使ってしまった。
しかし、まだ出血を続けている傷口が残っている。


すこし考えてから、結標淡希は自らの胸を巻いているピンク色のさらしのような布をほどきだした。

同性ならば、別に見られても構わないというのだろう。
店内の蛍光灯に結標淡希の何もまとっていない上半身が露になるが、それも気にせずピンク色の布を最後の包帯替わりとした。
未発達とまではいかないが、それでもまだあどけないその胸をさらしながら結標淡希は治療を続ける。

それを見ていた白井黒子は内心で舌打ちをする。
想像していたよりも治療が早いのだ。

このままでは結標淡希が行ってしまう。
そう考えた白井黒子はイチかバチか彼女が抱えているであろう地雷を踏んでみることにした。


「研究者でも科学者でもない貴女になぜそんな事がお判りになるんですの? ねぇ…結標淡希さん?
 貴女、ただその[組織]とやらに言い様に“使われているだけ”じゃないんですの?」


それは確かに。
白井黒子の予想道理。
結標淡希の“地雷”だった。


■???

バゴン!と音を立てて破城槌にも似た現代的な兵器が分厚い金属の扉を吹き飛ばした。

「全員動くな! 警備員《アンチスキル》じゃん!!」

凛々しいその叫び声と共に武装した防護服に身を包んだ武装集団が突撃銃を構えて部屋の中に雪崩れ込む。

だが。

「せ、先輩…どうしましょう?」

メガネを駆けた女性の警備員が上司である長身の女性に振り返る。
そこはもはやもぬけの殻だった。
慌てて逃げ出したのだろう。
ありとあらゆる機材、データもそのままに、ただ人だけがいなかった。

「チッ…一足遅かったじゃん!」

そう言って悔しそうに歯噛みをする長身の警備員。


「先輩! これって!」

そう言った部屋の隅を指さしたメガネをかけた警備員、鉄装綴里は公私共に頼りになる熟練の先輩の意見を仰ぐ。

鉄装綴里の指の先にはこの場にそぐわない華やかな外装やネオンが詰まった段ボール。
それを見た長身の警備員は苦虫を噛み潰す。

「あぁ。 大覇星祭の下準備やらに紛れ込んで逃げ出したってことじゃん…」


大覇星祭。
それは間もなく行われる超大規模な体育祭の名称である、

学園都市の総力をあげて行われるその一大イベントは、しかしその規模故に外部からのチェックがどうしても甘くなってしまう。
そのためどうしてもこの機を狙った組織やら犯罪者やらが潜り込んでしまうのだ。

「恥も外聞もなく逃げ出すだなんて…大人の風上にも置けないじゃん…」

耐え切れないように長身の女性は悔しそうに呟いた。
その時、別の警備員から報告が届く。

「…連中の目的が見つかった? それ嘘じゃないじゃん?」

そう言いながら簡易モニターに向かう長身の警備員。

モニターに解析されパスワードを解除されたテキストファイルが浮かび上がる。
それを読んでいくうちに警備員、黄泉川愛穂の顔が怒りで歪んでいく。
そして。
黄泉川愛穂は怒りを耐え切れず地面に向かってこう吐き捨てた。

「何も知らない子供たちを手懐けて、たぶらかせて。 絶対に許せないじゃん…」


■とあるマンション

ジュウジュウと音を立てる鉄板の上では最高級の松坂牛が香しい匂いを立てていた。
そのテーブルを囲むのは上条当麻、インデックスという住人に加え、都城王土と行橋未造がいた。

「ねっとーま!? もう食べてもだいじょーぶ?」

「まだダメです! 生焼けなんてレベルじゃねーぞ!」

飢えた獣のようにギラギラとした目で今にも箸を突っ込みかねないインデックスを必死になって牽制する上条当麻。
フッと遠い視線で宙空を見つめながらボンヤリと呟いた(勿論スキあらば箸を突っ込もうとするインデックスに目を光らせながら)。

「こ、幸福だ… 誰だよ俺のことを日常的に不幸だの不幸フィーバー大連荘中だの空前絶後の大不幸者だの言っていたやつは!」

出てこいよ!とでも言いたげに上条当麻がテーブルの上を見る。
目の前にデン!と鎮座するは特撰和牛が3キログラムだ。

モヤシご飯、モヤシライス、モヤシピラフ、モヤシ炒飯、モヤシパエリヤといった想像するだに青白くなる不幸な一週間とは今日でおさらばである。

都城王土と名乗った金髪の男は何故か当然のように上座に座ってアグラをかき。
さらには何故かその膝の上にちょこんと行橋未造と名乗った少年だか少女だかわからない子供が乗っかっていたが。

んな細かいこたぁ上条当麻にとってどうでもいいのだ。
そんな上条当麻に可愛らしくも慈悲の溢れた声がかかる。

「ね、とうま? 神は言いました。 例え生焼けでも構いません、それを私に食べさせなさい。と」

ファァァといった感じで背景に聖母像を浮かべるインデックスだが、それはいつもの手であって上条当麻はダマされない。


「ハハハ何をおっしゃるインデックスさん。 こういったお肉はしっかりきっちり焼くのが一番美味しいんですよ」

初対面に近い人間の前なんだから少しは猫をかぶってくれよインデックス!と心のなかで願いながら、まぁまぁと手でなだめる上条当麻を見て。
都城王土が面白そうに笑った。

「ほぅ。 上条…とかいったか。 どうやらおまえも随分と女に振り回されて苦労しているようだな?」

都城王土と名乗ったその男は確か長点上機学園の三年生だと言っていた。
幾ら見知らぬとはいえ上条当麻は先輩に対してタメ口を使うほど愚かではない。
ましてやこの金髪は上条家の日々を豪勢にしてくれたのだ。

「いやもうホント苦労っていうか何ていうか… って、都城先輩も女に苦労してるんですかぁ?」

敬語というわけでもないが、それでも慣れない言葉遣いでそう聞き返す上条当麻。
目前の堂々とした傲慢不遜な都城王土が女で苦労してるなど考えもできないが。

「えへへ! 王土はね、フラれちゃったんだよ☆」

それに答えたのは都城王土の膝の上にすっぽりとはまった行橋未造だった。
いやいやあなたのその距離感こそ友達って感じじゃないですけども、と突っ込みたくなったが、そこは上条当麻はグッと我慢する。

「…へぇ~ そうは見えないけど… 苦労してるんすねぇ…」

とはいえ、不幸自慢なら上条当麻は一家言もっているほどだ。
基本的に朝夕は自堕落シスター、昼はビリビリ、学校ではおせっかいな同級生といったローテーションで噛み付きやらビンタやら電撃やらは日常茶飯事である。
だからこそ都城王土がフム、と言いながら思い出らしきものを語りだしたのを聞いて上条当麻は目を丸くした。

「うむ。 さすがの俺も大変だったぞ。 何せお付きの者に高度数百メートルはある時計台の上から蹴落されるわ」

「…ハイ?」


笑いながらそう言った都城王土の言葉を聞いて、上条当麻は思わず聞き返してまう。
しかし、都城王土の口は止まらない。

「求婚は破棄されるわ、内臓は破裂させられるわ、13万1313台のスーパーコンピュータは壊されるわ…いやはやまったく大変だった」

なぁ行橋?と言いながら膝の上に収まっている行橋未造が頷くのを見て満足そうに笑う都城王土。

「えーっと… 冗談…ですよね?」

そう言われ、少し気分を害したように都城王土が反論した。

「む? おかしなことを言うな。 この俺が冗談を言ったのならば今頃おまえは笑い死にしてるだろうが」

何だかおかしなことをそう説明する都城王土の顔入りはひどく真面目。

「……そ、そりゃもう何といえばいいのやら」

悪い人間ではないようだがどうにも調子が狂って仕方がない。
何だかこっちの返事を待ってるようだけどなんて言えばいいんだろうか?と上条当麻が悩みだした時だった。


492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 17:23:30.71 ID:BCPbjBsV0
行橋って男だよな?


493 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 17:24:39.58 ID:7ofurvBN0
「えへへ! ね? もういいんじゃない? とっても美味しそうだよ☆」

“まるで”上条当麻のピンチを救うようにタイミングよく、そう行橋未造が鉄板上の状況を教えてくれたのだ。

「あ、ヤベッ! 忘れるとこだった!!」

お腹と背中がくっつきそうなこの状況で焼肉なんてシチュエーションを忘れるはずはないのに、何故か都城王土と相対するとそんな事も気にならなくなってしまう。
でもまぁいいか、と思いながら上条当麻がパンと両手合わせた。

それを見て、インデックスが都城王土が行橋未造も両手を合わせる。
全員が手を合わせたのを見て、上条当麻が声を張り上げた。

「ではでは!」

夢にも思わなかった最高級の和牛を使った焼肉が待っている。
ジュウジュウと牛脂が溶けて、得も言われぬ美味しそうな匂いを前にして。
上条当麻は神様仏様王様に感謝の念を込めて。

「いただきます!」
「いただきますなんだよ!!」
「どれ、俺が満足できる程のものかな」
「いただきまーす☆」

各々そう食前の挨拶を唱和した。


…だが。

残念なことに。
焼肉に箸を伸ばそうとした上条当麻は目の前で手招きをしているようなその肉を口にすることはなかったのだ。


■とあるマンション・上条当麻の部屋の前。

頭を万力で締め付けられるような頭痛。
ゼイゼイと荒れる息を整えようとするも、心臓や肺や横隔膜がそれを拒否する。

(“あの少年”の前であまり不様な姿は見せたくありません、とミサカはゆっくりと息を整えます)

学生寮として使われているマンションのある一室の前に御坂妹は立っていた。

そう、御坂妹は病院から抜けだしてただひたすら走った。
学園都市の網目のような経路から最短ルートを選びここまで全力で走りぬいてきたのだ。
本来ならばこの程度の距離、苦も無く辿りつける筈。
だが、絶対安静の筈である御坂妹の体調でここまで走れただけでも凄いというべきであろう。

わずかに息が収まったのを確認して御坂妹がドアノブに手をかける。
ドアには“何故か”鍵がかかっていなかった。


よくある話だ。
“来客”が“ドアの鍵”を掛け忘れることなどそこらじゅうに転がっている。


しかし、今の御坂妹にとってそんなことは知る由もなく、また知っていたところで戸惑いはしなかっただろう。
ガチャリとノブを捻り、一気にドアを開け放つ。

部屋の中からあふれてきたのは食欲を誘う匂い。
そしてそこには箸を持ったまま固まった上条当麻がいた。


501 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 18:02:45.07 ID:7ofurvBN0
ちょうど食事の時間でしたか、と思いながらも御坂妹は目を走らせる。

上条当麻の隣にはインデックスと呼ばれている少女がいた。

そして、部屋の真ん中には見たことのない人間が二人いた。
突然の乱入だというのに、まるでこちらに興味を示そうともしない尊大な態度の男と、膝の上に収まっている小さな子供。

少しばかり、彼等と上条当麻の関係性が気になったが、今そんなことを聞く猶予など無い。

何といえばいいのかと考えて、御坂妹は決めた。
思考を放棄し、ただ思いをそのまま上条当麻に向かって告げたのだ。


「ミサカと、ミサカの妹達の生命を助けて下さい、とミサカはあなたにむかって頭を下げます」


それを聞いて上条当麻は怪訝そうな顔をしつつも立ち上がる。

そして。

何故か金髪の男の膝の上にチョコンと座っていた子供が御坂妹の言葉に反応した。


突然の来訪者が持ってきた知らせが歓迎される類のものではないというのはその表情を見れば判る。

だがそれでもインデックスは彼女を突き返したりはしない。

今は効力がないとはいえ、こう見えても“歩く教会”をその身につけているシスターなのだ。

そして。この少年はそこに困っている人がいれば何があっても助けに行くのだ。
ならば、彼の思いを後押ししよう。
そう決めてインデックスは口を開いた。

「…止めても無駄なんだよね? 私は邪魔かもしれないし… 一緒に行きたいけどここでとーまの帰りを待つことにするんだよ…」

美しく優しく微笑むインデックスのその言葉を聞いて。

「悪い…インデックス…」

ただ謝ることしか出来ない上条当麻が返事をする。

…この際、インデックスの箸がホカホカと湯気を立てる焼き立ての松坂牛肉をまとめて束ねているのは見なかったことにしよう。

上条当麻は立ち上がり、ただ一言。
その顔にとてもかっこいい笑顔を浮かべて

「…信じてるからな? インデックス?」

それだけ言い残して上条当麻は駈け出した。


■学園都市・総合ビル

【貴女、ただその[組織]とやらに言い様に“使われているだけ”じゃないんですの?】

その白井黒子の言葉を聞いて、ピシリと音を立てて結標淡希の仮面にヒビが走る。

「…あは、あははは! 随分とまぁ想像力がたくましいのね! たったあれっぽっちの話でよくもそんな妄想ができるものだわ!」

そう言って笑おうとする結標淡希だが、明らかに印象が違っていた。
先程までの彼女ではなく、まるで中身が空っぽの操り人形のような顔をして笑みを作っている。
そんな結標淡希を見て。
やはりそうでしたのね、と心の中で呟きながらも白井黒子は結標淡希の仮面に切れ込みをいれる。

「妄想なら手慣れたものですけども… けれどこれはまず間違い無いですわよ」

白井黒子にそう言われ。
結標淡希は言葉を荒くする。

「…なにが! ねぇなにがよ? 私が言ったことは全て事実! どれ一つとして間違ってはいないわ!!」

白井黒子は望んでいないとでも言いたげに顔を歪め、しかし言葉のナイフを握った手は無慈悲に結標淡希の心を切り開く。

「…先程。 言ってましたわよね? [残骸]があれば“チカラ”を持たなくてもすむ…と」

「ッ! そうよ! その通り! [残骸]があればこの忌まわしい“チカラ”と別れることが出来るの! そう、出来るのよ!!」

まるで自らに言い聞かせるように繰り返す結標淡希に白井黒子が淡々と言葉を投げた。

「……“どうやって”…ですの?」


.
「――ッ!?」

グッと音を立てて言葉に詰まる結標淡希。

“どうやって?”

そんなことは知らない。
いくら“大能力者”の結標淡希とはいえ科学的な専門分野のことまでは判らない。
ただ、そう言われて。
それを信じたのだ。

そして、思い出したのは具体的な計画を立案した[M000]の言葉。

「…確かに。 具体的な方法までは門外漢ですもの。
 私は知らない。 けどね、[残骸]があれば“能力”を持つのが“人間”だけではないということが判るかもしれないのよ!」

けれど、それは答えにすらなっていない。
まるで子供の言い訳のようなそれを聞いて白井黒子は苦笑する。

「…ですから。 それが判ったところで“どうなる”っていうんですの?」

ポロポロと音を立てて結標淡希の仮面から破片が落ちる。

「ど、どうなるって… だから! 判らない人ね! “能力”を持てるのが“人間”以外じゃないってことが判れば!」

「…そのお話は先ほど覗いましたわ。 で、“それ”と“これ”にどんな関係があるっていうんですの?」

ビシリ!と音を立てて結標淡希の仮面に亀裂が入る。


「か、関係? 関係…は…」

ぐるぐると結標淡希の頭の中で白井黒子の言葉が回る。
繋がらない。
繋がらないのだ。

“例え”[残骸]が能力を有する可能性があったとして。
“例え”そして[残骸]が能力を有したとして。
“例え”人間以外が能力を有する可能性があったとして。
“例え”そして能力者が“能力”を無くす可能性があったとして。

それを結んでいる筈の糸を辿ってみればプッツリと途切れている。

そして結標淡希はようやく気付いた。
自分がただ“操られていた”だけのことに。
主役のつもりだった自分がその実舞台の上でただ踊らされていただけのことに。

「…は」

バリバリと音を立てて結標淡希の仮面が砕けていく。

「ァ…ァ…アア…ああああああああっっっ!!!」

そして結標淡希は耐え切れず悲鳴のような叫び声をあげた。


■学園都市・大通り

学生が溢れる繁華街を上条当麻が走る。
ネオンが栄える大通りを御坂妹が走る。
しかし、上条当麻の隣で並走する御坂妹は息も絶え絶えといった様子で、それでもなんとか遅れまいと手足を動かしているだけだった。

「おいっ! 大丈夫か?」

今にも倒れそうな御坂妹に向かってそう声をかける上条当麻。

「だ、大丈夫ですが…こうやって話しながら走るのは少々厳しいです、とミサカは空元気を振り絞って返事をします」

蚊の鳴くような声でそう返事をする御坂妹がチラリと横を見る。
そこには。

何故か並走している行橋未造がいた。

「…あの?、とミサカは理解が出来ず疑念の声をあげます」

思わずそう問いかけてしまう御坂妹に返事をしたのは行橋未造だった。

「えへへ! 気にしない気にしない☆ ちょっとだけボク気になっちゃってさ☆」

小柄な身体のどこにそんな俊敏性が眠っていたのかと驚くほど機敏な動きで行橋未造がそのあどけない顔で微笑む。


.
「ふむ。 まぁ別段俺は特に興味もないのだが。 行橋の望みならば俺が聞いてやるのも吝かではない」

そして、行橋未造の後ろにはひどく退屈そうな顔の都城王土がいた。

「えへへ☆ そう言いながら王土は一緒に来てくれるんだよね!」

「ふん。 しょうがなくだ。 まぁ俺の夕餉を中断されたのは些か不愉快ではあるがな」

そう言って都城王土が悠々と大地を蹴る。
悠々とは言えその速度は4人の中でも一番速い。
ともすれば懸命に走る上条当麻をあわよくば追い抜きそうなほどの余力を示していた。

そのまま学園都市の繁華街を4人の男女が疾風のように駆け抜ける。

けれど、御坂妹の身体は既に限界だったのだ。
不意に足がもつれ、転びそうになる御坂妹。

「おわっと! 危ね!」

思わず倒れかかった御坂妹の身体を上条当麻が抱き抱えるようにして支える。

「…すいません。 ですが大丈夫です。まだ走れます、とミサカは足に力をいれてみます」

上条当麻の中で力ない微笑みを浮かべる御坂妹。
そして、また走るために立ち上がろうとする。
だが、生まれたての子鹿のように足を震わせるがその様は誰がどう見ても無謀だった。


「いいから休んどけって。 あ、でも俺達だけで向かう…っていうわけにもいかないよなぁ」

ゼエゼエと青い顔をしてその場に座り込んでしまった御坂妹を見て上条当麻は頭をかく。

「いえ、ミサカを置いて先に行ってください。場所はここから3ブロック先にある総合ビルです、とミサカは懇願します」

そう言って、目的であろうビルの名前を細かく口にする御坂妹。
だが置いていけと言われ、はいそうですかと言えるほど上条当麻は冷静に物事を考えない。。
今にも過呼吸やら心臓麻痺やらを起こしそうな御坂妹をこの場にたった一人置いていけるはずがない。

その時だった。


「おい、上条とやら。 何だか知らんがその厄介事とやらを片付ければいいのだな?」


上条当麻の背に堂々とした男の声がかかる。

「いやまぁ、それはそうなんだけど… でもコイツをここに置き去りにしていくわけには」

そう背を向けたまま思わずタメ口で都城王土に返事をする上条当麻だったが。


「ふむ。 ならばおまえはその女を看病していろ。 俺の夕餉の邪魔をしたのだ。 これは俺への無礼である」


「…はぁ?」

振り返ると、そこには腕組みをして紅い双眸を光らせる都城王土と“何故か”白い仮面でその顔を隠している行橋未造が立っていた。


白い仮面をかぶってこちらを見上げる行橋未造に向かって都城王土が声をかける。

「そういうわけだ。 いいな行橋?」

「えへへ! 任せてよ☆ ボクは戦闘タイプじゃないし、それに王土の決定に意義をたてることなんてないんだからね☆」

仮面の下では可愛らしい笑顔を浮かべているだろうと行橋未造に向かって都城王土が満足そうに頷いた。

「よし。 それでこそ俺の行橋だ」

ニヤリとそう笑った都城王土に上条当麻の慌てた声がかかる。

「お、おい! 都城先輩! あんた転校生だろ? 場所は判るのか?」

その言葉を聞いて都城王土は振り返らずにこう言った。

「おいおい。 上条。 おまえは誰にものを言っているのだ? 心配いらん。 とはいえ…布束の案内がこうも役に立つとは思わなかったがな」

そう言うと都城王土の足が大地を蹴った。


ドン!と、まるで爆薬が破裂したかのような音と共に都城王土の姿があっという間に消える。

「……うそぉ?」

踏み込んだ足の形でそのままえぐられたアスファルトを見て思わず上条当麻はそう呟くも。
その腕の中にいる御坂妹は懐かしいその言葉を聞いて耐え切れずにポツリとこう呟いた。

「聞き間違えるはずもありません。 布束…それはもしかして、とミサカは淡い期待と懐かしい思いを口にします」
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