都城王土「ほう…。学園都市か、なるほどこの俺を迎えるに相応しい」3


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そびえ立つビルの壁に“垂直に立っている”金髪紅眼の男がいた。


.

「まったく。 無粋なことをするなよ女。 俺はもう少しその道化っぷりを楽しみたかったのだが」


ビルの壁に立っているのはもちろん都城王土である。
頭上で腕を組みながらニヤニヤ笑っている都城王土に向かい、スキルアウトが声を張り上げた。

「おっおめー能力者だな!? まさか催眠術!? もしかしたら念動力…いやいや重力操作の使い手かっ!?」

だが、そんなスキルアウトの叫びを聞いて肩をすくめる都城王土。


「ハッ! まったく催眠術とか念動力とか重力操作とか…お前たちバトル漫画やライトノベルの読み過ぎだよ」


「…いやいや。 あんたがそれ言うの?」

おかしなことを言う、と含み笑いをしながら壁に立つ見覚えのある金髪の男に、たまらず佐天涙子は小声で突っ込みをいれる。

「んだとぉ!? 壁に立っておきながらなに寝言ほざいてやがる!!」

思わず佐天涙子が頷きたくなるような、当然の反論を口にするスキルアウトだったが。


「なに、地球は俺にとって小さすぎるのだ ならば地球の重力如きではこの俺を縛ることなど出来るはずがないのが道理だろう?」


返ってきたのはさらに途方も無い大言壮語だった。


「…いやいやいや それこそさ」

「ねーよ!!!! あ! おまえは一体何を言っていやがるんだぁ!?」

思わずハモって突っ込みをいれてしまうスキルアウトと佐天涙子。

どことなく白けたような空気に都城王土は微かに眉をひそめて前言を撤回した。

「…なに、勿論今のは冗談だぞ?
 こんなものは足の握力で壁にしがみつき腹筋で上体を起こしているだけに過ぎない 訓練すれば誰でもできることだ」

「…いやいやいやいや」

もはやどこから突っ込めばいいのかわからないほどの規格外。

スキルアウトに絡まれていた時の数十倍の疲弊が佐天涙子の肩に伸し掛る。

だが、それでもスキルアウトは一生懸命頑張って文句を言い続けていた。
こいつ頑張るなぁと佐天涙子は冷めた目でスキルアウトを評価する。

「うるせえぞ! なに人の上に立ってんだ! 見下してんじゃねえ! 降りてきやがれえ!」

あ、こいつ顔に似合わず意外と上手いこと言った、と他人事のように佐天涙子は心のなかでまばらな拍手を送ってみたり。

「む…なるほど。 俺もまだまだだな。 “王”を引退したとはいえ、つい人の上に立ってしまうという癖がまだ抜けんか」

「…いやいやいやいやいやいや」

誰か突っ込みの役目代わってくれないかなーと思いながら側にいるスキルアウト達を見るも皆一斉に佐天涙子から視線を逸らす。
僕、一般人ですから…と言いたげに壁のシミを数えたり靴紐でもやい結びをして遊びだすスキルアウト達。

そして…都城王土が気怠そうにこう言った。


「さて…お前が降りろと言ったのだ。 心して受け止めろよ?」


その言葉と同時に都城王土の足が軽く壁を蹴った。

「おう! さっさと降りてきやがれ…って ええ?」

当然、身体は重力に引っ張られ宙に浮いた王土の身体は真っ逆さまに落ちる。
その先にあるのは上を見上げたままのスキルアウトの顔面だった。

「グエエッ!」

ドゴン!という音ともに土埃が舞い、その中から憮然とした都城王土の声が聞こえた。

「……俺は受け止めろと言ったはずだが?」

砂埃が収まるとそこには都城王土が仰向けに倒れたピクピクともがいているスキルアウトの上で仁王立ちをしていた。

「す…すいまふぇん… 無理でした…」


数分後、そこにはピシッと背筋を伸ばして正座をしているスキルアウトの面々が!

誰に言われるともなく正座をしてお叱りを待つ子供のように肩を震わせるスキルアウト達。

その中を都城王土が悠然と闊歩しながら言葉を紡ぐ。

「さてと 貴様等も男ならば汚れた服のことなど些事としろ。
 ましてや弁償など前方不注意で食事を中断させてしまったそこの女にするべきではないか?」

「ハイッ! その通りでありますっ!」

「…判ったのならばさっさと行かぬか。 時間の流れまでは流石の俺とてどうにもできぬ」

「ハイッッ!!! 少々お待ちを!!!」

佐天涙子に90°のお辞儀をしたかと思うと駆け出すスキルアウト。

その背中に再度都城王土の声がかかった。

「急げよ? なにせ俺は今、風紀委員《ジャッジメント》の仕事中に抜けだしてきたのだ あまり貴様等に時間を裂く余裕はないのだからな」

「ハ、ハイィィィ!!!」

ダッシュではなく猛ダッシュで路地裏から姿を消したスキルアウトを見てポツリと佐天涙子がこう呟いた。

「えと…これさ、どっちが悪者なんだっけ?」

そんな呟きにいつの間にか側にいた子供が笑いながらこう応えた。

「えへへ! ボクに聞かれてもそんなのわかんないよ☆」


■風紀委員第一七七支部

「まったく貴方という方は! いったい何を考えてらっしゃいますの!!!」

げっそりとした顔のまま白井黒子が大声を張り上げる。
目の前には何食わぬ顔で紅茶を味わう都城王土と行橋未造。

「貴方のおかげで危うく風紀委員《ジャッジメント》がカツアゲをしたなんていう汚点を受けるとこだったじゃありませんの!!」

白井黒子はついさっきのことを思い出して深い深い溜息を吐く。
猛ダッシュでジャンボキングパフェ、ジャンボキングパフェと呟きながら飛び出てきたスキルアウトとすれ違いながら路地裏に入ってみれば。

そこにはスキルアウトに肩を揉まれている都城王土がいたのだ。
その隣には苦笑いで尽くそうとしてくるスキルアウトをやんわりと断る佐天涙子もいた。

いや、それどころではない。

白井黒子が到着したのを見た都城王土が

『む。 随分と遅いではないか白黒』

そう声をかけたのがまずかった。
その言葉を聞いたスキルアウト達の目がギラリ!と獰猛な獣のように光ったのだから。


…結論から言えば。

猛ダッシュでパフェを買いに走りだした男が帰ってくるまで、白井黒子は全力でスキルアウトにもてなされたのだ。


『あ、あの? 制服汚れてますし、こちらでお預かりしてクリーニングしてきやしょうか?』
『バカヤロウ! テメエそれがセクハラだって風紀委員様がだな! お怒りになったらどうする気だぁ!!』
『じゃ、じゃあ靴のほうを磨かせてもらいたく…』
『バカヤロー! テメエそんなの足フェチの俺からしたらだ! それこそご褒美以外の何者でもないだろうがぁ!!』
『なっ、なら! あっしが椅子になりますんでパフェが来るまであっしの上で休むっつーのは!?』
『バッカヤロー! テメエそんなのこちらから金を払ってでもしてもらいたいことだろうがぁ!!』


万事こんな調子で尽くそうとしてくるスキルアウトを落ち着かせるのにどれほど苦労したことか。

路地裏の隅では膝を抱えてガクブルと震えているスキルアウト…恐らく都城王土の気迫に呑まれたのだろう。
アワアワと震えているスキルアウトの話を何故か佐天涙子が聞いていた。


『いやもう自分…ほんとあんな感情初めてで…もうほんと帰りたいっす! 田舎に帰りたいっす! 実家で母ちゃんと一緒に農業やるっす!』
『うんうん…私その気持ちすっごい判るよ。 でもね、いつまでもお母さんに甘えてちゃダメでしょ? ね?』


恐怖に震えるスキルアウトを佐天涙子がカウンセラーのように慰めていたり。

白井黒子にとっては鉄火場よりも余程こちらのほうが阿鼻叫喚であった。
野次馬も集まり写メの音が四方八方から聞こえてくる晒し者の中で、白井黒子はただ必死に時間がたつことだけを祈っていたのだ。


当然、その異様すぎる光景を見た一般の学生が義務として通報したのは言うまでもない。
駆けつけた警備員《アンチスキル》には風紀委員《ジャッジメント》の権力を傘に来たカツアゲなのではないかと疑われ、それを必死になって当のスキルアウト達が否定したからなんとか

大事にならずにすんだのだ。

だが、そんな白井の必死の文句もまるで気にすること無く都城王土が紅茶をすする。

「俺も風紀委員なるものは初めてだったが…あのような輩まで相手にしなければならぬとは露とも思ってはいなかったぞ。
 まったく雲仙二年生の苦労もようやく判ったというものだ」

ちなみに。 布束砥信は厄介な状況になっているのを見てすぐさまその場から逃げ出していたりする。
そして、佐天涙子は。 あたし…とにかく何かもう疲れました、今日はぐっすり寝たいです…と言いながらフラフラと学生寮に帰っていった。

そして諸悪の根源、元凶である当の本人はまるで何事も無かったかのようにゆったりと風紀委員の支部でくつろいでいた。

「む! おい花頭。 今回の茶は上出来だぞ 先程指摘したところを見事改善したな。 俺が褒めてやる」

「わっ! ほんとですかー?」

「へー☆ よかったね初春さん!」

「復習したかいがありましたー!」

キャイキャイと喜ぶ初春を横目で見ながら白井黒子がボソリと小さく呟く。

「……その上出来なお茶とやらを飲み終わったらで構いませんから」

もはや長点上機だの上級生だの知ったことか。
スゥと大きく息を吸い込んで思いのたけをぶつける白井。

「さっさと出ていきやがれ!ですのー!!!」



■学園都市・大通り

ツインテールをブンブンと振り回す少女に強引に押し出され、都城王土と行橋未造とは風紀委員を後にする。

「エヘヘ 出ていけですのー!だってさ☆ 面白かったね王土!」

「うむ。 なかなか気の強い娘だったな。 見ている分には充分楽しめたぞ」

この台詞を当の本人が聞けば、それこそ空中からドロップキックでもかましていただろう。
だが、常識的に考えて空気を読んだり人を気遣うなどといった細微な感覚を都城王土と行橋未造が持ち合わせてるわけもなく。

歩き慣れていないはずである学園都市の大通りをズンズンと我が物顔で歩く都城王土。
目の前の角を曲がれば都城王土と行橋未造が居を構えている高級マンションはすぐ側だ。

そのとき、曲がり角の向こうから声がした。

「かっ返しなさいインデックスさん! その特売コロッケは今週を乗り切る大事なタンパク質なのです! おまえになんか預けてたまるもんですか!」

「アッカンベーなんだよ! もやしチクワもやしチクワのローテーションで私のご機嫌はもうすっかりローテンションなんだよ!」

「わかった! わかったから走らないで! おまえそれぶちまけたりした日にゃあ、もやしもやしもやしのエンドレスローテーションが待っているんだってこと判ってるんで

すかぁ!?」

慌ててふためいた少年の叫び声と、軽やかな少女の声が段々と大きくなる。

そして。
気にせず角を曲がってしまった都城王土目掛けて。
小さな銀髪の少女が。
お約束とはこうであると言わんばかりに突っ込んできた。


.
「ひゃっ!!!」

都城王土が揺らめくはずもなく、一方的にぺたんと尻餅をついたのは修道服を着た幼女だった。

「わ! すごい☆ 往年のラブコメ漫画みたいだね王土!」

「む? おい娘。 走るときは前を見て走るものだぞ?」

面白そうに茶化す行橋未造と、心配している態度は微塵も見せず口だけでぶつかって尻餅をついている小さな銀髪の少女に声をかける都城王土。

「ごっ、ごめんなさいなんだよ?」

慌てて立ち上がりペコリと“両手”を揃えて頭を下げて…そこでようやく少女は気付いた。

「…あれ? 私のコロッケが消えちゃったんだよ? ハッ! これはもしや見えざる魔術師の陰謀かも!?」

キリッ!とした顔をして辺りを見回し始める少女。

そしてようやく気が付いた。

路上に両膝両手をつけてガックリと崩れた態勢をとっているツンツン頭の少年に…である。

「どーしたのトウマ? お腹痛いの?」

トウマと呼ばれた少年は自分の心配をしてくる少女には返事をせずに震える指先で道の先を指さした。

「イ、インデックスさん… あれをどうぞ見てやってくださいな…」


そこには。

ガゴゴゴゴ!と音をたてながら見覚えのある紙袋をそのうちに取り込んでいる清掃ロボ[ドラム缶]があった。

「えっと…トウマ…? あれってつまりどういうことなんだよ…?」

「…エエ。 ツマリデスネ。 先ほど宣言したとおり今日から上条宅はもやしもやしもやしのエンドレスループに突入しますです…」

ガックリと死人のように頭を垂れた少年とアワアワと震える修道服を着た幼女。

「ゆっ許せないんだよ! これこそ機械化した文明の反乱! もはやハルマゲドン勃発上等の勢いなんだよ!」

そう全身で怒りを表現しながら銀髪の少女がドラム缶と呼ばれる清掃ロボにかじりつく。
突然の衝撃を受け、ビイイイイ!という甲高いエラー音をあげるドラム缶。
そして、ドラム缶はかじりつく少女から逃れるかのように唐突に道路の向こうに走りだしていった。

「イ…インデックスさん? あなたは…いったい…なにをやってるんですかぁぁぁぁ!!!!」

悲鳴のような泣き声のような情けない声をあげながらツンツン頭の少年が銀髪の少女を追って走りだした。


声を挟む間もなくコントのようなドタバタに巻き込まれた都城王土と行橋未造は呆れた目でその少年の後ろ姿を目で追う。


しばしの沈黙。
そしてようやく都城王土が呆れきった口調でこう言った。


「…行橋よ」

「なんだい王土?」

そう問われ間髪入れずコロコロとした幼い声で返事をするのは行橋未造。

「さきほどおまえは往年のラブコメ漫画みたいだと言っていたな?」

「うん! 言ったよ☆」

嬉しそうにそう返事をする行橋未造を横目で見ながら都城王土がトントンと指で額を叩きだす。

「…確かに。 普通なる俺の記憶によればだ。 早朝、パンをくわえた美女の転校生と角で衝突するという話は聞いたことがある」

「定番も定番だよね☆ もはや逆に新しいよ!」

あるある、といったふうに行橋未造が訳知り顔で同意を返す。
しかし、都城王土はそれでも不可解な顔をしたままだった。

「だがな。 夕方、コロッケを抱えた修道女が角を曲がってきたかと思えば勝手に転んで走り去るというのはさすがの俺でも未知であるぞ?」

都城王土はそう呆れたような声をだして行橋未造に問いかけるが。

「う、うーん…まぁ最近は手を変え品を変えっていうのが流行りなんじゃないかな? そのうち角を曲がったらヤンデレの腐女子と正面衝突したりしてもおかしくないよね☆


さすがの行橋未造もそれには頭をひねって苦し紛れの返答を返すのが精一杯だった。


「ふむ… まぁ、時勢とはそういうものなのかもな。 わざわざこの俺が考えるほどの意味が無いというだろうさ」

そう言って小さな嘆息を口にした都城王土が帰路に足を運ぼうとした時だった。

「ね☆ それよりもさ! 王土はいったいどうするんだい?」

都城王土ですら思いもよらぬ問を行橋が投げかけた。

「うん? 何が言いたいのだ行橋? 構わんぞ言ってみるがいい」

鷹揚にその先を促すのは都城王土。
行橋未造はそんな王土に朗らかに笑いかける。

「いやさ、さっき王土が言ってたじゃないか☆ 立場は違えど王土が彼等の食事を奪ってしまったことにはかわりがないんじゃない?」

「…む。 俺はまったくもっての被害者なのだが…」

そう言われ、都城王土がわずかに困ったように顔をしかめた。
確かにそのようなことを道化のようなチンピラの面々に言い放った記憶はある。

「『はぁ~これで後一週間はもやし炒めをもやしで巻いたもやしのもやし巻きかぁ…』 ってさっきの男の子が愚痴ってたよ☆」

面白そうにツンツン頭の少年の“心の声”を真似する行橋未造。

「ふむ…それはまた何とも言えんな。 わびしいにも程がある」

都城王土はなんと哀れな少年と少女よ、と言わんばかりに頭を振った。


「えへへ! そうみたいだね☆ ね、王土? どうするのさ?」

そう笑う行橋未造の顔を見て、都城王土は少しだけ考えてから口を開いた。


「…仕方あるまい。 時として俺の懐の深さを示してやるのもまた俺の務めであろうしな」


そう言って踵を返した都城王土が向かう先は住居となった高級マンションではなく学園都市の大通り。

「えへへ! やっぱり王土ならそう言うと思ってたよ☆」

トン!と両足を揃えて都城王土の隣に立った行橋未造が嬉しそうにその顔をほころばせる。

「先刻、布束とやらに聞いた案内が早速役にたったな。 明日にでも気が向いたら俺が褒めてやるとするか」

笑う都城王土と、その隣にぴったりと寄り添うようにして並ぶ行橋未造が再度繁華街の中に足を踏み入れる。
そういえば何故行橋未造が他人の“心の声”を代弁したのかということはこれより先で語るとして。

とにかく。 都城王土と行橋未造は太陽が沈んだ学園都市のきらびやかなネオンの中にその姿を溶けこませていった。


日は暮れて。
時刻は夕方を大きく周り。
真っ白い月が頭上に現れていた。


■第七学区・とある病院

「ゴロゴロゴロゴロー!ってミサカはミサカは退屈のあまりあなたのベッドの上で何回前転が出来るかという無駄な挑戦にトライしてみる!」

「やめろクソガキ! 埃が舞いまくりだろがァ! っつーかヨミカワはどこに行きやがったァァァァァアアアアアア!!!!」

可愛らしい幼女の声と苛立った少年の声がとある病室から漏れ聞こえてきた。

「ヨミカワはね、最近[科学結社]?とかいう外部組織をブッ潰すために現在進行形で頑張ってるんだって!ってミサカはミサカは情報通であることを自慢してみる」

「監督するって言った本人が消えてなにしてやがンだァ! なンで怪我人の俺がわざわざクソガキのお守りしなきゃならねンだよォ!」

「あ、でも怪我人っていっても髪の毛すごい伸びたから手術の跡とか判らないよ?ってミサカはミサカは優しくフォローしてあげたり。
 ぶっちゃけ体内組織のベクトルを操作して肉体の再生を促すだなんて正直反則だよねズルイよねーってことはミサカはミサカは言わないでおいてあげる」

「言ってんじゃねェーか! あと頭蓋骨の亀裂までは修復できてねェんだよ! せいぜい擦り傷やら髪あたりが限界なんだっつーの」

「ゴロゴロゴロゴロー!」

「人に話を聞いといて…… こ、このクソガキがアァあああ!!」

ドタバタと病室の中をふざけまわる幼女と苛立つ叫び声をあげる少年。
事情を知らない者が見れば仲の良い兄妹がじゃれあっているようにも見えたりするが、当の少年はまったくそんなことには気付いていない。

.
少年の名は一方通行《アクセラレータ》。

学園都市に七人しかいない最高レベルの超能力者《レベル5》。
さらにはその七人の序列の中でも第一位。
それはつまり学園都市最強の超能力者ということでもある。

少女の名はミサカ20001号。

通称打ち止め《ラストオーダー》と呼ばれる少女は“とある実験”の上位個体。
その気になればこう見えて一万もの戦力を従えることが出来る謎多き少女である。


彼等はつい先日まで共に生死の境を彷徨っていた。
学園都市の破壊を目論むひとりの科学者の手に攫われた打ち止めを一方通行がその命を賭けて阻止。
その後紆余曲折を経て、経過が落ち着いた頃になってようやく特別集中治療室から一般の病室に移ったのだ。


病室の中でキャアキャアと嬉しそうな悲鳴をあげる打ち止めに向かって手元の枕をぶん投げる一方通行。
打ち止めはそれを意外にも機敏な動きで回避。

だというのにその枕はボフンという音を立てて誰かの顔に着弾。
偶然にも運悪く病室の中に入ろうとしていたのは白衣を着た初老の域に差し掛かった男性。

「うわわっ! 今のは別にミサカ悪くないよ?ってミサカはミサカは即座に責任回避してみたり?」

慌てた打ち止めはふひゅうふひゅう♪と音が出ない口笛を吹いてるようにして部屋の隅に退避する。
白衣を着た初老の男は怒る様子もなくベリベリと顔面から枕を剥がしながらにこやかに一方通行に話しかけた。



「や 調子はどうだい?…って聞きに来たんだけど? どうやら聞くまでも無いようだね?」

「あァ? ンだよヤブ医者かよ? なンの用だァ?」

口汚く罵る一方通行だが、それが彼なりの最大限の歓迎であるということを判っているカエル顔の医者は特に気にすることもない。

「一万ものクローン体を使った並列演算ネットワークによる欠損部分の補填はどうやらうまくいっているようだね?」
 まったく、至近距離から銃弾を頭に受けて前頭葉に頭蓋骨の破片を受けたっていうのにこんなにピンピンしてると僕も嬉しいね?」

そう言われ一方通行はハッと笑う。

「まァそうは言ってもよォ。 せいぜいコイツは通常の言語機能と演算能力を補助する程度がせいぜいだしなァ。 能力者としちゃあもうお役御免だろォ?」

コツンと首に巻いてあるチョーカーを指でたたきながら嘲るように笑う一方通行。
だが、そんな一方通行の自嘲にもにた笑いを気にせずカエル顔の医者は白衣のポケットの中に手を突っ込んだ。

「うん、そうだね? 確かにネットワークで君の能力を代理演算出来るほどの力はないだろうけどさ?」

とはいえ、人間の欠損部分を補うだけで凄いんだけどね?と笑いながらカエル顔の医者がポケットから何かをとりだしたのだ。

「でもさ? 人生何があるか判らないものだと僕は思ってね? 君の代理演算を補う演算補助デバイスっていうのを造ってみたんだよね?」

「…代理演算の補助デバイスだァ?」

そう言ってカエル顔の医者が取り出したのは小さなチップのような電極。

「その通りなんだよね? ネットワークによる外部から補助とこの電極からの内部よりの補助。 ふたつのデバイスがあれば君の能力もまた使えると思うんだよね?」

その言葉を聞いて。 一方通行の顔が引き締まる。


.

「…ってェとアレか? そいつをつければ“また”能力が使えるってェことか?」


「そうだね? けどね、なにせ世界に二つとないチョーカー型の電極でしかも試作品だからね? くれぐれも乱暴に扱って壊したりはしないようにね?」

カエル顔の医者はそう言いながら一方通行の首に巻いてあるチョーカーにカチリと音をたててその電極を埋め込んだ。

「そうそう、それ試作品だからね? 君の演算能力を使えばバッテリーはよくて15分程度しか持たないだろうから絶対に忘れないでね?」

そう言いながらカエル顔の医者が病室から出ていこうとして、病室の入り口で立ち止まった。

「あ、ちなみに今日渡したのはとりあえず使い方に慣れて欲しかっただけだからね? 試運転は明日の予定だから自分勝手に使ったりしないようにね?」

その言葉を最後にカエル顔の医者、“冥土帰し《ヘブンキャンセラー》”という異名をもつ世界屈指の名医が病室から出て行った。


「へー凄いんだね あ、でも何となくお株を奪われたような気がしてミサカはミサカはちょっぴり不満気に口を尖らせてみる」

「ハッ! 言ってろクソガキ」

すげなく毒舌を吐きながらベッドの脇に立てかけられていた現代的なデザインの卜型の杖を手にとって一方通行が立ち上がる。
無造作に放り投げられていたマネーカードをズボンのポケットにねじこみながらである。

「あれ? 何処行くの?ってミサカはミサカはキョトンとした顔であなたに問いかけてみる」

一方通行が何をしようとしてるのか理解が出来ぬまま、主がいなくなったベッドの上に飛び乗った打ち止めの問に一方通行が背中で答えた。

「久しぶりに缶コーヒーでも飲みたくなってなァ。 どうせだからついでに“コイツ”も試してくるわァ」

「えー!?使っちゃダメだって言われてたのにー!ってミサカはミサカは口を尖らせてみる。
 でもどうせ止めても無駄なんだろうし、お土産はプリンがいい!ってミサカはミサカはお願いしてみる!」

「うっせ黙れクソガキ! っつーかよォ! なんであっという間に人様のベッドに潜り込んでんだ! テメエの甘ったるい匂いが布団に染み付くだろうがコラァ!!」

そこには大福のように丸々と膨れ上がったシーツ。
怒鳴られてピョコンと顔だけを出した打ち止めがほにゃと笑った。

「わーあなたの匂いに包まれて幸せかもってミサカはミサカは目を細めてみる!」

それを聞いた一方通行は肩をすくめハンと呆れた笑い声を吐く。

「……やってらンね。 行ってくらァ」

「行ってらっしゃーい! あ、なんかこれ新婚さんみたいで恥ずかしいかも?ってミサカはミサカは頬を赤らめてみる」

このままでは延々このふざけた押し問答に付き合わされる。 そう察した一方通行は今度こそ何も言わずに病室を抜けだした。


■学園都市・再開発地区周辺・路上

月明かりに照らされる夜道を悠然と歩くのは都城王土と行橋未造。

「えへへ! 面白かったね王土! あ、でもあの人達喜んでくれるかなぁ?」

行橋未造はそう笑いながら隣を歩いている都城王土の顔を見上げる。

「当然だ。 なにせこの俺が手ずから選び抜いた逸品だぞ? 喜ばぬはずがないだろう」

愚問である、と言わんばかりに行橋未造の問に肯定を示す都城王土。
暗がりの中を金髪紅眼の都城王土が闊歩する。

闇を切り裂くは紅い双眸。

そして…
いや、ここはやはりというべきか。
出会ってしまったのだ。

そこに立つは白髪紅眼の男。

双方ともに立ち止まり、お互いを見据える。

金髪紅眼の男と白髪紅眼の男が相対する様はまるで不出来な鏡のよう。

無言のまま睨み合う時間はほんの僅かで終わりを告げた。


先に口を開いたのは金髪紅眼の男、都城王土。


「おいおまえ。 誰を見ているのだ。 この道は俺が歩む道だぞ? それ、判ったなら疾く道をあけるがいい」


それを聞いた白髪紅眼の男、一方通行がニマリと笑う。


「あァ!? 悪ィがご覧のとおり怪我人でなァ? …テメエが道を開けやがれ」


お互い決して譲りはしない。
ビリビリと周囲の空気が震え出した。

ややあって、一方通行が気怠そうに溜息を突きながら。
手に持っていたコンビニ袋をガシャリと道の脇に放り投げた。


「まっ、どかねェなら仕方ねえよなァ? ンじゃまァ…テメエでいいからよォ。 ちーっとリハビリに…付き合ってくれよなァァァ!?」


そう言って喉元に手を伸ばし。

“チョーカー”のスイッチを入れ。

軽く足元の小石を蹴り飛ばしたのだ。



そう。
一方通行《アクセラレータ》がベクトル操作をしたならば、それは小指の先にすらみたない小石ですら立派な兇器。
石礫はまるで弾丸のような速度で都城王土の顔面に向かい一直線に飛来する。

が。

都城王土はそれを見て、まるで児戯であると言わんばかりに嘲笑った。

「ハッ! そんなもので俺をどうにかするつもりか? この俺に向かって何たる無礼よ!」

その言葉と共にパン!という破裂音が響いた。
パラパラと細かな砂が都城王土の平手に舞い落ちる。

都城王土は。

肉を裂き骨を砕く弾丸と化した小石を、只一発の平手で以て粉微塵に粉砕したのだ。
都城王土の頬がニヤリと釣り上がる。

「…行橋。 どうやら中々楽しめそうだ。 手を出すなよ?」

そう従者に告げて、都城王土がゆっくりと歩き出す。
全身から噴出する凄まじい気迫は常人ならば失神してもおかしくないほどの圧力ではあるが。

けれども、一方通行が。
学園都市最強の超能力者が。
その気迫に呑まれる筈もない。


.
「あァ~… なんつったかなァ? ナントカ…テーピングでも使ってんのかァ? まっどうでもいいわなァ? 関係ねェンだしよォ?」

ぐちゃりと顔を歪ませながら。
ゆっくりと誘うように円の軌道をとりながら一方通行が都城王土を誘う。

向かう先にあるものは倒壊し瓦礫の置き場と化したビルの跡地だった。

そう。
今現在、紅い双眸をもつ二人の男が立つ場所は再開発地区であり、ここは一方通行にとっては無尽蔵の弾丸が転がっている兵器庫といってもいい。

辺りに転がるは鉄骨、土塊、アスファルト、ガラスなどの無機物という名の兇器。
そして、その中心に立った一方通行は酷く楽しそうにその顔を歪ませた。

「さァーてとォ! ンじゃまァせいぜい“楽しンで”くれよなァ!!」

哂いながら一方通行が拳を振り上げる。
振り下ろす先にあるのはねじ曲がれひしゃげた鉄骨。

ガコンとすぐ側にある鉄骨を拳で軽く叩いただけだったのだが。
数百キロはあるだろう鉄骨がピンポン玉のようにはじけ飛んだ。

当然、鉄の兇器が向かうに立つは都城王土である。
しかし、それでも尚都城王土は笑いを絶やさない。

「クハッ! おい、なんだそれは? 温すぎるわ!!」

その言葉と共に凄まじ勢いで豪脚が放たれた。


ダンプカーが正面衝突したかのような轟音と共に鉄骨の塊が明後日の方に吹き飛び、アスファルトに刺さる。

それをチロリと視線の先で追って、一方通行が歪んだ笑みをして話しかけた。

「…おォ! “中々楽しめそう”じゃねえかァ?」

歪んだ笑みをもって白髪紅眼の一方通行が歪んだ笑みを浮かべる金髪紅眼の都城王土を馬鹿にする。
だが、一方通行の言葉を聞いて都城王土がフゥと小さな溜息を吐いた。

「おい。 この俺に向かって何たる口の聞き方だ。 いい加減に頭が高いことをわきまえろ」

そう言って。
都城王土がゆっくりと一言一句はっきりと。
告げた。


「 平 伏 せ 《 ヒ レ フ セ 》 」


瞬間、一方通行の身体がまるで引きずられるように大地に吸い寄せられたのだ。

「ガッ!?」

ガチンと音を立てて地面に顎をぶつけ、痛みに悶絶する一方通行。

「…おいおい。 たいして痛くもなかろうが? わずかに唇が切れただけで涙ぐんで痛がるとは随分と情けないのではないか?」

ククク、と馬鹿にしたような笑いをこぼす都城王土にピクリとも動けない一方通行が毒を吐く。

「うっせェ! 涙ぐんでねェよ別に痛がってるわけでもねェよ! 二度と味わわねえと決めてた土の味に驚いただけだっつーの!」


そう罵りながら必死になって解析をせんと演算を開始した一方通行だが、その頭脳をもってしても今現在自分の身に起きている現象が全くもって不可解だった。

反射膜は“問題なく稼動”している。
彼にとって“有害”な情報は現在進行のまま全て遮断しているはずなのだ。
だからこそ、この事態は不可解であり不可能であり不思議。

「…ッ!? こりゃまたいったいぜンたいどーゆーわけだァ!? テメエ何をしやがったァ!!」

地面に張り付いたかのように動かない己の手足を呪いながら一方通行が吠える。
そして、それに返事をしたのは従者である行橋未造だった。

「えへへ! なに言ってんのさ? そんなこと相手に教えるわけないじゃん☆」

そんな行橋未造の言葉を遮ったのは他ならぬ都城王土の言葉。

「フン! いいぞ教えてやれ行橋」

「あァ!??」

戦闘において自らの能力をバラすなど、本来は有り得ないことだろう。
そう訝しがる一方通行に向かってニヤリと笑った都城王土が両の手を広げる。

「俺を誰だと思っているのだ? 俺に隠さねばならん自己など“無い”」

そう言うと都城王土は地面に張り付いたままの一方通行でも見えるように右手を掲げた。

パチッ!と小さな音を立てて火花が立つ。



かけがえのない唯一人、唯一の絶対者を見て行橋未造が軽く肩をすくめる。
もとよりこの男の考えることなど、もとより理解の範疇の外にあるのだ。


「まったくしょうがないなぁ☆ これこそ都城王土の真骨頂そのいち! あいつは“人の心を操ることができる”のさ」


そう、行橋未造はとんでもないことを口にした。
その言葉を補足するように、手の内でパチパチと火花を散らせながら都城王土が口を開いた。


「より正確に言えば“電磁波”を発し対象の駆動系に干渉するのだがな」


そう。

それが都城王土の異常性《アブノーマル》。
行橋未造風に言えば都城王土の真骨頂そのいち。

『王の言葉』

電磁波を発し対象の駆動系に干渉すること。
それを都城王土は恐ろしいことに対象の意志すらも無視して支配してしまうのだ。
もちろん、人間の身体には超極小の電気信号が流れていることくらいは一方通行も知っている。

だからこそ、一方通行は気付かない、気付けない。
…否。
気付いたとしても対処の仕様がないのだ。



人間の身体には“すべからく”活動電位とよばれる電気信号が流れている。

脳内の電気信号をミクロな視点で見れば細胞一つ一つに活動電位と名付けられたそれの総称は電気パルスという。

“そして”一つ一つの細胞の電気パルスを個別にいくら調べても“具体的に価値のある情報”が含まれていること“ない”。

そう。 電気パルスを単体で観測しても、それは有害でも無害でもなく、ましてや偽装でもない。

無害である電気パルスが幾千幾万幾億と対象に集中し、組成することでようやく『王の言葉』が完成し実行されるのだ。

つまりそれは“有害”か“無害”かというホワイトリスト方式で反射を設定している一方通行には防ぎようがないということ。

…勿論、それでも反射膜が無効だというわけではない。

『王の言葉』を防ぎたいのならばありとあらゆる外部情報を反射すればよいだけである。

だが、それは諸刃の剣どころの騒ぎではない。

電磁波は音にも光にも空気にも存在している以上、それら全てを反射するということは“生存に必要最低限な情報”すらも反射しなければならないということと同義なのだ。




そう訥々と説明をする都城王土だったが、それを静かに聞いていた一方通行の顔が大きく歪んだ。

忘れてはならない。

学園都市最強の超能力者ということは。
つまり学園都市最高の演算能力を持つ者だということをだ。


「…カカッ! そりゃまたゴテーネーにどうもォ!!」


平伏したまま、一方通行が笑う、哂う、ワラウ。

「けどよォ…失敗だったなァ? それさえ判りゃあ… 打つ手は幾らだってあンだよォ!」

途端、滑るように一方通行が宙に跳ね上がった。

「確かになァ! 有害でも無害でもない電気パルスをいちいち反射なンざできやしねェが!
 だったらその命令とやらを上書きすりゃあいいだけじゃねェかァ!!!」

「…ほぅ!」

動けるはずがない一方通行を見て心底感心したという声をあげる都城王土。

それも当然である。
種明かしをされて何時までも蹲っているほど一方通行は愚鈍ではない。

彼がしたことは重力のベクトルの反射である。
それは意志に反した彼の身体などとは全くもって関係がない。
故に、『王の言葉』は、一方通行の細胞は、動き出した手足から命令が中断されたと判断し無効化されたのだ。


トンと月光を背にして立つ一方通行。
凶悪に歪んでいるその顔に浮かぶのは抑えようのない殺意といってもいいほどの闘争心が浮かんでいる。

その殺意は元をたどれば彼の出生に関係しているのは言うまでもない。

幼い時分ならば誰しもが持つ純粋な殺意。
それは友人や家族と喧嘩をしていくうちに消え去るはずなのだ。

だが迫害され、隔離され、たった独りで幼少時を過ごしてしまった一方通行にとって、いまだそれは胸のうちに息づいている。

そしてそれは都城王土とて同様。
敵には微塵足りとも容赦をしないその激しき気性は胸のうちで燃え盛っている。

「ふむ… “約束”を破ってしまったか。 まぁ悪事を働いている…というわけでもないし仕方あるまいな」

一方通行に対してゆっくりと一歩を踏み出す都城王土。

「この俺は“攻撃を受ける理由がない”から“避ける必要がない”などと言うほど人間が出来ておらん」

ミシリと音をたてて拳を握る都城王土。

「さて? 俺の言葉を克服したからと言ってそれがどうした? 勘違いするなよ? 言葉の重みなど俺にとっては必殺技でもなければ真骨頂でもない」

視線の先には楽しそうに笑っている一方通行。

「荒っぽい手段はとりたくないが…言葉が成立しない以上それもやむなしだな」


その言葉を2ラウンド目のゴングと捉えた一方通行が、兇器の雨を暴風のように操りだした。


戦場の最前線ですらここまで酷くはないのだろう。
身の回りにある無数の瓦礫を弾雨と化し、都城王土に叩きつける一方通行。

そして、都城王土はそれに一歩も退こうとせずに真正面から立ち向かっていた。

「ぬんッ!」

烈火の如く気迫と共に吹き飛んできたコンクリートの塊を殴り壊した都城王土にかかったのは一方通行の愉しげな笑い声。

「ギャハハッ!! どうしたどうしたァ! 荒っぽい手段とやらはまだなンかよォ!! いつになったらこっちに届くんだァ!?」

そう、一方通行の言葉のとおり、都城王土は次第に押されている。
凶器もいらぬ鋼鉄の如き四肢にて、身に迫る全ての飛来物を叩き落とすもそれが限界。

一歩足りとも前に進めない。
むしろその身に未だ傷ひとつ無いことが異常ではあるのだが。

「ふむ… どうやらこのままでは俺でも無理なようだな」

そう言いながら、トンと都城王土の足が地を蹴った。

一蹴りで数十メートル後方にさがる。
そこには巻き添えを喰らわない遮蔽物の影に隠れた行橋未造がいた。

「…王土?」

突然隣に降り立った都城王土の意図が掴めず、不安げな声をあげる行橋未造。
そう。
行橋未造にとって都城王土が苦戦している姿など初めてなのだ。


動揺している視線をその紅い双眸で受け止めて。
都城王土はこう言った。

「どうした行橋よ? その不安げな顔は。 言ったはずだぞ? お前は俺の偉大さと強大さだけに感動しておけば良いのだ」

そう言葉を続けながら、都城王土は行橋未造の服の中、柔らかい素肌をものともせず無造作にその手を突っ込んだのだ。

「えと… 王土? いったい何をしてるのさ…?」

モゾモゾと服の中をまさぐるように動く都城王土の手の動きを当然と受け止めながら。
それでも彼の考えが判らず不思議そうな声をあげる行橋未造。

そしてようやく意図に気が付いて叫ぶ。

「ッ! ダメだよ王土ッ!!」

慌てて服の上から都城王土の手を止めようとするも時は既に遅かった。
ぐらりと行橋未造の視界が霞み、揺れる。

「なん…で…王土…」

シューシューと行橋未造が背負った鞄から聞こえる小さな排気音とともに覗いているのは小さな管。
そこから吹き出されている気体の正体は即効性の催眠ガスである。

コトリと意識を失った行橋未造を見下ろして、都城王土が静かに呟いた。


「行橋よ。 俺が褒めてやる。 仮面をつけていないのは正解だったぞ」


深い深い眠りについた行橋未造を一瞥すると、都城王土は一方通行に振り返る。
追撃が出来たはずだというのにただ静かにそれを見ていた一方通行の肩がゆっくりと振るえ、そして我慢が出来なくなったかのように都城王土を高らかに笑い飛ばした。

「ギャハハハハhハハッ! ンだそりゃァ! お涙ちょうだいってかァ?」

安い三文芝居を見たかのように、まるで“自虐”のように声を張り上げる一方通行。
だが、それを聞いた都城王土は揺らぎもしない。

「ハッ! 俺が同情を誘うだと? そのようなこと天地が逆転してもあり得んな。 なに、俺が行橋を眠らせたのは、ただ単に俺の都合でな」

ゴキリと首を回しながら都城王土が笑う。
そんな都城王土を見て一方通行が眉をひそめた。

「……あァ!? ついに恐怖のあまり頭がイッちまったかァ!?」

しかしその問はお返しとばかりに笑い飛ばされる。

「クハハッ! なに、こうもやられっぱなしの防戦一方などという展開は俺の性にあわんのでな」

その言葉と共にぎしりと拳を握りしめる王土。
それを見て面白そうに一方通行が吠えた。

「なァに考えてンだァ? だいたいテメーは俺に近づくことも出来やしねェじゃねえかァ!」

「当然だろう。 流石の俺でも無傷で貴様のもとに辿りつけるとは思わんよ」

そう言われ、フムと頷く都城王土を見て一方通行が本当に。
とても楽しそうに笑いながら、まるで目の前の男を認めるように試すように両の手を振り上げる。
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