都城王土「ほう…。学園都市か、なるほどこの俺を迎えるに相応しい」5


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お互いの目の奥に光るのは既に憎しみや怒りなどといったものではない。
ただ相手を打倒し、己が上であると示すことに躍起になった子供のような自己顕示欲。
そう。言うなればこれは規模こそ違えど子供の喧嘩なのだ。

そして都城王土と一方通行は楽しそうに、心底楽しそうに吼えた。


「その意気や良しッッッ! 往くぞッッッ!!!!」


「上ッ等だコラァァァ! 来いよォォォォ!!!!」


魂を震わせて都城王土と一方通行が己をぶつけあわんと全力を込める。


最強の盾があるのならば、当然最強の矛もあるだろう。
果たして都城王土の拳が最強の矛なのかすらも判らない。
ましてやこれは矛盾であり、なればどちらが勝つかなど推測するのも意味が無い。

しかし、それでも確かなことが一つある。

この一撃が交差すれば、確実にどちらかが死ぬ。
それは絶対の事実であり、誰にも違えることのできない真実なのだ。


絶対致死、一撃必倒、絶対必殺の威力をもった都城王土の力。
接触致死、瞬間必倒、完全必殺の威力をもった一方通行の力。


それは、その力は、その喧嘩は。


「イヤだよ王土ッ! ボクを置き去りにして一体何を考えているのさっ!!」


「絶対ダメッー!ってミサカはミサカは涙で顔をグシャグシャにしながら貴方に訴える!!」


突如乱入してきた二つの小さな影に阻まれ、不発に終わった。
小さな身体である。

拳を握り締めた都城王土の前に立つ小さな影の名は行橋未造。
己の存在意義であり、己の生きる意味を教えてくれた男を止めるため。

両の手を広げた一方通行の前に立つ小さな影の名は打ち止め《ラストオーダー》。
己を救いあげ、己を見殺しにはしないと言ってくれた男を止めるため。

けれど。
その小さな手は。震える身体は。涙で潤んだその瞳は。
紅い双眸を持つ男達の喧嘩を中断するに充分な力を持っていたのだ。


「…行橋」

「…クソガキ」

ポツリとそう呟いて。
今にも破裂しそうなほどに膨らみ、張り詰めた風船がしぼむように男達の気迫が急速に薄れていった。


都城王土は問う。

「…どうやって目覚めたのだ?」

「えへ…えへへ… ボクは王土のことを一番判っているんだ。 催眠ガスを使われそうになったとき、手の中にこれを握りこんでいたのさ」

厚手の手袋を取り、その小さな掌を都城王土に見せつける行橋未造。
その手の上には鋭利に尖った鉄骨の欠片が自身の血に塗れて乗っていた。

「喜界島さんとの一戦を参考にしてね☆ 催眠ガスを克服するには古典的だけどやっぱり痛みが一番みたいだ☆」


一方通行は問う。

「…何で来やがった」

「何でも何も! あなたの代理演算を補っているのは私達なんだからね! あなたの身体に走った痛みという異常を感知してミサカはミサカは病院を抜けだしてきたの!」

よく見れば少女の服はシャワーを浴びたように汗で濡れ、ゼエゼエと荒い息は未だに収まってはいない。
そう、一方通行は都城王土の言葉に引きずられ顎を地面にぶつけた記憶がある。
ただそれだけで、一人夜道を走って一方通行をこの少女は探し回ったのだ。


都城王土と一方通行はどちらともなくフゥとちいさな息を吐いた。

「…おい一方通行《アクセラレータ》 おまえはどうするのだ?」

「…チッ まァ、確かにィ? もうそんな空気じゃあねェなァ…」

戦意を根元ごと引きぬかれたようなこの感覚。
それは自分だけではなく、目の前に立つ紅眼の男も感じているのだと思い紅眼の男は苦笑した。


こうなるとさっきまでの勢いが逆に気恥ずかしく紅眼の男達が静まりかえった中、小さな裁定者達はお互い勝手に自己紹介をはじめていた。


「ウチの一方通行が迷惑をかけてごめんなさいってミサカはミサカは真摯に謝ってみる」

「えへへ☆ 気にしなくてもいいよ。 王土だってきっと途中から楽しんでいたんだしね!」

「あ、それはウチの一方通行もきっと楽しんでいたとミサカはミサカは確信してる!」

「えへへ! まぁ判らなくもないかな? ボクらは自分に似た奴が好きすぎるんだからね☆」

「確かに似てるかも…ってミサカはミサカはこっそり横目で観察しながら同意したり!」

「あ、それとさ。 君、面白いね☆ ボクこんな人は初めて見たよ あ、でも王土ならもしかしてアクセスできるかもしれないなぁ…」

「ふえ? それっていったいどういうことなの?ってミサカはミサカは疑問を発してみる」

「えへへ☆ 秘密だよ☆」

可愛らしい声をあげて活発な情報交換を続ける二人を見て、金髪紅眼と白髪紅眼の男は静かに顔を見合わせる。



「…ハッ かったりィ… おらクソガキ! 帰ンぞ!」

これ以上この場の空気に耐え切れないと言わんばかりに声を張り上げたのは白髪紅眼の一方通行だった。

「ぶー!何それ何それ!せっかく心配してきたっていうのにその態度は何事?ってミサカはミサカは猛烈に抗議する!」

そう口では文句を言いながらも一方通行の隣に立つ打ち止めは朗らかな笑顔を浮かべていた。
あ、そう言えばプリンはプリンはー?とせがむ打ち止めが絶望する答えを口にしながらゆっくりと杖をついてその場を去ろうとする一方通行。
その時、都城王土の声がその背に静かにかかる。

「…おい、一方通行《アクセラレータ》」

「あン?」

そう言って振り向く一方通行に向かって都城王土がクイと顎で地面を指し示した。

「忘れ物だぞ?」

地面に転がってるのは缶コーヒーがつまったコンビニ袋。
だがそれを見て一方通行はハンと鼻をならす。

「…いらね どっかの馬鹿とやりあったおかげで充分目が覚めちまったンでなァ 欲しけりゃあくれてやンよ ってテメエ手握るンじゃあねェ!」

「まぁまぁ 気恥ずかしいのは分かるけど夜道は危ないんだからね?ってミサカはミサカは場合によっては言語能力を没収するといった選択肢をちらつかせながら強引に手を

ひいてあげる」

ふざけんなァァァ!と憤慨しながらも逆らうことのできない一方通行は杖をつきながら少女に手を引かれて今度こそ振り返ること無く闇の中に消えていった。


残されたのは都城王土と行橋未造である。
と、未だ催眠ガスの残滓が残っているのか足元が覚束ない行橋未造の身体がフラリと揺れた。
それを見た都城王土が小さく溜息をつく。

「…行橋。 眠いのならば俺が背負ってやってもよいが?」

「わ! ホント? えへへ☆」

そう間延びした声で言うと子猫のように都城王土の背によじ登る行橋未造。
都城王土にとって行橋未造の体重など小鳥が止まっているような感触である。
故にそれ以上特に何も気にすることもなく、都城王土は路上に転がっているコンビニ袋を見ていた。

試しに背中にむかって声をかけてみるが。

「…行橋」

スッポリと背に収まって目を細めている行橋未造は彼が言わんとすることを察したのだろう。

「うーん… ボク苦いの嫌いだし」

そっけなくそう言うと眠気に襲われたのか、小さなあくびをして都城王土の背中の上で小さな寝息を立てだした。

「だろうな。 さて、これから修道女のところに行くのはさすがの俺でも面倒であるな。 なに、今日は充分楽しめたのだ」

そう言って行橋未造を起こさないように静かに都城王土が歩き出す。

「なに。 中々に面白い。 随分と刺激に満ちている街ではないか。 なぁ行橋?」

背でスヤスヤと眠っている行橋からの返事はないが、それでも都城王土は満足気に闇の中に姿を消した。



■???

中年の男が大声で問いかける。

「何故君達に能力があるのか! 何故君達にチカラがあるのか! 不思議に思わないのか!」

据えた煙草の匂いを振りまきながら[M000]というコードネームを持つ中年の男は大袈裟に両手を広げる。

「もしかしたらだ! 君達はチカラを持つ必要など無かったのかもしれない!」

静かにそれを聞いているのは10人近くの少年少女。

「この計画が達成すれば! この悲願にさえ到達すれば! 君達はその“憎らしいチカラ”に怯えなくてすむんだ!」

その台詞に自ら酔ったようにして[M000]は更に大声を張り上げる。

「そう! 君達は誰かを傷つけることに怯えなくてもいい!」

そう言って懐から一枚の写真を取り出した。
そこに映っているのは宇宙空間とおぼしき場所に浮かんでいる機械の破片。

「これだ! この[残骸《レムナント》]さえあれば! これさえ我等が手にすれば!」

そこまで言って[M000]は言葉を切ってグルリと部屋を見渡す。
そこには己を見つめる若く真っ直ぐで情熱的な視線。

ブルリと快感で背筋を震わせ、[M000]は続きの言葉を口にした。


「判るかね諸君! 君達の悩みは! 解決したも同然なのだ!!!」

少年少女たちの間に広がっていく羨望と感謝と熱意を肌で感じとり、[M000]は満足そうに頷いた。

「そしてだ! 君達は感謝しなければならない! この計画に無くてはならない“大能力者”!」

そう言って[M000]は机の隅に座っていた少女に向かって声をかける。

「[A001]! 君には期待している! 君も“普通”になりたいだろう? 我等と同じく“正常”になりたいのだろう?」

その言葉と同時に[A001]と呼ばれた少女が立ち上がり、頷いた。

それを見て、[M000]は感動したように大きな声を張り上げる。

「これは君がいなければ不可能な任務だ! 君と!私と!君達は! 共に等しく“仲間”なのだ!」

さざ波のように感動がその空間を支配していくのを感じながら[M000]は叫んだ。

「さぁ! 諸君! 時は来た! 今こそ奮起の時なのだ!」

その言葉と共に万雷の拍手が沸き起こる。
少年少女たちの中には涙ぐんでいるものまでいた。
そして、[A001]と呼ばれた少女は。
どのような障害があろうとも、任務を遂行しようと決意の光をその瞳に宿らせていた。


■風紀委員第一七七支部

「[キャリーケース]の強盗事件…ですの?」

訝しげなその声の主は白井黒子。

「そうなんですよー。 犯人は地下に向かって逃走したみたいなんですけど…
 何故か信号機の配電ミスが相次いで警備員《アンチスキル》は身動きがとれない状況らしいですー」

紅茶の本をデスクの横に置きながらそう初春飾利が答えた。

「はぁ… なんだかきな臭そうな匂いが漂ってきますのね…」

そう言われてパァッと初春飾利の顔が輝いた。

「あ! じゃあ紅茶でも淹れましょうか? いいにおいですよー! 美味しいですよー?」

はちきれんばかりの笑顔を浮かべる初春飾利だったが。

「…お断りですの。 なんで貴方は犯人ほっぽらかしてアフタヌーンティーに勤しもうと思えるんですの?」

付箋がいくつもついた紅茶の本をちらりと横目で見ながら白井黒子が呆れたようにそう告げた。
ガーン!とした顔をするのも束の間、すぐに気を取りなおした初春飾利が不思議そうな声を出す。

「うう、今度こそ100点のお茶を出せると思ってたのに… あ、でも白井さん? つまりそれって…」

恐る恐るそう問いを発する初春飾利に白井黒子は薄っぺらな鞄を持って出口に向かいつつこう言った。

「ええ。 今回はお邪魔な金髪の殿方もいらっしゃいませんし? 私一人ならば地下だろうがどこだろうが関係ありませんもの」


■地下街出口・裏路地

「ふぅ…どうってことはありませんわね」

パンパンと埃を払いながらそう白井黒子が呟いた。
地面には黒いスーツに身を包んだ男が10人近く倒れている。

今更言うまでもないだろうが、白井黒子の能力は『空間移動《テレポート》』である。
点と点をつなぐ慣性を無視した三次元の軌道だけでも脅威だというのに。
更にああ見えて有事では頼りになる初春飾利のナビゲーションをもってすればキャリーケースを抱えて逃げようとする強盗犯を補足することなど朝飯前だった。

(ま、朝飯前というか午後の紅茶前といったほうが正しいのかもしれませんが?)

そう心中で呟きながら白井黒子はこちらに向かっているという警備員《アンチスキル》を手持ち無沙汰のまま待っていた。
如何に『空間移動《テレポート》』を使えるといえど、こうまで人数が多いと動くことは出来ない。
この場を離れれば、意識を取り戻したスーツの男達が逃げ出すかもしれないのだ。


.
(そういえば…最近随分とお姉さまがそっけないですの…いったいどうなさったんでしょう…)

そんなことをぼんやりと考えていた時である。
突如肩口に突き刺さったのは鋭い痛み。
更には自らが浮遊している感覚が白井黒子を襲う。

「ッ!?」

完全に油断していたこともあり、受身も取ることが出来ずにペチャン!と痛々しい音を立てて白井黒子が仰向けに倒れた。
肩に刺さり、激痛の元であると主張しているのはワイン抜きだった。

「…これは…随分と趣味の悪い成金みたいですわね」

そう毒づきながらゆっくりと白井黒子が起き上がる。

そこには。

クスクスと笑う少女が[キャリーケース]に座っていた。
肩にかかった赤毛を鬱陶しそうに背中に払いながら。


「初めまして。 風紀委員《ジャッジメント》の白井黒子さん」


本来は年相応の可愛らしい声だろうが、今は随分と意地の悪そうな声がそう言った。


■長点上機学園・放課後

「…すまないけども。 もう一度言ってくれないかしら?」

呆然とした口調でウェーブ髪の少女が今聴いたことの内容の確認を求める。

「うんいいよ! えーっとね、昨日の夜ね、王土とイッポーツーコーって人が戦闘《バトル》したんだ☆」

「……」

ハキハキと元気よく面白そうにそう答えた小柄な同級生の言葉を聞いて、布束砥信は今度こそ幻聴の類ではないのだということを理解した。

「suppose 勘違いとかその辺のスキルアウトっていうわけでは…無いようね…」

この小さな同級生が嘘を言っているとは思えない。
だが、信じられるだろうか?

一方通行。
それは学園都市最強の超能力者であり、“妹達”を一万人も殺した実験計画の中心人物であるのだ。

そのような男と都城王土が相対して戦闘をした?
それならば当然の帰結としてあそこの席、都城王土の席には不在の主を慰めるように白い花瓶が鎮座していなければならない筈なのだが。

その席には金髪紅眼の男が退屈そうに腕組みをしていた。

「thought 何を考えているか判らないだなんて、初めて見た時から理解はしていたつもりだけど…まさかここまでとはね」

どこぞのホラービデオに出てくる幽霊のようにバサリと前髪を顔の前に垂らしてそう布束砥信が呟いた。
その時、布束砥信の机の側に立っていた行橋未造に都城王土の声がかかる。


「さて行橋よ。 そろそろ日も暮れてきたところだ。 今日こそ俺の寛大さをあの修道女達に示してやらんとな」

尊大にそう言って笑う都城王土の元にトテトテと行橋未造が駆け寄っていく。

「えへへ! そうだったね! ボクもう忘れちゃいそうだったよ☆」

仔犬のようにまとわりつく行橋に向かって鷹揚に都城王土が笑う。

「おいおい まったく仕方のない奴だなおまえは」

「えへへ☆ そう言うなよ王土! なにせボクは王土に付き従うんだから、王土が要らないと決めたことをいちいち進言するはずないじゃないか☆」

そう言ってピョンと両足を揃えて行橋未造が布束砥信に振り返った。

「それじゃ布束さん! また明日ねー!」

「え、ええ… よい放課後を…」

そう言ってプラプラと力なく手を振る布束砥信に向かって、何かを思い出したように都城王土も振り返った。


「む、そうだ布束よ。 おまえの案内、悪くはなかったぞ」

「え? あ、ええ… それは良かったわ…」

そうぎごちなく答えることしかできなかった布束砥信だが、その返答で満足したのだろう。
うむ、と頷いて都城王土は行橋未造を引き連れて長点上機学園を後にした。

彼等が向かう先。
それはツンツン頭の少年と銀髪シスターの元である。

先日、彼等と接触したときにぶちまけたコロッケの代わりとなるであろう“ソレ”を持って都城王土と行橋未造は学園都市を歩く。
もちろん、彼等の住所はとっくに行橋未造が端末から“聞き出している”

一人教室に残っているのは布束砥信。

もはや布束砥信にとって彼等は核弾頭のスイッチにも等しい存在である。
彼等が動けば面倒な事件が巻き起こる気がしてならない。

「naturally 出来るならば私は無関係でいたいのだけれど…」

だが、布束砥信のその儚い願いは叶えられることがなく。
その小さな希望は数時間後には容易く打ち破られる。

[残骸]とよばれる物を中心として、都城王土、上条当麻、一方通行、御坂美琴という4人少年少女達がが巻き起こす事件に布束砥信も巻き込まれることとなるのだ。




■常盤台中学学生寮・御坂美琴と白井黒子の部屋・バスルーム

カチャンという乾いた音が響き、そして噛み殺しきれなかった悲鳴が白井黒子の口から漏れる。

「あ…グッ…!?」

ひどく弱々しい声と共に大量の血液がバスルームの床を伝い排水口に流れていった。

(っ… まさかここまでとは… 完敗ですわ…)

先程の音の正体はワイン抜きや黒子の持ち物である鉄矢が硬質タイルの上に落ちたときの音。
それは裏路地で対峙した赤毛の少女に笑みをもって己の身体に打ち込まれたということ。

そう、彼女もまた移動系の能力を持っていた。
いわば同族との戦闘は、一方的に。 白井黒子の身体にのみ夥しい傷と出血を残して幕を閉じた。

雑菌が入らないよう身につけていた服は全て能力で排除した。
そして今、白井黒子はその白く細い身体を血に濡らし痛みに悶えていた。

右肩、左脇腹、右太もも、右ふくらはぎ。

(唯一の救いは鉄矢やコルク抜きといったところでしょうか…)

出血は未だ続いており、その幼くも艶めかしい身体を熱い血が汚しているにも関わらず、ふと白井黒子はそう思う。

傷は深いが、それでも傷の面積に限って言えば非常に小さい。
時間が経って傷がふさがればそれほど目立ちはしないだろう。

白井黒子は中学生という若き身でありながらそんな悲しいことを当たり前のように考えてしまう。


.
(…けれど。 今はそんな事はどうでもいいんですの)

痛みと熱に浮かされながらも少女はゆっくりと立ち上がる。
たったそれだけの動作で新たに鮮血吹き出して白井黒子の身体を濡らした。
薄い胸をゆっくりと伝い、細く引き締まったウエストを滑り、太股の内側を通ってタイルにポタリと音を立てる。

だけれども。今の白井黒子はそんな事は気にしていられない。
今、彼女の脳裏をグルグルと駆け巡るのは赤毛の少女がペラペラと口した言葉である。


【[レムナント]って言っても判らないわよね? [樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》]と言えばさすがに判るでしょう?】

【そうよ。 壊れて尚、莫大な可能性を秘めたスーパーコンピュータの演算中枢】

【あらあら。蚊帳の外って顔ね? 『御坂美琴』があんなに必死になっていたというのに】

【ふぅん… そう『御坂美琴』は貴方に何も言ってないの。 噂通り理想論者で甘い考えをしてるみたいね】


本来なら。

このような事態になった以上、風紀委員《ジャッジメント》の出る幕はない。
素直に大人に、警備員《アンチスキル》に任せるべき話だ。

だが。
“あの人”の名を聞いてしまった以上、そういうわけにはいかないのだ。


.
“御坂美琴”

そう。
確かに、あの赤毛の少女はその名を口にしたのだ。
ならば、ここで自分勝手に痛がって悶えている場合ではない。

白井黒子はここ最近、御坂美琴がやけに気落ちしているのに気が付いていた。
だというのに、それ以上追求をしようとはしなかった。
いくらなんでもプライバシーにまで踏み込むつもりは無いと勝手に自分だけで線引きをして。

その結果がこれだ。
赤毛の少女が言っていたことの内容は悔しいことにいまだ全貌をつかめていない。
しかし、それでもたったひとつ判っていることがある。

このままではお姉様が。 “御坂美琴”が悲しむ事態が巻き起こる。
痛みにひきつり弱音を上げそうになる自分の身体を、ただ意志の力でもって奮い起こす。

手早く傷の処置をして、包帯を巻いて。
下着をつけて。シャツを羽織って。予備の制服に袖を通して。

白井黒子は携帯電話で頼りになる後輩へ連絡をしながら宙へと消えた。


…そして。
白井黒子が『空間移動《テレポート》』をしてから5分程経過しただろうか?

カチャリとバスルームの扉が開く。
そこに立つショートカットの少女はバスルームに篭った鉄臭い匂いに、僅かに血液が付着したままの鏡を見てギリ!と奥歯を噛み締めた。



■とあるマンション

『次回!超機動少女カナミン第13話!
 「えっ? 堕天使エロメイド姿でママチャリダンシング(立ちこぎ)?」
 あなたのハートに、ドラゴォン☆ブレス!』


聞いているこっちが恥ずかしくなるほどのロリータボイスと共にジャジャン!と派手な音をたててTVアニメ[超機動少女カナミン]が終わった。
アニメは番組間のCMが終わるまでがアニメなんだよ!と言いたげにテレビの前でフンフンと鼻息を鳴らしているのは銀髪のシスター。

彼女の名は禁書目録《インデックス》という。
10万3000冊の魔導書という恐ろしい書庫をその頭脳に収めている少女なのだが…
転がり込んだ先の少年の部屋で日がな一日ゴロゴロモグモグといった自堕落な日常を送っていたりする。

そんなインデックスがテレビを見たまま気の抜けまくった声をあげる。

「とうまーとうまー! お腹へったんだよ?」

それを聞いてガクリと肩を落とすのはツンツン頭の少年だった。

少年の名は上条当麻。
その右手に『幻想殺し《イマジンブレイカー》』という測定不能の恐ろしい力をもっているはずのなのだが…
今は周囲の状況に振り回されては貧乏くじを掴んでしまうという何とも可哀想な日常を送っていたりする。

「インデックスさん…よくもまぁヌケヌケとそんなことを言いやがってこんちくしょう!」

上条当麻が肩を落としているのには理由がある。
月一回の超特売セールで一週間分のコロッケを買いだめしたのも束の間、それを一口も口にしないままインデックスがそれらすべてを路上にぶちまけてしまったのだ。


あぁ、不幸だなー…と呟きたくなったが。
ふと上条当麻は思い出す。

脳裏に浮かぶのはインデックスが突っ込んだ男。
金髪紅眼の見るからに偉そうで怖そうな男だった。

「まぁいつもの上条さんならあそこで100%絡まれてるはずですし? 多少は運が良くなってきたってことなのかね? …てゆうかそう思わなければやってられませんよ」

涙ぐましくそう自分に言い聞かせながら冷蔵庫をパカリとあける。
そこにはモヤシが所狭しと並んでいたが、そりゃもう全然嬉しくなんかはない。

「わーい…モヤシがいっぱいで上条さんはもう何も考えたくありませんよ…」

ドラゴンボールの仙豆とかあればいいのになぁ…なんて現実逃避をする上条当麻。
その時、心底驚きました!と言わんばかりの同居人の声がかかった。

「とうまー! とうまー!!」

「…なんの御用でせうかインデックスさん。 お願いですから叫んでカロリー消費しないでくださいってば」

しかし、そんな上条当麻の文句はもとよりこの少女に届くはずもないのだ。

「そんなの些細なことなんだよ! いいからこっちに来るんだよ!」

そう言われハイハイと重たい腰をあげる上条当麻。
向かう先は可愛らしくも子憎たらしい破天荒な同居人の元である。




■学園都市・宙空

太陽は既に沈んでいる。

眩いネオンをその瞳にはしらせながら学園都市を白井黒子が飛ぶ。跳ぶ。翔ぶ。
周りからは点々と見えたり消えたりしてるように映るだろう。

『空間移動《テレポート》』を駆使し、痛む身体に鞭打って白井黒子は赤毛の少女の後を追っているのだ。

ブツブツと電波が寸断される為、途切れ途切れの声が携帯電話からは漏れ聞こえる。

「トラウマ…ですの? …あぁ道理で。 確かに彼女は自らを転移させたりはしてませんでしたわね」

頼れる後輩の情報を聞いて、ビルの外壁を蹴りながら白井黒子がそう答える。

『はい! カウンセラーへの通院リストが確認されています! それより白井さん本当に大丈夫ですか?』

電話の向こうから聞こえる心配そうな声に向かって白井黒子はわざと声を張り上げる。

「大丈夫ですわ。 ほんの掠り傷ですもの。 それよりもまだ赤毛女の逃走予測ルートは特定できないんですの?」

『えっ、あ、はい! 今全力でルートを絞っています! 後30秒もあれば…』

だが、今回に限っては初春飾利の助言は必要がないようだった。


ドゴン!と響く凄まじい破壊音。

聞き慣れた爆発音が大気を震わせたのに気付いた白井黒子がそちらを見た。
モクモクとあがる黒煙がここからでも目に飛び込んでくる。

「初春… どうやらこれ以上予想する必要はないみたいですの」

『え? それって一体どういう意味ですか?』

きっと電話の向こうでは、ほのぼのとした少女が不思議そうな声をあげながら首をひねっているのだろう。
容易にその姿が想像できてつい微笑みながら白井黒子は静かにこう言った。

「さっさと終わらせて帰ってきますから。 100点満点のおいしい紅茶を用意して待っててくださいですの」

そう言うだけ言って。
返事を聞こうとはせずに携帯電話をポケットにねじ込んだ。

見間違えるはずも、聞き間違えるはずもない。
あの音の元にこそ、あの黒煙の元にこそ、白井黒子が探しているその人がいる。

あれこそ、白井黒子が大好きで大好きで大好きなお姉様の“超電磁砲”だ。

「今行きますの! お姉さま!!」

そう言って、白井黒子は再び虚空へとその姿を消した。


■学園都市・雑居ビル

建設途中だったのだろうか?
まるで解体されかかった獣のように鉄骨や内壁をさらけ出したそのビルの前には横倒しになったマイクロバスが転がっていた。

「――ッ! いい加減っ! コソコソ隠れてないで出てきなさいって言ってるのよ!!」

ショートカットの少女の苛立った叫び声と共に小さなコインが空を舞う。
どこにでもあるようなゲームセンターの小さなコインは、しかし凄まじい勢いを持って少女の手から射出された。

爆音と共にビルの鉄骨を易々と引きちぎる“それ”は雷神の戦槌のような破壊力で以て大地を揺らす。


少女の名前は御坂美琴。
七人しかいない超能力者(レベル5)の一人であり、学園都市最強の『電撃使い《エレクトロマスター》』である。
中学二年生にして常盤台中学のエースに君臨する少女を人々は恐れと羨望をもって『超電磁砲(レールガン)』と呼ぶ。


そして今、御坂美琴は怒っていた。
ビルの中には10人近くの能力者が篭っている判っている。
だが、それが何だというのだ。

荒れ狂う彼女を止められる者など学園都市に5人もいない。
静まりかえったままのビルに向かって三発目の“超電磁砲”を撃ちこむかと御坂美琴が思った時だった。

「学園都市最強の超能力者のくせに。 …随分と余裕が無いのね?」

ビルから突き出ている鉄骨の上に赤毛の少女がそう言って姿を見せたのだ。



■学園都市・雑居ビル前

「お姉さま…」

現状の確認と把握のために、今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑えてビルの陰から様子を伺った白井黒子がそうポツリと呟いた。
そこでは御坂美琴と赤毛の少女が相対していたのだ。

「そんなに[実験]が再開されるかもしれないことが怖いのかしら?」

そう試すように。 赤毛の少女が白井黒子では知りえない事を唇に載せる。
そして。それを聞いた御坂美琴は怒りを抑えこむようにして静かに口を開く。

「…ええ、怖いわ。 でもね…わたしはそれ以上に頭にきてんのよ」

御坂美琴の脳裏をよぎるは大量の血液が流れたであろうバスルーム。
血生臭く鉄臭い匂い。
完璧主義者なはずの少女が鏡に飛び散った血痕すら忘れてしまう程なのだ。


421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 12:36:51.63 ID:7ofurvBN0
それはいったいどれほどの苦痛と屈辱と苦難だったのだろう。
だから御坂美琴は許せない。

「あのバカ…私が気付かないとでも思ってたのかしら。 医者にも行かないで、今もまだこの空を飛び回っている救いようのない大バカで。
 その癖きっと!私と明日顔を合わせればなんでもない様に笑う! そんな強がりで! バカみたいな! 私の大事な後輩を!」

ギリと御坂美琴が私怨でもって赤毛の少女を見上げて叫ぶ。


「この私の都合で巻き込んだ! そんな私自身に頭にきてんのよ!!」


放電をその身に纏わせて吠える御坂美琴を見てジワリと白井黒子の瞳に涙が浮かぶ。

「…おねえさまぁ」

だが、しかし今は泣いている場合ではない。
意志の力でもって胸に広がる思いを無理やり抑えこんで、白井黒子は赤毛の少女を注視した。


赤毛の少女は怒りに身を震わせる最強の“超能力者”を見て、耐えられないように呟く。

「…そう。 さぞかし気分がいいんでしょうね。 己の怒りのままにそんな力を奮ってるのだから。
 でもね、悪いけれど“私達”にも貴方と同じくらい退けない理由があるの。 ここで改心して謝る気にはなれないわ」

そう赤毛の少女は笑うが、白井黒子の立つ場所からならば油断無く距離をとろうとしているのが一目瞭然である。
それも当然だろう。
“学園都市に七人しかいない超能力者”という言葉は飾りではない。
赤毛の少女は“大能力者”らしいが、このようなひらけた場所で力を奮う“超電磁砲”に抗うのは無謀にも程がある。


.
その時だった。

「…?」

白井黒子は眉をひそめる。
恐らく御坂美琴の立っている場所からは見えないだろうが、白井黒子の場所からならばそれは舞台裏を覗いたように丸見えである。
ビルの陰でコソリと赤毛の少女の仲間であろう少年が何事かを呟いたのだ。

それを聞いた赤毛の少女はハッと年相応の動揺した感情をその端正な顔に走らせる。

しかし、それも束の間。
御坂美琴を見下ろしながら赤毛の少女が口を開く。

「…貴方も退けない、“私達”も退けない。 ならば“私達”は“目的”を達成させるだけよ。 それじゃあね御坂美琴さん?」

そう言って暗がりの中に逃げこもうとした赤毛の少女に向かって御坂美琴が吠える。

「逃げられるとでも…思ってんの!」

それを聞いた赤毛の少女がどこか苦虫を噛み潰したような顔で、けれど口調は優位を保つようにしてこう告げた。

「えぇ、思ってるわ。 とはいえ“私一人”では無理でしょうけどね」


赤毛の少女の言葉と共に。
一気呵成と言わんばかりの叫びが轟く。
ビルの中から一斉に赤毛の少女の仲間が飛び出してきたのだ。

風力使いが、念力使いが、電撃使いが死をも恐れんと言わんばかりに闘志をその目に燃やし。
“超能力者”に、“超電磁砲”に向かって突撃を開始する。
しかし、それは無謀な特攻でしかない。

蹴散らされ、吹き飛ばされ、地面に転がされ、絶望と恐怖に呻くために走ってくる彼等のことが白井黒子は理解出来ない。

一方的で圧倒的な実力差を見せつけ、完膚無きまでに叩きのめして。
そしてようやく御坂美琴は気が付いた。

「…やられた」

悔しそうにポツリとそう呟く。
赤毛の少女がいない。
たった一つの目的を達成するために、10人以上もの少年少女たちがその身を呈して赤毛の少女を守りきったのだ。


悔しそうな、泣きそうな表情を浮かべた御坂美琴の横顔を遠くから見て。
静かに白井黒子が、己の信念を確認するように口を開いた。

「ごめんくださいね、お姉さま。 けれど、ここからが私の出番なのですの」

赤毛の少女が向かう先など、同じ移動系能力者である白井黒子ならば容易に想像がつく。
ゆっくりと立ち上がると制服のポケットの中から彼女の原点を取り出した。

風紀委員《ジャッジメント》の腕章を取り出して、腕につけ。

「貴方のバカな後輩は。 やっぱりどこまでいっても大バカ者で」

痛覚で悲鳴をあげる頭に無理やり演算を押しこんで。

「けれど貴方の元に帰るためにはやっぱり戦い抜くという選択肢以外頭に思い浮かびませんの」

向かう先は赤毛の少女。
戦場の一番奥深くから生還するために、“お姉様”の隣に立つために。
白井黒子の足が大地を蹴った。


■とあるマンション

「とうまー! とうまー! さっさとこっちに来るんだよ!」

騒がしい食っちゃ寝の同居人の声に引きずられるようにして上条当麻が腑抜けた声をあげる。

「まったくいったいなんなんですかー?」

ふぁ~とアクビをしながらリビングに出た上条当麻に向かってインデックスが震える指でそれを指さした。

「ね、とうま? 私の記憶が確かならば… 猫っていうのはグニャグニャモフモフスリスリだよね?」

「…はぁ? あー…まぁ間違ってはいないだろうけどさ」

何を言い出すんだコイツは?と言いたげな上条当麻の顔を見て、ぷくりとインデックスが頬を膨らませる。

「あらあらどうしたんですかインデックスさん? リスのようにホッペタ膨らませて。 そんなのは食事中だけで充分ですよ?」

そうやって茶化して切り上げようとした上条当麻だったが、それは頭に噛み付かれたインデックスによって中断される。

「むー! 違うもん違うもん! いいからアレを見てってば!」

ガジガジと頭に噛み付いたままのインデックスをそのままにして(慣れ)、言われるがままにインデックスの言葉の先を追って。

「えええええええっ!?」

上条当麻は心底驚愕した。


なんとそこにはピシッと背筋を伸ばしたスフィンクス(三毛猫)の姿が!

「えっと…インデックスさん? 何かしちゃったんですか?」

常日頃ゴロゴログーグーモグモグと誰に似たのか好き勝手気ままに生きるスフィンクス。
それが軍人のように背筋を伸ばして玄関に向かい座っているのだから、そりゃ上条当麻も驚いた。
思わず頭の上にいる少女にそう尋ねてみるも。

「むぅ ひどいよとうま! 私は何もしてないんだからね!」

ガジガジと上条当麻の齧り付いたまま器用にインデックスが返事をする。

「って言ってもなぁ… …おーい?スフィンクスさん? …ごはんだぞー?」

「ごはん? ごはんなの? ね、とうま? ごはん?」

「あーもー黙らっしゃい! 嘘です! 試しに言ってみただけなんです! モヤシでいいなら冷蔵庫にたっぷりあるからかじってらっしゃい!」

普段ならばこのどこぞのシスターに似た食欲旺盛なスフィンクスは『ごはん』と聞けば何処にいてもすっ飛んでくるはずなのだ。
しかしスフィンクスはピクリとも動かない。
一体どうしたのかと不思議に上条当麻が不思議に思った時だった。
上条当麻は勿論、インデックスも知る由はないが、遠い地で誰かが昔こういった。


“動物に人格は通用しない。彼等は圧倒的な力の前にはただひれ伏すばかりである”


その時。
来客を知らせるチャイムの音が上条当麻の部屋に鳴り響いた。



チャイムに答えるようにニャアンと鳴いたスフィンクスを珍しく思いながら上条当麻がドアを開けると。
そこには見覚えのある金髪紅眼の男とどう見ても小さい子供が立っていた。

それを見たスフィンクスが再びにゃおんと声をあげる。

「ほう、猫か。 出迎えご苦労」

まるで自分を待っていたように背筋を伸ばした子猫に向かって金髪紅眼の男が偉そうに声をかける。

「えーっと…いったいどちらさま?」

何だか全然意味が判らぬまま、とりあえずそう問いかける上条当麻の言葉を聞いて鷹揚に金髪紅眼の男はこう言った。

「うむ、俺だ」

「……いや、そういうのではなくてですね」

なんか面倒な事態に巻き込まれそうですよ、と上条当麻が内心嘆きはじめたころだった。

それを補佐するように可愛らしい顔をした子供が口を開く。

「えへへ☆ ボク達のこと覚えてない? 君ってコロッケの人だよね?」

勿論このような強烈な印象の男など忘れるはずもない。
まぁ、上条当麻は他にも随分と突飛な格好をしている人間と出会ってもいるが。

「いやそりゃ覚えてるけど…」

しかし何故この男達はわざわざ家にやってきたのだろう、と上条当麻が頭上にクエスチョンマークを浮かべそうなのを見て、金色の男が言葉を発した。



「なに、俺のほんの気まぐれだ。 俺に非がないとはいえあまりにも哀れに思ってだな」

「は、はぁ……」

ぶっ飛んだ思考回路に周回遅れで置き去りにされたような感覚を感じながら生返事を返す上条当麻。
と、金髪の男がゴソゴソと子供の背負った大きな籠のようなリュックから“ソレ”を取り出した。

「そら、受け取るがよい」

ズイ、と差し出されたのは桐の箱。

「え、えっと…これはまたどうも」

呆けた顔のまま思わずその箱を受け取る。

ズシリと重たい箱の中身など見当もつかなかったが、焼印で刻まれている文字を何となく読み上げてみた。

「えーっと… 本場直送…完全…天然…超高級松坂和牛…特撰肉…3キログラム…?」

普段の生活では悲しいことに全く全然目にすることの無いブルジョアな文字が並んでいるせいか、それを理解するのに1分程時間がかかり。

そして上条当麻はようやくそれらが意味することを、箱の中身がなんなのかに気が付いた。

「あ、あの? あののののののの…? これってもしや、もしかして、もしかすると!?」

震える声で三段活用をしつつも上条当麻がそう尋ねると金色の男は当然だと言わんばかりに頷いた。



「気にせんでいいぞ。 なに、それしきでは俺の度量などこれっぽっちも現せんだろうが、何せそれ以上の物が見つからなかったのでな」

まったくしょうがないものだ、と言わんばかりに苦笑する金色の男を見て。
上条当麻はまさに感涙にむせんでもおかしくないほどに感動していた。

(見たか…見たか神様仏様! 何が不幸だ! この王様っぽい人がついにこの上条さんに恵みの手を!!!)

そう内心で喜びに震えている上条当麻にかかったのはインデックスの声。

「とうまー!!!」

だが、今そんな事に構ってはいられない。

「ちょっと黙ってらっしゃいインデックスさん! 今上条さんはあまりの感動でもう胸いっぱいなんです!」

しかし、インデックスも負けてはいない。

「何を言ってるのとーま! こっちの準備はもう万端なんだよ!」

「…はい?」

振り返れば、そこには座卓の上に焼肉用のプレートが用意してあった。

「なにをボヤボヤしてるのとーま! こうしている間にも刻一刻とお肉の旨味成分が空気中に散っていってるんだよ! そんなのお肉に対しての冒涜なんだよ!」

今にもお茶碗を箸で叩きそうな様子のインデックス。

そして。座卓の上には普段上条当麻とインデックスが使っているものとは別に。 
何故か来客用の茶碗と箸が2つ用意されていた。
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